追話 豚と狼と悪魔と女狐
見知らぬ星の下、今では見知った星の下、翔子と隣り合わせに座っていた。
あの微かに光って見える星が太陽らしいが、今現在の座標とはかなり違うそうだ。
「結局、翔子が俺を好きになったのは何時なんだ?」
シロ様には聞いた事があったけれど、翔子には聞いたことが無かった質問をぶつけてみた。
相変わらず攻められる事には弱い翔子だ。真っ赤にした顔をデレデレと隠した。
「聞きたい?」
「聞きたい」
「どうしても?」
「愛してるから、どうしても聞きたい。君の全てが知りたい」
「じゃあ、仕方ないね~♪ 翔子ちゃんの秘密をちょっとだけ暴露してあげよう」
今ではそのもったいぶった演技が照れ隠しだと解るようになった。
「昔々、ある所に一人の豚さんが居ました」
「豚の数え方は一匹二匹だぞ? 大きければ一頭二頭だな」
「……翔子ちゃんの学歴コンプレックスを刺激する豚さんには教えてあげません。ぷ~いっ♪」
……いや、小学生の学習範囲だろ?
あと、ナチュラルに自分の旦那を豚って言うな。
「ごめん。俺が悪かった。俺の上に乗っても良いからお話を続けて欲しいな?」
「しょうがない。優しい優しい翔子ちゃんはそれで許されてあげようぞ♪」
俺の肉布団の上に圧し掛かって、男の肉の味を存分に堪能する翔子ちゃん。
毎日堪能してるはずなのに、よく飽きないものだ。……お互い様か。
「ある日、狼さんが森を散歩していると、悪い狼さんと出会いました」
……いきなりさっきと話が変わったな。
「狼さんは助けてーと叫びながら、傍に居た豚さんを盾にして隠れました」
ひでぇ狼さんも居たものだな。
俺の腹の上に居るのは恐ろしい狼さんだ。
「豚さんはその場から一歩も動かず狼さんの盾になり、悪い狼さんをやっつけてしまいました。その勇気ある豚さんを見て、狼さんはシメシメと思いました」
……既に悪い狼さんが二匹居るようにしか聞こえないんだがな。
「それから豚さんと可愛い狼さんは一緒に旅を続けました。するとこの豚さん、意外にも切れ者だったのです。魚は獲るし、美味しいご飯も作れる、夜には硬い地面から可愛い狼さんを守るために布団にもなってくれました」
……そりゃあ、豚の概念を大幅に越えてるよ。
あと自分で自分を可愛いと、言っても良いぞ。我が妻よ。お前は可愛い女の子だ。
「可愛い狼さんは、せめてものお礼を身体で返そうとしたのに豚さんはお礼を受け取ってくれません。毎晩毎晩誘っているのに、唇を噛んででも耐え忍びました。こうなると狼さんの狼魂に火が着きます!! 絶対にこの豚さんを喰ってやる!! 狼さんは天に吼えてそう誓いました!!」
超展開だな。ワクワクしてきたぞ。
「それから暫くして、豚さんが狼さんを食べない理由を知りました。こんな環境で生まれてくる子供が可哀想だからだって……その時、狼さんは恋に落ちてしまいました。心を食べられちゃいました。……ほんとは、ずっとずっと我慢してるその姿に、ず~っと前から好きになっちゃってました。自分のことより赤ちゃんのことを考えてるなんて、ホントはずっと前から気づいてました」
ただの童貞の甲斐性無し、だったんだけどね。
皆、深読み……しすぎだよ。
「好きになって、好きになって、どうしようもなく好きになって、でも、狼さんは豚さんを傷つけてしまうのです。必ず、豚さんの心を傷つけてしまうのです。きっと、結ばれても、狼さんの傷ついた棘だらけの身体が豚さんの心を深く傷つけてしまうのです。深く深く結ばれるほどに、深い爪痕を残してしまうのです。だ、か、ら、シロと言う名前の邪悪な黒い悪魔に豚さんをお願いしました」
邪悪な悪魔に託すって、それはそれで酷くないか?
普通に考えて、それは生贄だろ?
「すると、何と言うことでしょう魔法使いさんがいつの間にか狼さんの身体を治してくれていたのでした。一度は悪魔にお願いしちゃった狼さんは困りました。すると、あの女狐は半分こしましょう♪ な~んてニコニコ顔で取引を持ちかけてきたのです。そして、可哀想な狼さんは豚さんの半分を女狐に奪われてしまったのです。とってもとっても可哀想な狼さんのお話でした、まる」
……豚さん、超可哀想。涙が出てきそうだ。
あと、シロだったり黒だったり悪魔だったり狐だったり忙しいな。
「じゃあ、お話を聞いたんだから、豚さんの半分を女狐に奪われた狼さんを慰めよう♪ 豚さんのお仕事だよ? 他の人なんてや~だよっ♪」
豚だったり人だったり俺も忙しいなぁ。
無限ナデナデかぁ……満足、いや、満腹と言う言葉をこの狼さんは知らないからなぁ。
マッサージには揉み返しがあるけれど、頭を撫でて、全身を我が脂肪分で包まれる感覚には際限がないからなぁ……。
俺の腕が攣るか翔子が眠るまで、ずっと続くんだよなぁ……この幸せが。




