赤い薔薇の姫君は、執事にため息をつく
「ねえ、ウェイク」
姫君の柔らかな桃色の唇から、鈴を転がしたような声が発せられる。
深紅の薔薇が咲き誇る庭園だ。赤い薔薇が出す、馥郁たる香りが妖艶に空気を染め上げていた。
姫君は、庭園のどの薔薇よりも紅く、気高かった。
気配を殺して背後に立っていた執事は、呼びかけに答え、はい、と声を上げる。
すらりとした体躯にモーニング・コートをまとう青年。姫君が呼びかけたのは、執事である彼だった。姫君の背後にたたずむ青年だけが、庭園に一点落ちた黒い色である。
姫君は白い磁器のカップをソーサーに戻す。磁器特有の澄んだガラス音が、小さく庭園に響く。
庭園の端にある瀟洒な東屋は、姫君のお気に入りの休憩場所となっている。
朱金の髪を結い上げ、薔薇を模した赤いドレスをまとう彼女は、さながら薔薇の女王のようだった。
つん、と整った頤をそらしながら、姫君--アレイシアプリムローズメリルは、言い放つ。
「わたくしと結婚することを了承しなさい」
姫君の空のカップに紅茶を注ぎいれつつ、執事ウェイクはしばらくの無言の後、
「……おそれながら。私では姫様の配偶者としては不適格だと」
と虫も殺さないような笑顔で主に告げる。限りなく黒に近い紫の髪が動作に合わせてさらりと揺れた。ウェイクは鋭い面差しの青年だが、笑みを浮かべると柔和な印象になる。やや長めの前髪とその奥で時折光を弾く単眼鏡を見つめながら、姫君は不満をあらわにした。
「わたくしのどこが気に食わないというの」
白い頬を膨らませながらいう姫君は、文句なしの美少女だった。円く大きな瞳は、髪の彩りと正反対の若葉の緑。白く華奢な首筋、全体に小作りな体。頬を膨らませるさまも愛らしい。
「アレイシアプリムローズメリル様にかけている部分はございません。すべては私の不徳とするところです」
ウェイクはよどみなく答える。それは、姫君の望んだ答えではなかった。
「あなたになら、メリルと呼んでもらっていいのよ」
「私には荷が重すぎます」
ウェイクの口調はよどみがない。
この家の女性は、先祖から名前をもらうのが習わしだった。いうなれば、アレイシアプリムローズメリルの前半は先祖からいただいた名前だった。そして、最後の名前を呼ぶというのは、2親等以内の家族か、配偶者だけに許された特権でもある。
あっさりと姫君の求愛を辞退したうえで、執事はコートの内ポケットから時計を取り出し、
「お時間です」
と告げた。
「仕方ないわね」
姫君は憂鬱な気持ちをため息に変えた。姫君が立ち上がるのに合わせ、有能な執事である彼が椅子を引く。ドレスの裾を優雅にさばきながら、庭園を後にした。
姫君が自由にできる時間は、実際のところわずかなものでしかない。最近の姫君は、彼女の父である伯爵が新たに雇ったこの若い執事にいたくご執心だった。ほんの少しの薔薇園での休憩を、彼と二人の時間にしたいと望むほどに。
「いつか、あなたをふりむかせてみせるわ!」
姫君の宣言に、つき従う執事は否定も肯定もせず、柔和に微笑むだけだった。
姫君を次のダンスのレッスンに送った後、ウェイクは主人である姫君への書簡を整理しようと別室へと向かった。主の予定の合間に、自分の仕事も済ませなければならないのだ。
書簡が集められている部屋の中には、手紙が届けられており、机上に置かれていた。
部屋の中には誰もいない――はずだった。
が、すぐに素早く振り返る。首筋に感じたチリとしたわずかな気配に上体をそらすことで対応する。今までウェイクが立っていた場所を、銀の光が奔る。あのまま立っていれば、首と胴が分かれていただろう。
ウェイクは反撃はせずに、そのまま椅子を引いて腰かけた。背後にいる人物は分かっている。反撃をするよりも先に仕事を済ませるべきだと判断したのだ。
