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有人島物語  作者: 髙田田
有人島物語~春夏の始章~
7/23

第六話 心配の種しかない。でも、それが日常だ。

 廃人眼鏡の言うことにゃ、多くの村々が離合集散繰り返し、それなりにちゃんとした村と呼べるものが出来始めてきたようだ。

 だけど、そこに到るまでには多くの犠牲者が出た。

 筆頭はカリスマ村長。まぁ、これは自業自得だ。

 次点は孤独に耐えかねた人達だ。

 仮初の村でも、一時の安らかな時間を過ごしたことは心に大きな喪失感となって現れた。

 ともすれば俺と翔子の関係も、そんなものなのかもしれない。

 健全な恋愛関係かと問われれば首を横に振るほかにない。

 そんな、関係だ。


 そんな翔子は未だに廃人眼鏡には冷たい。

 でも、翔子の話を聞いた後になってから見ると男性を怖がっているようでもあった。

 男性が怖い、だから攻撃的になる。

 翔子の冷たさは恐怖の裏返しなのかもしれない。

 翔子は手負いの獣だ。心に大きな傷を負った手負いの獣だ。

 そんな翔子が俺にくっついていられるのは、俺が肉布団枠だからなんだろう。

 なんだ、たまには人の役にも立つんじゃないか我が脂肪分よ、褒めてつかわすぞ。

 翔子は何だかんだと言ってシロ様にもよくくっついている。

 丸一年間の孤独な生活は、人肌の温もりを求めさせたようだ。

 でも、廃人眼鏡とは常に一定の距離を置いている。

 冷たい目をして、棘だらけのフリして強がって、心の中では怯えていた。

 もしも、この本心が廃人眼鏡にバレたらどうなるだろう?

 『……ギャップ萌えっスね!!』。あ、大丈夫だわこれ。

 駄目な方で大丈夫なパターンだわ。


 ……な~んてな。

 人の心がそんなに簡単に解るほど頭が良ければ、そもそも引き篭もってないさ。

 正直に言うと、どう転ぶのかが解らなくて怖い。

 翔子は強い心を持っている子だとあの晩までは思っていた。

 でも、本当はとてもとても弱い心を持つ、普通の女の子だったんだ。

 ただ、俺と言うもっと弱い足手まといが居たから、強いフリをして頑張って来れたんだ。

 本当なら俺が守ってやらなくちゃならないのに、俺を守る役目が翔子には必要だと言うジレンマ。

 俺としては夏場に向けて痩せたいんだけどなぁ。

 痩せちゃあ駄目なんだろうなぁ……。

 俺の手は自然のうちに、俺布団の上で眠る翔子の頭を撫でていた。

「ん~? なぁにぃ? やりたくなったぁ? 翔子ちゃんは、いつでも勝負下着だから大丈夫だよ?」

 悪いことに寝つきを起こしてしまった。

 この肉の塊は、何をするにしても一々動作が大きくて困る。

 あと、翔子はたまに金髪ピアスのトランクスの時もあるが、あれもお前の勝負下着なのか?

「頭、撫でたくなっただけだ」

「そっかぁ、わかった。じゃあ、翔子ちゃんがネンネするまでナデナデしててね?」

「あぁ、解ったよ……」


 ………………………………………いや、眠れよ!?

 眠気に逆らって俺の腕を酷使するまで粘るなっ!!

 唇を噛むなっ!! 爪で太ももを捻るなっ!! 素直に寝ろっ!!


 ◆  ◆


 毎晩、毎晩、繰り返される悪夢。

 さすがに慣れて来たのか、悪夢のなかでこれが夢だと気付くようになってきた。

「なんで、俺のことシカトするんだ?」

 勇気を出して尋ねてみたその声は、空気のなかに溶けていった。

 空気の発言だ、空気のなかに消える形がもっとも相応しい。

 起きている時にはもう顔も思い出せないクラスメイトばかり。

 舞台は高校の教室なのに、中学時代の同級生も混じっていた。

 そしてワイワイガヤガヤと楽しそうに皆で『何か』を覗き込んでいた。

 どうせ夢だ、他人に気を配る必要も無い。

 まずは十年分の重いを乗せて~当時、友達だったはずの奴の顔面を殴りつける。

 あとは、蹴って殴って投げ飛ばして、その『何か』を見せない邪魔者達を押しのける。

 そうして夢双しているとラスボスが登場した。

「ぶっ殺すぞ!! てめぇ!!」

 え~っと、コレは誰だったかな?

