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有人島物語  作者: 髙田田
有人島物語~秋冬の終章~
13/23

序章 人類保管計画

 さて、後半戦の始まりです。

 命綱も安全帯も無い、細い細い綱渡りの開始です。

 君は生き延びる事ができるか?>高田

 そこは、真っ白な空間だった。チカチカしてて目に悪い。

 島の生存者、五百七十三名の代表者として俺が対話の場に招かれた。

「お招きに応じていただき、感謝いたします」

 目の前の、なんと表現したら良いのか解らない物体Xが紳士的な挨拶をしてきた。

 宇宙人さんの船の中、俺は物体Xこと形状的にはWでZな彼(?)に談話を求められたのだ。

「なんで、俺なんだ?」

 談話するのは良い。

 問題は、インディアン語でこの談話の内容を皆に伝えられるか心配なことだ。

 インディアン嘘つかない。でも、インディアンの言葉、皆は訳わからない。

「貴方が、島の中で最も生産に貢献し、島の中に最も適応した人物だからです。我々にとっても予想を大きく外した結果になりました。本来ならば貴方の適正度は島内で最下位だった筈なのですが、我々の予想を貴方は完全にくつがえしました。我々の予想が完全に覆された、それは我々の知性を超えたものを貴方が持っていたということです」

 ……あぁ、宇宙人さんにすら我がメタボちからの偉大さは解らなかったのか。

 時には敵に、時には味方に回った我が体脂肪の底力は宇宙人さんの頭脳すら上回ったらしい。

 地味に凄いぞ体脂肪。お前こそがチャンピョンだ。

「どうして俺達を攫ったのか、その理由くらい教えてくれるんだろうな?」

 彼等が単純に、俺達の更生を目的としていたとは思えない。

 彼等は暴力を禁止したが、それ以上のことは殆ど何もしなかった。

 俺達は勝手に立ち直ったんだ。傍観し続けた宇宙人様のおかげではない。全て俺達自身のおかげだ。

 リゾートアイランドへの御招待には感謝するが、事実として四百人以上が死んでいる。

 もしも俺達の更生を目指すのならば、もっと効率的な手段を彼等は持っていた筈なんだ。

「……今から三十年後、地球に小規模天体が衝突します。人類はその災害を未然に防げるかもしれませんし、防げないかもしれません。衝突の後に生き残るかもしれませんし、生き残れないかもしれません。ですから、人類文明のサンプルとして貴方がたを保存する計画でした」

 なんですと!?

 いきなりの超展開にビックリだわ。

「……その隕石の衝突を、アンタ達なら未然に防ぐことが出来るんじゃないのか?」

「可能です。技術的には簡単なことです。ですが、それは我々の倫理観において許されないことになります。人類の道は人類が選ぶものであり、そして、人類が滅ぶことにより次代の知的生命体が発生する可能性もありますから」

 傍観者であり観察者。

 この宇宙人さんがリゾートアイランドの主催者であることは間違いないようだ。

 これから地球で起きる不幸な宇宙的な接触事故についても傍観と観察を続けるのだろう。

「希少動物、希少文化の保護、それが目的なのか?」

「はい。我々が『非生産的な皆さん』を選んだのは、災害への対応力を下げないためです。これが、我々の倫理観の許す最大限の譲歩でした。皆さんが地球を去ることによって、むしろ対応力は向上したはずです。違いますか?」

 ……耳に痛すぎて返す言葉が無い。

 足手まといを抱えたままよりも、足手まといが居ない方が隕石にも対応出来るだろうさ。

 宇宙人さんも、己の倫理観と感情の板ばさみで苦しんだのだろう。

 最も人類に迷惑をかけない方法を選びながら、人類そのものを簡単に見捨てるその姿勢、人間には理解できない倫理観なのだろう。

「予定では九百八十名以上が生き残る計画でした。ですが、その予想を大きく上回る被害が出て計画の頓挫を我々は危惧しました。しかし、それを食い止めたのが貴方です。我々は貴方に対し大きく感謝しています」

 ……やっぱり頭の良い宇宙人さんには『非生産的な皆さん』の駄目具合を計り切れなかったようだ。

 想像外、想定外のトラブルの連続で九百八十名以上生き残るはずが五百七十三名にまで数を減らした。

 大人には子供の絵が書けない。大人には子供の心は解らない。駄目人間は子供より予想がつかない生き物だ。

 宇宙人さんは頭が良すぎて馬鹿の気持ちが解らなかったんだろうなぁ……。

「これから俺達はどうなるんだ?」

「選択肢は二つ用意いたしました。まず貴方がたを一度、地球にお帰しいたします。その上で、新しい惑星に移住をするか、地球に残って生活を続けるかを選んでいただきたいと思います。選択の期限は一年を目処にして考えています」

 随分と、優しくて残酷な選択肢を提示してくださるものだ。

 未開の新天地で生涯を終えるか、巨大隕石で人類諸共に心中するか究極の選択だ。

「新しい惑星での生活は島内よりも更に生存しやすい環境を保証します。島内とは違い、我々の全面的な支援も保証します。まずは、数を増やしていただかないとなりませんから。人類保管計画に参加していただける対価とお考えください。おおよそ二千年をかけて人類の数を増やしていただき、それに伴い病原菌や野生動物などの種類を我々は増やしていきます。そして最終的には現在の地球に似せた環境を再生する計画になっています」

 産めよ増やせよ地に満ちよ。

 今度はベリーベリーイージーモードから始まって、世代を重ねるごとに難易度が上がっていくシステムか。

 少なくとも、俺達の世代ではベリーベリーイージーモードが保証されるんだろうな。

 しかし、二千年間の保護と惑星を丸々一個の提供。

 そこまでする価値が俺達にあるんだろうか?