こういったことは日常茶飯事だった。暇つぶしに近い。
「何か御用ですか」
「返答に、間がありすぎですよ」
きっちりとモーニング・コートを着こなした老人が、暗器であるナイフを袖口に仕舞いつつ、おだやかに語りかけた。老人は先ほど斬撃を放ったにも関わらず、髪の一筋も乱れていない。
唐突な老人の出現に、ウェイクは全く動揺しなかった。
「もっと素早く丁寧に返すべきです」
一体、何を老人が口にしているのかとウェイクは思案する。
老人の言葉はウェイクの動きへのものではなかった。
おそらく先ほどの庭園でのやり取りを見ていたのだろう。――姫君への求愛への態度について、だ。
「すぐに断っては、姫様に申し訳ないと思いまして」
姫君がウェイクに好意を告げるのは、ここ数日繰り返されていたことであった。さすがに、結婚を申し込まれるのは初めてであったが。
「動揺しましたか」
老人は伯爵に仕える執事長だった。いずれは後継を育て跡を譲りたいと考えた彼に、ウェイクは誘われる形でこの屋敷で働いている。
「……さすがに、姫様があんなことを仰るとは思いませんでしたから」
「まあ、姫様と結婚したければ実力をつけることです」
老人の言葉にウェイクは無言だった。ウェイクにとっては、それ以前の問題があり、姫君の言葉を受け入れることはできないのだ。
「身分などあとからどうにでもなります」
老執事の言葉にウェイクは返事をしなかった。
そこが問題ではないことを知っていたうえで、老執事も言っているのだから手が負えない。
冗談なのか、冗談でないのかは、真顔の老執事の様子からは推察できないのだ。
「あと、公爵家からの書簡は燃やしたほうがいいでしょう。良くないものが憑いています」
ウェイクは机上に置いた書簡を眺める。自分の目もそれほど悪くはないと思っているが、なるほど、よくないものが「憑いて」いた。老人の目にかなわないと思うのは、このような時だ。
「内容は確かめたほうがよろしいでしょうか」
「できるなら」
ウェイクは書簡を握りしめ、その「憑いて」いる下級精霊を潰した。断末魔を上げながら、その呪いと悪意が術者のもとへ帰っていく。
普通の人間には精霊は知覚できず、ましてや術を術で返さず消すことはできない。そんな異常が行われたにもかかわらず、仕事の話しか口にしなかった。
中身は姫君への求愛の手紙だった。熱烈な恋文だ。
姫君にはまだ婚約者はいない。恋文が来ても仕方がない……とは言い難い事情がある。
内容に目を通し、ウェイクは握りつぶした手紙をもう一度潰しそうになった。
「書簡はもう少し丁寧に扱いなさい」
と老執事は言いつつも、
「燃やしてしまってよいと思いますよ」
と言葉を足した。ウェイクも頷いて同意する。
「煉獄の炎で燃やしてお返ししておきます」
先ほどの術の目的は単純なものだった。条件にあてはまるものが書簡を読めば、簡単な暗示にかかる術だ。姫君をねらったものだった。
「あと、不能の呪いでもお贈りしておきます」
「それはいい考えですね」
表面上は好々爺と穏やかそうな青年に見える二人であったが、会話の内容がどうにも薄暗すぎるものだった。
数日後、姫君は友人のサロンに招かれ、侯爵家に訪れていた。身分の間には大きな隔たりがあり、なかなか身分違いの友人は出来にくいものだ。だが、姫君は持ち前の明るさで多くの友人を持っていた。
今日の姫君の付添は侍女ではなく、ウェイクだった。
使用人たちが待機する別室で、おのおのの主の呼び出しを待つ。ここもある意味社交の場だった。他家の動向を使用人同士で、噂といった形で情報交換するのである。