 確か**くん。うん、まったく思い出せないな。

 思春期特有のチョイ悪系の不良で、とりあえず人殺しの経験は無かったはずだ。

 ぶっ殺す? なんだか安っぽくて笑えるな。

「どうぞ? できるの? お前なんかに?」

 殺すなら、黙ってやれ。

 人を殺すと箔が付く? ただただ気分が悪いだけだったぞ?

 俺の場合は不慮の事故だったけどさ。

「ほら、殺せよ? 男だろ?」

 なんで、十年前はこんな奴等を怖いと思ってたんだろなぁ。

 なんで、こんな安っぽい奴等になんかに。

 なんでなんだろうなぁ?


 目が覚めると、そこはリゾートアイランドだった。

 巨乳の女の子という女体が俺の上に盛られていた。

 匠の技で毎晩、俺を悪夢に誘ってくれる小悪魔の女体盛りだ。

 俺の子が朝おっきして身体をノックをしても目覚める気配が無い。

 昨日は遅くまで睡魔と格闘し続けてたからなぁ……ゆっくり寝かせておこう。

 それはそれとして…………もの凄~くトイレに行きたぁ~い。


 俺は、翔子の過去を知った。

 俺も、翔子に過去を話すべきなんだろうか?

 ……それはなにか、違う気もするなぁ。

 俺が何もしなくても、何も話さなくても、日は昇るし、日は沈む。

 これを三百六十五回繰り返せば……俺は、日本に、戻るのか?

 あの、一人ぼっちの部屋に、また、戻るのか?

 それは、幸せ、なのか?

 それは、ここより、高い、場所なのか?

 ズキリと心臓が痛々しい音を鳴らし、とても嫌な汗が背中を濡らした。

「んー? 鷹斗ぉ? おはよぉ」

「うん、おはよう」

 俺の緊張が伝わったのか、翔子が目を覚ました。

 ……器用な脂肪だな、オイ。


 ◆  ◆


 思えば、俺はシロ様の過去を知らない。

 友達……で、良いと思う廃人眼鏡の過去も知らない。

 このリゾートアイランドに連れてこられる、それだけの経緯がそれぞれにあったはずだ。

 知りたい。知って……安心したい。

 随分と我侭で、身勝手な、臆病者の発想だ。

 十年前、どうして皆が離れていったのか……未だに解らない。

 だから怖い。

 明日、急に皆が俺を空気のように扱いだすかもしれない。

 それは無いことだと思っていても、怖い。

 それは、この島のルールに反していないことだ。

 それに、二人がこの村を出て行くかもしれない。

 シロはこの村に来て、まさしく花が咲いた様にその才能を開花させた。

 廃人眼鏡も今では何でもこなせるオールラウンダーな人材だ。

 自慢じゃないが、どの村に行っても諸手を上げて歓迎される人材だろう。

 二人はワシが育てた、と、口にしたところで彼等は彼等自身の所有物だ。

 恩知らずと罵ることすら出来ない。

 むしろ、過剰に恩を返されている身の上だ。

 おかげさまでこんなに横に立派になって……。


 『二人をどうやってこの村に縛りつけようか?』

 そんな考えばかりが俺の頭の中いっぱいになって……だから口にした。

 俺が変な気を起こす前に、二人が逃げられるように。

「眼鏡、なんで、村を出ない?」

「え? 鷹斗さんまで俺を追い出す気ッスか? それ、酷いッス!!」

 あ、いや、そうじゃないんだが。

 ……インディアン語は難しい会話には向かないな。

 言葉を選んで話さないと。

「他の村、きっと優遇、してくれる。でも、出ない。なぜ?」

「……そッスねぇ~。ここの方が居心地が良いからじゃないッスかね? 温泉もあって、水もあって、食べ物もあって、家もあって、それになにより自由があるッス」

「自由?」

「他の村は違うッスね。アレは駄目、コレも駄目、結構ルールでいっぱいッスよ? そういうのって形にしないと不安なものなんスかね? 俺、息苦しいのは嫌ッスよ?」


 明文化された法が無いと不安。

 明文化された友情が無いと不安。

 明文化された信頼感が無いと不安。

 ……あぁ、俺は馬鹿だな。大馬鹿だ。

 馬鹿が!! そんな不安くらい我慢しろ!! 二十代!!


