朝早くの訪問者
「もうすぐ見えてくる、緊張は・・・していないようだな」
私立八久慈学園に向かう車中、七ヶ崎が気を使ったのか俺に話かけてきた。
いきなり、こんな展開になっていることにはわけがあった。
まあ、話しは数十分前に遡るのだが・・・。
数十分前のホテルの一室。
七ヶ崎は約束通り、朝早くに訪れた。
登校前だったのだろう、制服姿で訪れたが、手には大きな荷物を持っていた。
学校で使う物なのかと思ったが、どうやら俺の着替えだったらしい。
昨日のことで、着替えがなかったし、着ていた服もボロボロだったので、正直言ってありがたいことだったが、七ヶ崎が持ってきた着替えに、一瞬困惑した。
七ヶ崎が持ってきた着替えとは、制服だったからである。
七ヶ崎が通う『私立八久慈学園』の制服だ。
どういうことか七ヶ崎に聞くと、落ち着いた態度でこう答えた。
「今日から、私と一緒に八久慈学園に通ってもらう」
「はぁ?」
驚く俺をお構いなしに、七ヶ崎は話を続けた。
「驚いていることだろうが、まあ話を聞け。私の所属している組織が、八久慈学園にある、したがって君にも今日から八久慈学園に通ってもらうことにした」
「おいおい、通ってもらうことにしたって、俺の意思はなしか!」
「こんな風に言いたくはないが、君は私の雇われているのだろう?だったら従ってもらう。それに、君のギフトは特殊なものだ、奴らが狙われている可能性もある、警護する意味も込めて、常に行動を共にしてもらいたい」
確かに、雇われている身の上としては、逆らうことは出来ない。
それに昨日の神取のこともあるので、狙われていないとは言えない。
それにしても、昨日の今日で入学手続きが完了していることに驚きだ。
ちなみに、八久慈学園は七ヶ崎家が運営しているらしく、なるほど合点がいった。
いわれるがまま制服に着替え、七ヶ崎の前に出ると「意外と似合うな」とお世辞を言われた。
かくして、七ヶ崎と一緒に車で登校中と相成ったわけだが、それにしても学校という所に行くのは小学校以来になる。
正確には、途中から行けなくなったので、小学校も満足に出ていないわけだが、まさか八久慈学園なんて有名な所に通うことになるとは、人生とは不思議なものだ。
長い沈黙に耐え切れなかったのか、それとも必要事項だったのか、七ヶ崎が八久慈学園について話をした。
「瀬川、八久慈学園について、いくつか話しておかなければならないことがある。まず、連続失踪事件を追っていることは秘密にしてくれ」
「なぜだ?」
「昨日の連中もそうだが、私達は敵についての情報があまりない。つまり、敵がすぐ近くにいる可能性もないとは言い切れない。その為、学園の生徒にやたらと話さないで欲しいのだ」
どうやら、昨日の連中について、七ヶ崎が持つ情報については少ないらしい。
奴らの規模や構成人数にしても解からない以上、迂闊に情報を漏らすことは命の危険に繋がるからだろう、「解かった」と伝えてこの話は終わった。
「それと、住まいについてなのだが、君には特別寮へと入居してもらうが構わないな」
「どうせ、俺に権限はない。好きにしてくれ」
「ありがとう、手間が省けた。ちなみに、特別寮には私も含め組織の人間が住んでいる。これは有事の際にすぐに行動できるようにする為の処置なので、承知してくれ」
命を狙われるかもしれない以上、一緒にいることに異議はないが、先ほどから話を聞いていると、どうも七ヶ崎の言う組織が八久慈学園と、密接に関係しているように聞こえる。
その疑問を、七ヶ崎に投げかけた。
「七ヶ崎、そろそろお前の所属している組織について、教えてくれないか?」
「・・・そうだな、いいだろう。まずは私達について話をしよう。君は、『月光の館』というサイトを知っているか?」
「いや、知らないな」
「そうか、夜の十二時から十分間だけアクセス可能なサイトなのだが、そこに幸福者と言う動画が流れるのだが・・・そこに映った人間が、必ず失踪してしまうのだ」
「!?」
あまりにもオカルト過ぎて、七ヶ崎がふざけているのかと思ったが、彼女の目は至って真剣そのものだった。しかし、こんな都市伝説のような話が出てくるとは思わなかったので、拍子抜けしたが、
その後、七ヶ崎の語った言葉に驚愕した。
「ちなみに、月光の館で動画が映された者を保護して解かったことだが、映された者は皆、ギフトホルダーだった」
「・・・そういうことだ?」
「つまり、失踪した人間はギフトホルダーで、何かしらの事情で誘拐もしくは殺害されている可能性があるということだ」
「それじゃあ・・昨日一緒にいた加奈も・・・」
「そうだ、ギフトホルダーだ」
つまりは何者かが、ギフトホルダーに対してこの失踪事件を起こしていることを意味する。
しかし、その目的や正体については、まだ解かっていないらしい。
七ヶ崎の言っていた、警護も兼ねての意味がようやく解かった。
失踪事件を追う一方で、ギフトホルダーを保護しているのが、七ヶ崎の所属する組織なのだ。
前屈みになっていた姿勢を起こし、七ヶ崎は組織についての話をした。
「そこで、私は失踪事件を追う組織を部活動という形で結成した。まあ、カモフラージュも兼ねてだかな。それが、君の所属する『特別活動部』だ。一応、部活上の活動目的は、地域貢献と福祉活動ということになっているがな」
ここにきて、ようやく七ヶ崎は笑顔を見せた。
それまでの仏頂面ではなく、女子高生としての七ヶ崎の顔で、思わずドキッとしてしまった。
「さて、話はこれくらいにて、そろそろ校門が見えてくるはずだ」
窓の外には、登校中の生徒と街路樹の間を優しい光が射していた。
この光景を、今まで見たことのなかった俺にとってはとても新鮮で、眩しく感じた。
今日から、俺もここの生徒なのかと思うと少し緊張して、制服の襟を正した。
生程と同じような優しい笑顔で、七ヶ崎は言う。
「ようこそ、私立八久慈学園へ」




