覚醒
「ミルだって!?」
「うん、ミルは実在していたんだよ。 それを愛加がまねたんだと思う」
突然のミルの登場に、一同は驚きを隠せなかった。
「違う…私が弱いんじゃない。 明菜ちゃんが…全部!!」
「もしかして…愛加なの?」
ミルは手で顔を覆ったまま、その場にしゃがみ込む。
「そうだよ…明菜ちゃんが私のものになるまでここで見張ってようと思ってさ」
「お前っ! 一体何がしたいんだよ! 明菜が憎くてこうしてるのか、明菜を自分だけのものにしたいのか!」
「…どっちもだよ。 約束を破って相談に乗ってくれなかった明菜ちゃんは憎い。 でもそんなのどうでもいい」
ミル…いや、愛加はゆっくりと立ち上がって、こちらに向かってきた。 薄気味の悪い笑顔を浮かべながら、ゆっくりと。
「私はただ、永遠にしたいんだ。 明菜ちゃんが現実で私と一緒にいてくれないなら、永遠にして一緒にいてしまおうって」
「愛加…」
あたしはすべてを察した。 そして覚悟を決める、全てあたしが悪いのだから。
「大丈夫、すぐに終わるよ」
「愛加先輩! 明菜先輩に手を出したらいくら先輩でも許しませんよ!?」
まどかちゃんが攻撃態勢に入ったのを見て、あたしはそれを制した。 目で、「何もしないで」と、言いながら。 何か言いたげではあったが、渋々受け入れて下がってくれた。
「じゃあ…『死んで』ね、明菜ちゃん」
「っ!!」
刹那、すさまじい光とともにドォンっという爆発音が部屋に響き渡った。 この爆発で部屋中にひびが入り、壁の破片がぱらぱらと落ちてきている。
そしてあたしはというと…間一髪で愛加の攻撃を避けることができた。
「どうして…受け入れてくれたんじゃなかったの?」
土煙がはれた間から、愛加が驚いた顔でこちらを見ているのがわかる。
「確かにあたしは愛加の憎しみを受け入れようとした。 でも、それは愛加に対してだけ」
やっとわかった。 幼馴染として長年連れ添っていたのに、なんで愛加の変化に気付かなかったのかって今でも悔んでる。 でも、今回ばかりはわかった。
「あんた…一体誰なの?」
「えっ!?」
あたしの問いに、皆が驚いた。
「明菜ちゃん何言ってるの? 私は見ての通り愛加だよ、今はミルの格好だけど」
「違う。 愛加は軽々しく『死ぬ』って言葉を発するのが何より嫌いだったんだよ、たとえどんなことがあろうとね!」
「っ!!」
「だからあんたは本当に愛加なんかじゃなかったんだよ…一体あんたは誰!!」
……部屋が静まり返る。 私以外の皆は唖然として言葉も出ないようだった。 そして……。
「クッ……ハハハハハハハハハハハ!!」
愛加が、笑った。
『……これはこれは、この私がこんな初歩的なミスをしてしまうとは。 少し急ぎすぎましたかねえ』
そういった彼奴の声は地を這うように低く、もはや愛加ではないと確実に言うに値する証拠だった。
「てめぇ……一体誰なんだよ! 答えろ!!」
颯介が彼奴に対して叫んだ。 そしたら彼奴はニヤリと気味悪く笑って、こう言ったんだ。
『私の名はカーリー。 今この女に取り付いている神だ』
「か、カーリー!?」
その名前を聞いて声を上げたのが芽紅だった。
「芽紅、何か知ってるの?」
「ええ。 カーリーはいろんな性格を持つ、殺戮の女神ともいわれる……簡単に言ってしまえば悪魔ね」
そういえば、芽紅は悪魔とか神話とか結構詳しいんだった。
「あ、悪魔ですか!? それって……」
「しかもあいつは血と破壊に飢えている……破壊属性にはぴったりの代名詞ね」
『ご丁寧な説明をどうも。 そこまで行ったならその事実が貴様らにとってどんなことを指しているか……わかるよな?』
すると彼奴の周りを真っ黒な光が包んだ。 同時に爆風も吹いて、あたしたちは飛ばされそうになる。
「なんだ……っ!?」
光が消えると、そこに愛加の姿はなかった。 あったのは、血と破壊に飢える悪魔のおぞましい姿だ。
『それは貴様らの死を意味する……』
次の瞬間、カーリーがものすごい勢いであたしたちのほうに向かってくる。
「くそっ! 『ボア』!」
颯介のとっさの判断で張られたバリアーで、あたしたちはなんとか無事だった……はずだった。
-----ガシャアアアアアアン!!!
「嘘……だろ……」
「「「「「颯介っ!!」」」」」
颯介のバリアはカーリーにとっては脆かったようで、バリアーごと颯介は吹き飛ばされた。 壁に勢いよく打ち付けられた颯介は頭から血を流し、そのまま気絶してしまった。
「っ!!」
あたしはすぐさま颯介のもとに駆け寄り、回復魔法をかけた。 けど……。
「なんで……傷が治らないの?」
前に愛加にあたしの魔法を止められてできなかったことはあったけど、今度は違う。 魔法はかかっているはずなのに、回復しないのだ。 すると女王様が私の隣に現れて、申し訳なさそうに言った。
「回復魔法は……生者にしか使えないのです」
女王様のその一言は、あたしたちの心を凍りつかせるには十分だった。
「じゃあ……颯……介……は……」
「明菜っ! 女王様っ! 後ろっ!!」
「「えっ……?」」
振り返った時には、カーリーがあたしと女王様ののすぐ後ろにいて、ニヤッと笑って……。
「い……や……」
……あたしの体を何かで貫いた。
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やめて……もうやめてよ……。
『愛加としているときの手を抜いて戦った時にも、貴様らは私にかなわなかった。 そんな貴様らが、本当の姿となった私に勝てるわけがないだろう』
そう言うとカーリーは次に芽紅ちゃんめがけて走り出す。 まどかちゃんが魔法で応戦するもそれがカーリーに届く訳もなく……。
「嫌だ……やめてっ!」
「そんな……っ!!」
2人とも、さっきの颯介君みたいに吹き飛ばされてしまった。 そして、息絶えた。
残ったのはピリアー君と羽矢斗君の2人。
こんなはずじゃなかった。 あの日は明菜ちゃんに約束を破られたショックで、その世界にいたくない一心で、彼奴に協力してしまったんだ。 彼奴が破壊の神だと知っていれば、彼奴と手を組んだりしなかった……?
『いじめは立派な犯罪なんだろ、それをわかっててなにもしねぇんだったらただの弱虫なんじゃねーか』
『愛加は自分の弱さに立ち向かえなくてこの世界に逃げた、それだけのことだ』
この世界で颯介君がいた言葉が、私の胸に深く突き刺さる。
そうだ、私は弱かった。 立ち向かう勇気がなかったんだ。 だから今こうやって、最悪の結果を招いている。
全ては私のせい、私のせいで皆が死んだ。 この事実だけは動かない……。
『山口さん! 聞こえますか!?』
えっ、この声……ピリアー君?
2ヶ月も更新してなかったくせにみじかああああああああい!
すいません><