「何て言うんスかねぇ? 他の村のリーダーは~司令官って感じッスね。キビキビしててアレをしろ、コレをしろって色々と命令出してるッスよ。正直、暑苦しいッス。それに比べると鷹斗さんは……そもそもリーダーなんスかね?」

「不安に、なること、言うな」

「まぁ、そんな感じッスよ。優秀だと解れば優秀なだけコキ使われるのが落ちッス。俺は嫌ッス。急に、どうしたんスか? 何か、不安でも感じたんスか?」

「うん、俺、カリスマ、現在、不足中。正直、村で一番、要らない子」

「カリスマは今まで一度も足りたこと無いと思うッスよ? 鷹斗さんは、司令官というよりも纏め役ッスからね。皆が自由にアレが欲しいコレが欲しいって我侭言ってるのを影から調整してるの、ずっと見てたッスよ? ゆる~いギルマスって感じっス。だから大丈夫ッスよ、鷹斗さんなら」

「カリスマ、無いか?」

「無いッス」

 うん、男らしい即答だ。

「そうか、その通りだ。俺は、勘違いしてた」

 そうね。

 俺のカリスマ、指導力についてきた人間なんて一人も居なかったわ。

 天秤棒片手に海に行きたいと言うから、行かせた。

 石弓片手に鳥を捕まえたいと言うから、行かせた。

 お風呂が欲しいと言うから、作った。

 トイレが欲しいと言うから、作った。

 シロを助けたいと言うから、助けた。

 俺が何を指示するまでもなく、足りないものは皆が教えてくれた。

 そして、それらが足りるように調整した。俺の仕事はそれだけだった。

 俺から何かを求めたのは……温泉探しと塩の備蓄くらいのものか。

 何を気張っていたのやら……肩の力抜けよ、二十代。


 ◆  ◆


「じゃあ、ハネムーンに行ってくるからお留守番よろしく~♪」

「あの、その、行ってきます!!」

 俺が幾つかのご近所村を巡りたいと、たまの我侭を言った時、誰がお供こと子供の面倒見をするかで話し合いが行われた。

 話し合いの方法はジャンケンだった。

 俺は赤ちゃんか何かか? はい、四本足の生まれたての小鹿です。

 ある日、翔子に聞いてみた。

「痩せていい?」

「駄目」

 即答された。

 日々供給されるグルコサミンとコンドロイチンのおかげで、膝の具合は良くなった。

 日々供給される運動量を超えたカロリーのおかげで、膝の負担は大きくなった。

 ……トータルするとマイナスじゃね?

 そんな訳で、一向に改善されない我が道程かと思われたが、思いのほか早く歩けるようになっていた。

 どうやら俺の内部構造はただのデブからアンコ型デブに改良されつつあったらしい。

 そういえば最近、肉布団の質が悪くなったと翔子がボヤいていたことを思い出す。

 気候の温暖化のせいだと思っていたが実際に品質が悪くなっていたようだ。

 肉布団マイスター翔子の言動は正しかった。

 日々、自重という名のパワーリストとパワーアンクルを抱えて生活してるんだ、そりゃ筋肉もつくさ。

 廃人眼鏡はお留守番。

 と言っても、海までジャッキーしながらの気ままなお留守番だ。

 だから途中まではついてきた。

 廃人眼鏡は海へ、俺たちは他所の村へ。

 大きな桃が川をドンブラコッコしてきた場合には、廃人眼鏡が拾ってくれるはずだ。

 ……まぁ、桃がドンブラコッコしてこない方が良いんだけどね。


 一つ目の村は、男性五人、女性二人の七人組で、突然やってきた俺達に警戒感を示しながらも受け入れてくれた。

 デブが一人、女の子が二人、どこに警戒すれば良いのか迷っただろう。

 その村は湧き水を中心とした村で、日々、食べるだけの食料を集めて優々自適に暮らしているそうだ。

 さらに男女が四人でリア充が二組もできて大変お目出たい村だった。

 余った男三人が輪になって「リア充爆死しろ」と言ってたが、マジで爆死する状況下だと乾いた笑いしかでないな。

 そしてその言葉、俺にも向けられてるだろ?

 勘違いするなよ?