「人類が、隕石の激突を避ける確率を聞いても?」

「………………我々の試算では、ほぼ0%です。まず、近づきつつある小規模天体を発見したとしても衝突する『かもしれない』という精度でしか人類の科学力では測定できないでしょう。そして『かもしれない』確率のために人類が一致団結することもありません。ゆえに、回避の確率はほぼ0%です」

 ははは、この宇宙人さん、人類のことを良く理解してらっしゃる。

 ぶつかる『かもしれない』巨大隕石のために誰が巨額の資金を支払うのか?

 確実に衝突すると判明した時点では既に人類の科学による対応は不可能な距離になっているのだろう。

「地球に帰還後、この話を公表なさっても構いません。それでも人類が対応できる可能性は1%を満たすことはないはずですから」

 これが、宇宙人さんの倫理観が許すギリギリのラインの譲歩。

 宇宙人さんは実に良く、人類と言うものを解ってらっしゃる。悔しいほどに解ってらっしゃる。

 たった五百七十三名が三十年後に巨大隕石が衝突すると大騒ぎしても、ただの電波さんの集団だ。

 でも、それでも0%を示す針が、ほんの僅かだけど1%に近寄るのだろう。

「しかし、人類を生存させるために惑星を丸々一つ提供だなんて、ずいぶんと気前が良いんだな?」

「……その答えは、貴方自身にあります」

「俺? 俺自身?」

 この脂身のどこにそんな価値が?

 フォアグラ的な価値か? 霜降り的な価値か?

 まさか宇宙人さんはデブ専なのかっ!?

「貴方は我々の予測を大きく覆しました。つまり貴方は我々の知性を大きく超えた特異な事象です。そのサンプルの保護のためであれば惑星環境の改造くらい安いものなのです。貴方がたの行動は常に我々の予想を大きく外れました。それは一つの可能性です。我々には気付けなかった『何か』に貴方がたが気付くかもしれない。その『何か』の発見のために我々は貴方がたを保護し、保存する計画を実行しています。全ては我々自身のための計画だと申し上げます」

 頭の良い人には頭の良い発想しか思い浮かばない。

 頭の悪い人には頭の悪い発想しか思い浮かばない。

 そして俺たちは頭の悪さを求められている。

 これは、褒められてるんだか貶されてるんだか。

 しかし、この脂身が人類という種そのものを救うとは……我が脂肪分よ、お前はノーベル人類賞をダース単位で貰って良いぞ? グロス単位でも足りないかもな?

「我々は貴方がたを知的生命体として認めています。自由意志による選択の自由も認めています。自由意志に反し、強制的に島へ連れ出したことには謝罪を申し上げる他ありません。我々の計画の甘さにより多くの犠牲が出たことにも謝罪を申し上げる他ありません。その上で、移住の是非を貴方がた個人の自由意志に委ねたいと思います」

 一年経った今では、宇宙人さんの手抜かりと言うよりも俺達自身の無能で死んだ気がしてならないけどね?

 謝罪すると言うなら受け取るよ。俺たちの駄目人間っぷりが想像以上だった、それだけのことだ。

 どちらかと言えば自業自得な気がするから、宇宙人さんにも申し訳ないことをしたなぁ……。

「では、移住に際しての注意事項を申し上げますので、他の皆様にもお伝えください……」

 ははははは、宇宙人さんよ。

 この一年間、この俺を見て何を学んだんだ?

 この俺に皆に伝えろとか、なんて無茶を仰るんだい?


 注意事項は簡単だった。

 まず、他惑星に移住するからといって地球上で重大犯罪を犯さないこと。

 期限となる一年間の間であれば、移住の是非を自由に切り替え可能であること。

 地球上での暮らしが厳しいのであれば、即時保護を受けられること。

 そして、首パンッはもう無いとのことだ。

 宇宙人さんは衣食住に満ち足りた島内でこの機能は使われないだろうと想定していたらしい。

 そのため改良を施し、今後は暴力行為の抑止力としてスタンガンのように電撃が走るだけになったそうだ。

 あとは首の装置は通信装置としても働き、島の住民以外にバレないようになら宇宙人さんと個別に相談が可能であるとのこと。

 その他のことでも極力協力を惜しまない大厚遇だそうだ。

 注意事項は簡単だった。

 そう、注意事項は簡単だった。問題は、その伝達だ。

 ……なぁ、宇宙人さんよ?

 アンタ達、一年間、俺をずっと観察してきたんだろ?

 たったこれだけのインディアン語を翻訳してもらうために三時間以上掛かるって解らなかったのか?

 本当に頭が良いのか早速不安になってきたぞ? 宇宙人さんよ……。


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