まず、見慣れないウェイクの姿に、周りの使用人たちが遠巻きに窺っている。おそらく、あの伯爵家の紋章が付いた馬車で訪れたウェイクに、話しかける勇気を持っているものがいないのだろう。
血染めの伯爵家。
ウェイクの仕える伯爵家はそう呼ばれ、貴族社会でも特殊な立ち位置にある。それは代々受け継がれてきた精霊契約の特殊さと、戦時になればかならず突出した武人を排出する家であることも関与しているだろう。
だが、それよりも常にこの家には一つの噂が付きまとう。
人食い屋敷。
いわく、この家に入った泥棒、強盗は絶対に帰ってくることがないという。
また、年中咲き誇る庭園の薔薇は、それらの血を養分にしているという噂まであるのだ。
遠巻きにされながらも、耳がよいウェイクは、囁きのように交わされる噂を拾っていく。その中に興味深い噂があり耳を傾けた。
どうやら、美少女が大変好きだという噂の公爵様が、不能になったらしい。
奥方と別居してから、下町の遊女や使用人にまで手を出していた精力絶倫の公爵様であったが、数日前から不能となり、解決方法をさがして右往左往しているとか。
もともとよくない噂の人物であったため、嘲笑まじりに交わされる噂に、ウェイクは呪いは成功したらしいことを知った。
老執事も、大切な姫君にちょっかいを出してきた相手に容赦はなかった。一番強力で、複雑で、並の精霊では解読すらできな様な術式を持ち出し、ウェイクに教授したのだ。結構な数の術や呪いに精通していたと思っていたウェイクだが、世の中の広さを改めて思い知った出来事でもあった。
使用人たちの噂話は尽きることがない。
王都を荒らしていた夜盗、「病狼」が消えた話。
有名な呪い屋が、「返し」を受けたせいで商売を止めたせいで新しい呪い屋を探している話。
最近、貴族を狙った怪盗気取りの泥棒が現れた話。
頭の中で整理をしながら、一つ一つ拾い上げていく。噂は噂でしかないが、なにかを調べるきっかけになるときもあるからだ。
やがて、日が傾きだしたころ、侯爵家の家令が部屋に集まっている使用人たちを呼び出した。
今日のサロンは終わったらしい。
ウェイクも呼び出され、好奇心に満ちた視線を受けながら姫君のもとに急いだ。
「ウェイク!」
姫君は大変ご機嫌な様子だった。いつものように赤いドレスをまとい、ウェイクの姿を見つければぱっと笑顔になる。横にいた姫君が、おっとりと、微笑んだ。
「こちらが噂の執事かしら?」
「そうですわ。素敵でしょう!」
姫君はウェイクを見上げながら、キラキラと輝く瞳で言った。ウェイクはいつも通りのあいまいな笑顔で返答を保留する。姫君同士の会話に、執事である彼は口をはさめないのだ。ひとしきり姫君が友人へ彼を紹介する。頬を上気させて微笑む姫君は、本当に可愛らしかった。
そろそろ時間だと周囲に促され、姫君は彼を伴い馬車に入った。今日の楽しかったことを報告する姿から、「あの伯爵家」といわれるようなおどろおどろしさは全くない。
ひとしきり興奮して話し終えた姫君は、馬車に同乗する彼を見上げながら、今日もこうおっしゃった。
「ねえ、ウェイク」
「はい、なんでしょう」
「あなたは結婚する相手がいるの?」
姫君の問いが変化していた。探りを入れる方向に変わったらしい。ちらちらと上目遣いでウェイクをうかがいながら、姫君は重ねて口を開いた。
「将来を誓った方がいるの? 恋人がいるの?」
「いいえ」
「ならなぜ、わたくしと結婚してくれないの?」
「畏れ多いことです」
もう! と姫君のご機嫌が急落した。
「こんなに愛しているのに! あなたは罪な人ね!」
返答することができず、ウェイクは困った表情を浮かべるしかなかった。
深夜。
屋敷の静寂を乱す足音が一つ。
今、王都で噂になっている、怪盗気取りの泥棒は焦っていた。
なんなんだ!