 俺は、翔子のものだ。シロ様も、翔子のものだ。

 つまり、リア充は翔子だけだ。

 だから俺に敵意と憧れの瞳を向けるんじゃない。

 まぁ、若い男の中に新しい女の子が二人も入ってくれば下心の一つも湧くわけでして。

 そこで翔子が予防線と言う名の強固なバリアを張ってくれた。

「アタシ達デブ専だから。鷹斗より太ったら考えてあげる~♪」

 シロ様もその言葉に便乗してコクコクと頷いていた。

 ……すげぇ高いハードルを設定したもんだ。この自然界では鉄壁の肉壁だな。

 意気消沈する残りもの三人衆。

 マジで涙を流すんじゃない、男の子。

 あと、尊敬の瞳を向けられても、それはそれで困る。

 期待を裏切って悪いが、俺の体は清らかボディだ。

 そんな中、シロ様がその辺の竹を使って竹篭の編み方を実演して見せると歓声が起こった。

 やはりシロ様の匠の技は素晴らしいな。

 そして何故、翔子が『ワシが育てた』と言う顔をしてるんだ?

 確か、お前の方が弟子だろう? 確か、編み物とかも出来なかったよな?

 うん。この村は、問題無さそうだ。


 二つ目の村は、十三人の男たち。あの、赤い村の村長が村民に降格していた。

 シロ様と目が合うと、二人ともに気まずそうな顔をして目を背けていた。

 この村のリーダーは解る者が解らない者に教える。

 ただそれだけの簡単な緩やかな指導をしていた。

 ただ、大前提である『非生産的な皆さん』の俺たちだ。

 一人一人、教えられることも少ないが、それでもなんとか努力と工夫を重ねて生活していた。

 普通の人達なら三人も集まれば文殊の知恵だが、俺たちは『非生産的な皆さん』だ。

 十三人分集めてようやく一人分の知恵といったところだろう。

 とても不吉な数字だが、義務教育を受けた日本人が十三人の共同体。

 日々の発見を分かち合い、徐々に発展を遂げていく、そんな正しい赤い村がそこにはあった。

 この村は危うい所もあるけれど、おそらくは大丈夫だろう。


 三つ目の村は五十二名。

 なんともまぁ、よく集まったものだ。

 島に連れてこられた二十人のうちの一人はここにいる計算となる。

 リーダーを務めていたのは爽やかな好青年だった。……お前、なんでこの島に来たのよ?

 俺と同じくらいの年齢で……精神年齢は、俺よりずっと上っぽい。かっこ苦笑い。

 日本では陸地に打ち上げられていた魚が、島に来て水を得た魚になったのかもしれない。

 俺も、そうだな。日本ではただのデブが、この島に来てお相撲さんになったんだからな。

 彼はサバイバルについて色々と知っていた。

 元々、それが趣味だったらしい。

 災害ではなくゾンビが現れた時を想定しての知識ではあるが、役に立ったのだから良いだろう?

 答えを知らない人々にとって、答えを知っている人間というのは、とても輝かしく見えるものだ。

 特に、飢えたり、絶望していたりして、心が弱っている時には。

 とりあえず声の大きい誰かが作った村が崩壊し、絶望の中で出会ったのがこの才気溢れる好青年の村だとすると、どれほど輝かしく見えたことだろう。

 そうやって、大きくなっていったんだろうなぁ……この宗教村。

 この村はレッドゾーンを完全に振り切っている。確実に滅ぶな。

 さらには五十二名の幸せを求め徘徊するゾンビを生みそうだ……。

 注意を促しておかないといけないかもしれない。


 ◆  ◆


「シロ様、どう、思う?」

「最初の村が一番だと思います」

「そっか、やっぱり、なぁ……」

 第何回目になるのか解らない寝袋会議。

 地面は固い。固いは痛い。痛いは眠れない。

 クッションのある生活に慣れてしまった俺達に固い地面は非情だった。

 エマージェンシーブランケットを二枚重ねにしたところで、地面が固ければ痛くて眠れたものではない。

 やっぱり文明は人間を弱くするな。一月前はぐっすりと眠れたのになぁ。

 そこで考え出されたのは肉の敷き布団。いつも通りか。

 翔子がシロなら良いよと気前よく貸し出したのだ。俺の意思は何処に?

 最初はこの肉布団めと同衾することにアカ様になっていたシロ様も、三日目には慣れた。

 ……結局、俺がその分、痛い思いをするんだけどね?

