二十二時三十二分
一夜明けた、四月十六日午後六時頃。
俺は、ベッドで寝ていた。
見知らぬ天井と、ベッドの枕元にある名前の入ったマッチが、ここをホテルの一室であることを教えてくれた。
テレビでは、昨日のことがニュースとして流れていた。
ビルの間で発見された、頭のない高校生の死体!暴力団の抗争に巻き込まれた哀れな被害者なのか!?
そんな見出しで、夕方のニュースで取り上げられたいた。
この頭のない死体について、俺は知っている。
あれは、畠瀬公彦、俺の目の前で殺された、昨日の事件の被害者だ。
しかし、不謹慎かもしれないが、そのニュースを見て、俺はあらためて生きている実感を感じていた。
昨日の夜に起きたことから・・・。
話は再び、倉庫の前まで遡る。
弁財の追撃がら逃れ、なんとか目的地の倉庫の前にまで、辿り着くことが出来た。
ここまでくれば、あとはこの加奈を引き渡せば仕事は終了、晴れてこの街ともさよなら出来る。
胸を撫で下ろしているのは、どうやら俺や冬司だけではなく、加奈が一番なのかもしれない。
得体のしれない奴らに、狙われることは、一般の女子高生からしたら初めてのことであったに違いない。
その証拠に、フードで隠されてはいるが、心なしかほっとした表情が感じれた。
とにかく、あと少しで終わる。
ところで、指定されたのは倉庫ということだが、どうすればいいのだろうか?
その辺については、冬司も聞いていなかったらしく、とりあえず倉庫の中に入ることにした。
指定された倉庫を開けると、中は暗く何も見えなかった。
「誰かいないのか」と声をかけたが返事がない。
てっきり、この倉庫に依頼人なり、引き渡す相手がいるものと思っていたので、少し警戒をした。
もしかしたら、すでに木刀の女なり、あの異常者の弁財によって、亡き者にされているかもしれない。
とにかく、明かりを点けて確認するしかない。暗い倉庫の壁を、手探りで電気のブレーカーを探す。
程なくして、ブレーカーが見つかり、蛍光灯と特有の眩しい光が倉庫内を照らした。
眩しい光に目が慣れた頃、倉庫内を見渡すと、真ん中に椅子と封筒が置かれたいた。
不思議に思い近づくと、どうやら封筒は俺達に宛てた物だったようで、『何でも屋へ』と宛名が書かれていた。
封を切り、中の手紙に目を通すと、そこには意味不明なことが書かれていた。
何でも屋諸君へ。
ここまで、運んでくれたことに感謝をする。
それでは、運んできた彼女を、この椅子に座れしてくれ。
それで、君達の仕事は完了となる。
何度読み返しても、意味が解からない。
この加奈を、誰かに引き渡すものだとばかり思っていたので、この手紙の内容が理解出来ない。
椅子に座らせると完了とは、一体何を指しているのか?
冬司と話し合っていても、一向に答えは出てこない。
そこで、仕方なくて手紙に書いてある通りに、加奈を椅子に座らせる。
すると、椅子の肘掛けと足から、金属のベルトが飛び出し、加奈を椅子に固定する。
「・・・な、なんだ?」
「・・・・・・・・」
あまりの出来事に、冬司は声を上げた。
俺はと言えば、何が起こったのか解からず、声が出なかった。
次の瞬間。
鈍い音を立て、加奈の体を刃物が貫いた。
椅子の背もたれから伸びた刃物が、加奈の胸のあたりから、まるで生えたように飛び出ている。
中世の拷問器具のように、すぐには死ねないらしく、加奈は声にならない声で、仕切りに何かを訴えかけていた。
微かに確認出来たのは、死ぬ間際に言った「助けて」の一言だった。
しばらくして、加奈は白目を向いて死んでしまった。
・・・・・。
呆然とする俺達の元へ、あの木刀の女が現れた。
走って来たのか、息を切らしている木刀の女が、俺達に話かける。
「い・・一体、何かあったのだ?」
「俺達にも解かんねえよ!指示通り、椅子に座らせたら死んでしまったんだよ」
「・・・何?それは一体・・・・・」
「!!」
突然、木刀の女は俺と冬司の頭を掴み、体を伏せさせた。
「何をするのだ!」と言おうと思ったが、床に何かがめり込んでいた。
倉庫内に置かれたコンテナの上から、あの嫌味ったらしい声が聞こえてきた。
「ざぁ~ねぇ~ん。ゼロポイントぉ~」
そこには弁財が立っていて、またしても隙をついて攻撃をしてきたのだった。
卑怯で卑劣な男だが、驚いたのは木刀の女が俺達を助けたことだった。
見ると、木刀の女は俺達を助けた時に、石の弾丸が当たったらしく左肩が出血していた。
「何をしている。隠れるぞ!」
木刀の女の声に、弁財とは反対側にあるコンテナの陰に向かって走った。
コンテナの陰に隠れると、木刀の女はハンカチを取り出し、左肩を抑えて止血を始めた。
幸い、傷は浅いらしく、出血はそこまで酷いものではなかったようだが、俺達を助けるためにおった傷なので、その点は胸を撫で下すことだった。
止血をしながら、木刀の女はケータイを取り出した。
どうやらケータイで何かを検索しているらしい。
こんな時に、何をしているのかと思う行動であったが、次の瞬間、何かをつぶやいた後で、木刀の女の前に拳銃が現れた。
手品のように、突然現れたその拳銃を、木刀の女は手に取った。
「お、おい、一体どうなっているんだ?」
冬司が、その不思議な現象に驚いて声をあげた。
対して、木刀の女は冬司の質問に答えるわけもなく、拳銃を眺めて何かを確認していた。
無視されているのだから、冬司にとっては面白くない、木刀の女に再び質問をする。
「聞いているのか!木刀の女!!その拳銃はどうやって出したんだ!」
「・・・何!なんだその呼び方は、私には七ヶ崎千尋という名前がある!」
きつい口調で冬司の胸ぐらを摑み、七ヶ崎は自己紹介をした。
どうやら、木刀の女と言われたことに腹を立ててしまったらしい。
七ヶ崎は、冬司を鋭い視線で睨んでいた。
「そ、そうか、七ヶ崎ね。俺は白鷺冬司、そんでこいつは瀬川清春だ」
冬司の自己紹介を聞いて、七ヶ崎は掴んでいた手を離した。
余程怖かったのだろう、冬司はほっとした表情で、深呼吸をしていた。
冬司の様子から、これ以上話をすることは出来ないだろうと判断し、俺が変わりに聞き出すことにした。
「それで七ヶ崎、その拳銃はどうやってだしたんだ?それに、畠瀬も弁財も不思議な現象を起こしている。お前らは、一体何者なんだ」
「・・・見てしまたのなら仕方がない、これはギフトと呼ばれる能力だ」
「ギフト?超能力みたいなものか?」
「ああ、そう思ってくれて構わない。私は物を具現化することが出来る、畠瀬は物体の中を潜行するギフトを持っている。そして、そこの弁財はおそらく、物を飛ばすギフトと思われる」
後で知ったのだが、このギフトを持つ者をギフトホルダーと言うらしい。
超能力とは少し違い固有能力であり、先程七ヶ崎がケータイで見ていたのは、拳銃に関する情報だった。
七ヶ崎のギフトは、言霊と言われる具現化能力で、物を生み出す能力だ。
しかし、本人が知らない物や、架空の物は具現化出来ないらしい、つまり拳銃を具現化するためにケータイで検索していたのだった。
信じられない話だが、実際に幾度となく見せられた俺達には、信じるしかなかった。