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アスタリア戦記 救済の哀赤  作者: 株式会社マイナーゲームス
5/5

踏み締める鎖 5

盗賊の鎮圧を終えた一行は村人の葬儀を行い帝都へ帰還する。

その道中でフランカの民の生き残りの女について話す。

たとえ単純な話でもお互いの意見の食い違いで深い摩擦を生んでしまう。

「我が主よ。その救済の血でこの者たちの苦しみを洗い給え。我、かしこみ申し上げるは試練を終えた者たちの救いである……」

埋葬する前に司祭の『清め』の言葉を述べる仕来りなのだが、いかんせん長い、小難しい言葉を長々と語る儀式はゼフロにとって拷問に等しい。

「っ……」

「駄目だよ、ゼフロ」

静かに苛立つゼフロをミカエルが静止する。

彼もまた教会に不信感を抱いている。理由としてはメサイア教の仕組みにある。

メサイア教は清めを行う対象は地位の高い人間に尽きる。最早、金を拝む宗教と化してしまっている。

ゼフロ自身は救済魔法を扱えるが教会の人間ではない。彼が『血の清め』を行わずに扱える理由は定かでは無いが、メサイア教への感情は憎しみにも近い。

「……安心しろ、ミカエル。私情だけで司祭に危害を加えはしない」

「……ゼフロ……」

何時にも増して神妙な表情のゼフロに違和感を覚えた。

「今は女神の元へ送る時だ違うか?」

「いつものゼフロと違う。何だか別人のようだよ」

「……いつもも何も俺は俺だ……」

普段なら含みのある笑いで相手を挑発するのが彼だがこの時だけは違った。



「…………」

「…………」

「…………殿下、ご報告致します」

「エカ、どうだった?」

「彼女はフランカの民の生き残りでした」

「……フランカ……」

「気を病むのを承知で申し上げます」

「……エカ」

「彼らの立地は当時、同盟と帝国を隔てたユルガ山脈の一本道となった渓谷に位置しておりました」

「……」

「資源確保為あの渓谷を確保するしかありません」

「あの場は同盟領だった……」

「向こうが勝ってに敷いた境界に過ぎません。『アスタリア憲章』でも『双方の対等議会をもって定められた約条に従う』と書いてあります」

「同盟側が我々に焦り形式上敷いた境界でもそこに住む者たちの自由を侵すことはない筈だ。エカ」

「仰られる通りで御座いますが、戦争、政治が絡みます。第一皇太子、クルドラーデ殿下ご自身が望まれた対談すら武力で返したのはあちらです。帝都で応戦論が決定的に高まった事件です」

「……『ユルガ事件』、『フランカ大制圧』」

「我々の提案を拒んだ彼らが選んだ道です。帝国に通り道を提供するだけであそこまでの事態に発展するなどバカバカしいにも程があります」

「エカ! 私たちにとってはただの通り道かも知れない。だけど彼らにとっては命を賭して守る程、神聖な場所なんだ」

「わたくしは私情だけで組織を潰す程無能ではありませんっ……」


縄で人体に沿うよう縛られ鎖に繋がれた奴隷の女が馬車の荷台に身体をぶつける。

「貴様ぁ!」

「あら、起きたのね。これから帝都へ行くわ。長旅で疲れたでしょ? ゆっくりして行くと良いわ」

「エカ! 彼女への無礼は止めるんだ」

「申し訳御座いません。いつもの癖で」

敵意を向けられるとどうしても煽ってしまう性分だ。

「彼女の無礼を許して欲しい」

「帝国の者が今更謝罪か?」

「言葉の使い方がわかっ……」

「エカ、黙るんだ。ややこしくなる」

エカテリーナの口を塞ぎフランカの女に語りかける。

「あなた方に苦痛を負わせたのは変えられない事実。今更言葉では示せないのは招致しています。今は皇室の者として兄上が与えてしまった苦痛を謝罪します」

エカテリーナが言ったように帝国に通り道を与えるだけで済んだ話だが……

(兄上はご自身の考えで全て推し進めてしまう悪癖がある。彼らの要求に耳を貸さなかった故の惨劇だ)

彼らの態度にも問題があったのかも知れない。だが、それ以上にこちらの問題の方が大きい。大国となったディッカ帝国はその気になれば大陸全て占領出来るだろう。そのような大国だからこそ小国を大切に扱わなければならないのだ。覇者の道へ歩ませぬよう。

(『ディッカ帝国憲章』は支配者にならないようその心得を説かれた書だ)

王国から帝国へ国号を変えた経緯はアスタリア歴紀元前の大陸全ていたメサイア、フリアテを祖に持つ光皇(こうおう)の喪失以降に起こった長き紛争で周辺国がお互いに疲弊し、国家の運営すらままならない状況に陥った七一〇年に当時のディッカ王国へ併合を要請したのが始まりだ。そして現在の帝都はかつての王国時代の領土でもある。

「……今更何を言われても変わらないはしない」

それは死んだ同族たちなのか彼女の心なのか断言出来ない。

それでも彼女の心だと直感で感じる。

「今直ぐには無理なのは承知しております……お互いを理解し合える時間を与えては頂けないでしょうか?」

「……」

真っ直ぐに女を見詰めるエリクリードの目は少年とは思えない程の覚悟を秘めていた。

「…………ヴァルメ……ヴァルメ・リン・フランカ……それが私の名だ」

「感謝致します。ヴァルメ嬢、ディッカの民とフランカを繋ぐ架け橋になることを」

馬車の荷台で縛られた状態で膝立ちになっているヴァルメと同じ高さに屈み込んだ。


(どうです? そちらは)

ゼフロが荷台の屋根の上からエカテリーナへ救済魔法で幻聴を飛ばす。 『問題無い』 と手でサインを返す。

領内の騒動は解決したが全てが解決した訳ではない。だが、今だけは安寧を感じていたい。次は戦場へ向かうのだから……

一章目が終わりました。

一章は登場人物と舞台の説明が主でしたが、いかがでしょうか?

私個人の意見として帝国は文明発展させて来た先駆者のイメージがあります。

現実世界だと他民族の植民地支配を印象されるのではないでしょうか?

ディッカ帝国の場合は周辺国が自ら要請したのが始まりです。

次章は出来次第投稿致します。

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