なんなんだこの屋敷は!!
血染めの屋敷、人食い屋敷。さまざまな名前で呼ばれているこの屋敷に、入り込むとは簡単だった。警備が甘いのだ。
名前に箔をつけるため、個々を狙おうと情報屋に売買を持ちかけたとき、一様に彼らは青ざめてこういった。
あそこだけは、本当にやめた方がいい。
有名な夜盗や強盗が、何人も帰ってこなかったというのは実話だそうだ。病狼と呼ばれていた戦闘狂も、この屋敷に行くといったのちに消息を絶っているらしい。
それならなおのこと、俺がやってやると意気込んで乗り込んだのだが。
過去の自分を殴り倒したい。
屋敷に入り込んだ後、散々だった。通常の数倍はありそうなスコップを軽々と振り回す庭師に見つかり、血まみれのコックに鉈のような包丁で追い掛け回され、素手で壁を砕く侍女に殺されかけた。
夢かと思ったが、そうではなかった。
女が壁を砕くとか。冗談でも考えたことはない。
それよりも恐ろしいのが、テール・コートをきっちり纏った執事の姿をした男だった。怪力侍女からほうほうの体で逃げた先の廊下で、たたずむその姿を目に入れた瞬間、泥棒は窓を砕き、外に逃げることを選んだ。
一目見て直観した。
あれはヤバい、と。
薔薇の植え込みに隠れ、息を整える。肌をとげがさすのが地味に痛いが、この屋敷のおかしい奴らに追い掛け回されるよりましだ。
それに、芝生を敷き詰めてある。足音がしたらわかるだろう。自分の口を押え、乱れる息の音を殺そうと努力をする。
ゆったりと雲の影から月が姿を現していく。
明るいと逃げにくい。ついていない、と男は顔をしかめた。
外の物音は全くしていない。追跡は振り切ったのだろうか。
植え込みからすこしだけ顔を出し外をのぞいた時、首筋にひやりとしたものがあてられた。
「終わりか?」
楽しそうな声に、全身の毛孔から汗が噴き出た。
いつ背後にいた!
ここまで死を覚悟したのは初めてだった。あてられた冷たいものがゆっくりと動かされ、皮膚が避けた感覚がする。脅しではないのだろう。
「つまらないな」
重い一撃が背中に入れられ、踏みつけられる。肺を後ろから蹴り上げる一撃に、口からは乾いた音しか漏れなかった。そのまま手刀を無防備になった首筋に入れられる。
「姫様が寝ている時間だ。静かに」
地に伏せた背中を容赦なく踏みつけられ、男は痛みで意識を手放した。
「少しは運動不足が解消できましたか?」
老執事が闇から湧き出すように現れる。
泥棒の背を踏みつけていた足をのけつつ、ウェイクは、全く、と返した。
「昔の君のほうがやんちゃでしたね」
「昔、というほどでもありませんが」
ほんの一年前のことだ。この泥棒のように、ウェイクはこの屋敷に侵入した。知名度の向上を狙ったのでもなく、財産を狙ったのでもない、ただ単なる暇つぶしとして。
普段は強者といわれるものに戦闘を仕掛け、暇をつぶしていたが、それにも飽きてきたせいだった。この屋敷にまつわる噂もしっていた。おそらく、相当な剛の者がいるに違いない、そう当たりを付け、暇つぶしにこの屋敷を襲ったのだ。ウェイクの価値観は、面白いか面白くないかで大まかに分けられる。その行動基準を、普通は理解できない。恐ろしく気まぐれに牙をむく存在として裏社会でも表でも忌避されていた。この屋敷に侵入した当時、わりと面白い戦いは出来たと思う。向かってきた使用人たちは丁寧に叩き伏せた。やりすぎれば、次にまた来た時に楽しめないと思ったせいだ。次を考える程度には、面白かった。ただ、目の前の老執事に足を持っていかれかけたのは失敗だった。屋敷に戦いに夢中すぎて設置されているトラップに気づかなかったのだ。不意を突かれ、動きを封じられたウェイクに、老執事は意外なことに対話を望んだのだ。