「ん~? 何の話ぃ?」

「どの村と、仲良くするかの話だ」

「ん~、じゃあ、一番最初の村かなぁ。一番、幸せそうだったし~♪ はやくアタシも幸せになりたいな~♪ 鷹斗の身体を味わいたいなぁ~♪」

 これが野生の勘か。

 そして生々しい話をしてシロ様をアカ様に変えるんじゃない。

「あ、あ、あ、あ、あの。しばらく~時間を?」

「取らなくて、良い」

「せっかくシロが気を利かせてくれてるのに、いいよ~だ。じゃあ、シロとイチャイチャしちゃおう♪ ウブな娘の柔肌を満喫してやろうぞ、うひょひょひょひょ♪」

「ふぇ? ふぇぇぇぇぇ?」

「止めろ」

 翔子の頭を空手チョップで叩いて止めた。

 リゾートの主催者は空気を読んではくれるらしい、杓子定規に全ての暴力行為が禁止というわけでも無かった。

 スキンにシッペくらいは許された。


 しかし、やっぱりシロ様の意見も一緒か。

 俺たちの現状は、農耕民族ではなく狩猟採取民族だ。

 弥生人ではなく縄文人だと言うことを理解していたのは最初の村だけだった。

 自覚して、自制を心がけていた。

 その上で恋愛にかまけられるほどの余裕と余力を見せていた。

 だから竹篭の作り方を披露した。

 採取の効率性や物資の保存性が上がっても計画的な自制が働くなら問題はない。

 二つ目の村は、文明開化の音がしないため採取の効率が悪く、それが幸い自制と同じ効果となって働いていた。

 ……そして、最後の村は、問題外だった。

 ただ効率的に食料を集める手段を広めただけ。

 結果として生まれるのは五十二名のイナゴ達。

 早晩、近隣の食料を採り尽くしてから間違いに気付くだろう。

 爽やかな好青年の知識に間違いは無かった。

 ただし『一人で』生き延びるための知識ばかりであった。

 褒め言葉に賛辞一つでペラペラと、尋ねてもいない知識を披露してくれた。

 とてもとても参考になる知識が多かった。

 ゾンビ退治にはスネアトラップの大量設置が有効なんだな。

 スネアトラップとは首吊り縄やカウボーイの投げ縄のようなものだ。

 ゾンビの足が輪に引っかかれば縄が絞られ、股関節が脱臼するか足がもげて脅威ではなくなるそうだ。

 片足が機能しない這いずりゾンビは怖くないからな。

 人ならば自分の手で簡単に外せる。でも、知性の無い生き物には外せない。

 いつかゾンビハザードに出会ったときには俺も活用してみたいと思う。


 ……俺も、この島に来て、ずいぶんとしたたかになりすぎた。


 老婆心で食料採取の自制を口にしようかと思ったが、止めた。もう遅い。

 すでに五十二名も集まってしまっているんだ。

 あの村は、いずれ近隣の食料を食いつくし、自己崩壊する。

 採取効率の有無は関係なく自己崩壊する。

 投げた石は落ちる。

 自然環境にむやみに負荷をかければやがて崩壊する。

 外から見れば簡単に解ることでも、中から見ていると中々気が付かないものらしい。

 だから、何処かの村と手を組む。いや、仲良くするんだ。

 俺たちも、何かすでに致命的なミスをおかしているのかもしれない。


 一番目の村で、あぶれもの三人衆に赤ちゃんの話を振ってみたところ、避妊には気を配っているらしい答えが返ってきた。

 一年という限られた時間だ、男と女で下半身事情を満足させる方法ならいくらでもある。

 ……で、なんでお前らがそれを知ってるんだよ? と、言う質問にも答えがあった。

 リア充サイドから、心配するなということで生々しく事細かに告げられたらしい。それは、拷問じゃない?

 そしてその話をしている間中、男四人で前屈みになるあたり、親近感の湧く連中でもあった。

 廃人眼鏡も居れば、五人で前屈みになっていたことだろう。

 シロ様には流石に聞かせられないお話だった。

 翔子は……その手があったか!! と、きそうだから、やっぱり聞かせられないわ。

 女子二人は恋人持ちのリア充女子とお茶会ならぬお水会のパジャマパーティーを楽しんだそうだが、途中、シロ様が真っアカ様になって飛び出してきたあたり、向こうもやはりそう言う話題になったのだろう。

 旅先の夜という空気の中ではそう言う話題になるものらしい。

 女は三人で姦しいんだ、四人も集まれば更にそういうことになるんだろう。

 あの晩は、リア充の男子だけが除け者にされて眠る、不思議な一夜だった。

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