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有人島物語  作者: 髙田田
有人島物語~秋冬の終章~
22/23

最終話 冒険者達へ ~有人島物語~


 相変わらずの真っ白な部屋は、チカチカして目に悪かった。

「談話に応じていただき、ありがとう御座います」

「前回とは、逆の立場になるとは想定外でした」

 宇宙人さんは、俺からの要請に応えて談話に応じてくれた。

 白い豆腐一丁の宇宙船の中、WとZを組み合わせた宇宙人さんは紳士的に対応してくれた。

「ご用件は、何なのでしょうか? 首もとの通信装置では話せないことだと言う事ですが?」

「えぇ、首もとの通信装置では貴方がたが話せない。本当の人類保管計画についてお尋ねしたいのです」

「……お気づきに、なって、しまわれたのですね?」

「はい、お気づきに、なって、しまわれたのです」

 もう、引き返すことの出来ないお豆腐の宇宙船の中だ。

 もう、話しても構わないはずのことだと思った。

「人道派の試算では84%の確率で人類は生き残る予定でした。しかし、我々の試算では16%の生存率しか見込めませんでした」

 加算すれば丁度100%だが、そういう計算ではないからなぁ。

「さらに言えば、島での観測記録を加えると閉鎖空間内での人類生存の確率は4%でまで落ちこみました。……どちらが本命と言う訳では無いのですが、貴方がたの移民計画はフェイクです。人道派の目を欺くための大規模な陽動作戦でした。もちろん、約束どおりに他惑星上での居住環境の提供やその他の保護は保証しますし、全面的な支援もいたします。本当に、どちらが本命と言うわけでもないのです」

 宇宙人さんが言うのだ、そうなのだろう。

 ただ、一つの石で二つ以上を狙う凄腕の狙撃を見せたのだ。

 しかし、4%って低すぎるだろ? 人間もシェルターもそんなに弱くないぞ?

「続けて、いただけますか?」

「隕石の落下地点、日本の位置、貴方がたが選ぶであろう島の位置、そして融通できた金銭、時間的猶予、それから閉鎖空間内での調和のとれた社会生活の実体験。それらを統合した結果、地球上で人類が生き残る試算は64%まで上昇しました」

 なるほど、これが違和感の正体だったのか。

 既に完成された強くて偉い人ばかりを集めたシェルターは、むしろ硬くて弱いんだ。

 出来損ないの軟弱者達が手を取りあうパオもどきこそ、しなりを帯びて強かったんだ。さすが竹さん。

 地球の冬が何十年、何百年続くのか解らないが、外の世界の三角形を持ち込んだ時点でそのシェルターは終わりを迎えるだろう。

 人は強い、だけど、そんなに強くない。

 世代が変われば尚更だ。閉鎖空間内で支配構造? 自殺行為だ。

 その冬は何十年、何百年続くか解らないんだ、能天気じゃないとやってられないよ。

「閉鎖された空間内で起きる、イジメ、という事象。人間が人間の上に立とうとする欲求。人間が人間を蹴り落とそうとする欲求。そう言ったものは自ら活動する環境を悪化させる要害なのですが、こういった行動をとる人類の行動理念は我々には理解し難いものであり、人道派の派閥はこれをパラメータとして計算に入れていませんでした」

 ……解る。

 解ってしまう。

 俺はイジメられっ子としてエキスパートだからな。

 日々、二人の妻からも愛のあるイジメを受けてるしな。

 息子と娘も可愛い力で俺の指を掴んでイジメて泣かせてくれる。

「さらに付け加えるなら、現在は64%を示す確率ですが、これは現行で上昇中です。閉鎖空間内における人的環境の悪化要因とその対処法の研究が進められています……これも想定外でした。貴方がたには悉く、我々の予想を覆されました」

 黒崎のお義父さんや教授の方々が己の分野を越えてノリノリでやってるからな。

 あと、ウチの父さんも役に立ってるのかなぁ? ちょっと心配だ。

「貴方がたには我々は理解できません。我々には貴方がたを理解できません。人道派の試算が正しいのか、我々の試算が正しいのか、その結果は二百年の後に解ることでしょう。……これは私個人の私見ですが、きっと、双方が大外れした結果を貴方がたはもたらすことになるだろうと予測しています」

 確かにそうだ。予測不能と結論付けながら予測する意味があるのかね?

 ……しかし二百年、か。

 俺の『動かない』の不動の精神でも十年が限界だぞ?

 地球に残った皆よ、今はあくせく働いて、蟻さんのように能天気に長い冬を過ごしてくれ。

 俺は……キリギリスみたいに新天地で能天気に暮らすからさ。……ごめんちゃい。膝が、ね。


 俺の良く知る人間のなかでは、ゾンビ王子、童貞二人衆、赤い村の元村長がこの豆腐には乗っていない。地球に残ったのは男ばかりだった。

 彼等は約束した。必ず、人類を、生き残らせて見せると。

 だから、きっと、生き残るはずだ。彼等が命懸けで作り上げる有人島なんだ。

 隕石の一つや二つで滅びてやるはずがない。たかだか二百年の冬で滅びてたまるかっ!!

 俺達の駄目っぷりを舐めるなよ!! いつだって宇宙人さんの予想を上回ってきたんだからなっ!!


 ◆  ◆


 弱弱しい力、とても可愛い力で俺の指先を握る秋斗と雪音を前にすると、自然に涙が出てしまう。

 一人、安全な場所に逃げてしまった気がして、自然に涙がこぼれてしまうんだ。

 ……彼等は彼等の冒険に出た。ただ、俺は抱えた物が多すぎて、ついて行けなかった。だから、涙をこぼすことしか出来ないんだ。

 神に祈ると保護の対象から外されちゃうしね。宇宙人さんも意地悪だな。

 ……頑張ってくれ、皆。

 俺も、頑張るよ……。


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