もっと面白いことがありますよ、と老執事は言った。そのうえで、ここで働からないかと誘われたのだった。その言葉に裏があるのかと疑ったが、言葉通りの意味だったらしい。そのままウェイクはここで働くこととなった。
その言葉には嘘がなかったと思う。
そこそこ楽しんでいる。たまに、先ほどのような賊が侵入してくるのも面白い。
慣れない仕事も、結構面白い。
「後の掃除はしておきます」
庭番が、ふらりとあらわれ執事たちに声をかけた。明日の予定が詰まっているウェイクは男を引渡す。明日も姫君の付添だ。
今のところは姫君が一番彼の興味を引いていた。
朝の光が、しらじらと部屋を照らしていく。
「姫様」
普通は、執事であっても起床前の女主人の部屋には入らないが、昨晩からの姫君のたってのご要望である。
朝一番に、あなたに逢えたら幸せなのよ!
姫君は、昨日、朝に起こせと彼に命じたのだ。
カーテンを開け、光を取り込む。寝台の中で小さな体が動く。
「姫様」
「ん……おはよう、ウェイク」
「おはようございます」
ぱっちりと緑の瞳を開き、姫君は小さなであくびをした。目をこすりながら寝台の上に座り込む。
「いつでも添い寝をしてくれてもいいのよ」
「恐縮です」
「もう」
ナイトウェアに包まれた細く小さな体に、防寒のストールをそっと重ねる。着替えは侍女の仕事だ。さまざまな仕事の手順を考えるウェイクの袖を白い手が引く。
「ねえ、ウェイク」
「はい姫様」
「いつ、私と結婚してくれるの?」
朝から姫君はお元気だった。
駄々をこねるように、そのままウェイクの腕に抱き着いて頬を膨らませる。さすがにこれはどうかと、姫君を見下ろしながら、彼は言葉を変えることにした。
「姫君には、まだ結婚はお早いのではないでしょうか」
「そうかしら」
「……ええ」
「あとどれぐらい?」
「……10年ほどは」
「まあ! 思ったよりは短いわ!」
姫君はたいそう美しく微笑んだ。
「なら、10年後ね。それまでにわたくし、立派なレディになりますわ」
姫君は、無邪気に言いつのる。
「大好きよウェイク。体中に武器を持ってる人って、わたくし、ときめくの」
袖に隠した暗器にも気づいているのだろう。姫君はにっこり笑いながらウェイクの腕に頬を寄せた。その頬はまろやかで、彼女の若さを示している。
「わたくしを子ども扱いしないところも。隠し事がたくさんありそうなところも」
うふふ、と姫君は笑った。
「だから、あなたとの15歳の歳の差なんて、愛の前に無意味なの」
姫君が読んでいた小説を思い出す。後学のためにちらりと目を通したそれは、愛さえあればたいていのことが解決していた。姫君はそれに毒されているのだろうか。
「比較的、年齢は重要だと思いますが」
「まあ。わたくし、5歳ですが、世の中のことをわきまえておりますもの」
その年齢が、すべての問題なのだが。
ウェイクはそれは口に出さずに、
「お時間です」
と姫君に告げるだけにとどまったのだった。
「10年後、楽しみね」
うっとりと笑う姫君の顔は、到底、御年5歳と思えないものだった。
人食い屋敷の中心に咲く薔薇が、無邪気なだけのはずはなかった。