第弐話「ある人間と人間(?)の噂話」
『表世界』の住人は、『表世界』を『こっち』と呼び『裏世界』を『あっち』って言います。
とある日の昼下り、沢山の人々が行き交う駅前の噴水広場に誰かを待つ[輝]の姿がありました。
(沙羅さん、遅いな。どうしたんだろ?)
しばらくして、駅構内から慌てた様子の沙羅が輝の元に走ってきた。
「ごめんね~休日で混んでて電車に乗り遅れちゃったの。」
「大丈夫ですよ。えっと、どこに行きますか?」
「まず、ご飯食べに行かない?待たせたから奢るわよ。」
「いいですよそんな。仕方の無い事だったんですし。」
「良いの良いの。さあ、行きましょう。」
輝は沙羅に手を引かれ、デートをしに町中に連れていかれた。
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駅からそんなに離れていない所にあるカフェに入った二人は楽しく話ながらランチを楽しんでいた。その時、向かいにあるビルのテレビからニュースが聞こえてきた。
【時刻は午後1:30、ニュースをお伝えします。先日から行方不明となっている[佐藤議員]と[山田議員]は未だ見つかっていないそうです。警察は目撃情報を募集しており、早期発見に努めていると申しています。それでは、次のニュースをお伝えします...】
「そう言えば、沙羅さんって『もう1つの世界』の噂って知っていますか?」
さっきのニュースを聞いた輝がそう切り出した。
「『あっちの世界』の噂は沢山知ってるわよ。」
「じゃあ、『こっちの世界』の偉い人が『あっちの世界』を乗っ取ろうとしてるんじゃないかって噂は?」
「もちろん、知ってるわ。あっちに居てもこっちに居ても、その噂は耳に入るのよ。」
「確か沙羅さんって、あっちとこっちを行き来する機会が多い仕事に就いているんでしたっけ?」
「ええ。こっちでは『人間じゃ無い奴は悪い事ばっかりする。』しか聞かないし、あっちでは『人間とうまくやりとり出来ない。』ってよく聞くの。ほんと、嫌になるわ。」
そう言った沙羅は気分を落ち着かせるためにコーヒーを一口飲んだ。
「そうなんですか。やっぱり『あっちの世界』とこっちって仲が悪いんですね。」
「まぁ、良い事をする奴もいるけど隠されるのよね。」
「それも、乗っ取り計画の一部なんでしょうか。」
「真実を知ったとしても、どうこうできる問題ではないわ。さて、次のお店に行きましょう?私達、デートしてるのよ。暗い雰囲気ではデートできないわよ。」
「そうですね。行きましょうか。」
二人はカフェを出て、町に繰り出して行った。