一筋の光は…
あたしとピリアーはさっきのさびたブランコに乗った。 また、キィーキィーと音がする。
「…今更何の用?」
「黒瀬さん、僕はわかるんだよ、君がゲーム世界から時を壊してここに来たことを」
「!?」
いきなりだった。 ピリアーも所詮こっちの世界の人間かと思ってたけど…。
「まさか…一緒に来たの?」
「…あのあと、僕はいったん戻ってきたんだ。 そしたら、血を流して倒れている黒瀬さんを見つけてね。 その隣には…山口さんがいた。 黒瀬さんがボタンを押したら光が出てきたからこれは何かあると思って、ついてきたんだ」
「そうだったんだ。 けど、どうして戻ってきたの? そのままみんなと一緒に返ってしまえばよかったじゃん」
あたしはふぃっとそっぽを向いた。 ピリアーが唯一分かり合える人だとは思っても、どうせみんなと同類なんだ。
「黒瀬さんは、一つだけ勘違いをしているよ」
「勘違い? 何を勘違いしているていうの?」
「あのあと城で皆と合流して話してみて分かったんだよ。 彼らは本当の軽音部の皆じゃないってね」
ピリアーの言っていることがわからない。 それよりも、早く愛加のところへ行かないといけないのに。 愛加を待たせるわけにはいかないんだよ。
けど、その場から動けなかった。 ピリアーの言動は、何か説得力のあるものがありそうだったから。
「詳しく…教えて」
あたしは少しだけブランコから浮かせていた腰を下ろし、ブランコに深く座り、こぎ始めた。
「さっきも言ったように、僕はみんなと話したんだ」
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「黒瀬さんから話は聞いたよ」
「そうか、じゃあピリアーも戻るぞ」
「黒瀬さんを見捨てて行く気なんですか?」
「当たり前じゃないですか、明菜先輩は私たちを巻き込んだんですから」
「その責任はしっかりと取ってもらわないとね」
皆が放つ、氷のように冷たい言葉。
僕は皆の言っていることが信じられなかった。 僕が知っている軽音部の皆は、たとえ黒瀬さんが何らかのトラブルを持ち込んでも皆で協力して片付けるような雰囲気なのに。 実際にそういうことも何度かあったけど、そのたびに「しょうがないなあ」なんて言いながらも…。
「皆どうしちゃったんだよ!軽音同好会が発足した時に作った約束、覚えてないのかよ!?」
「…そんなの、知らねえよ」
「!!」
この時に確信した。 颯介は何があっても約束を破るような奴じゃない。 それは親友の僕が一番知ってる。 だからこの颯介は颯介じゃないってね。
その時に同時に気付いたのは、皆の目に光が宿っていないこと。
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「それで女王様に頼んで確認してもらったんだけど、皆山口さんの破壊魔法にかかっていたんだ。 おそらく、友情を破壊したってところだろうけど。 今女王様が皆の魔法を解いてくれてるよ」
「そう、なんだ」
大体察した。 愛加があの時かけた魔法は真実を見せるだけじゃなかったんだ。 そして、あの場にいなかったピリアーだけが魔法にかからず、こんな正常な行動をしている。
「黒瀬さん、君が今いる世界は現実世界なんかじゃない。 山口さんが創りだした破壊の世界だ」
「どういうこと?」
「時を破壊する、つまり、黒瀬さんの正確な記憶を破壊しているんだ」
「だから何? これが愛加が見せている世界なら、愛加から見たあんたたちはあんな鬼みたいな性格をしているんじゃない」
「…他人の世界と、自分の世界は違う」
「っ!?」
突然ピリアーがブランコから降り、あたしの手を握ってきた。
「本当の黒瀬明菜から見える皆は…どんな風になってるの?」
「あたしから見た、皆は…」
あたしから見た皆…本当に、あんな鬼みたいなの? ううん、違う? じゃあ、何?あたしが今まで見てきた皆は、明るくて、楽しくて、いつも団結してて…
「こんな世界の皆は…皆じゃ、ない!」
次の瞬間、あたしの中で黒い何かがパァンッと音を立ててはじけた。 そして、白い光が降ってくる。
「あたし、なんて考えを持ってたんだろう。 馬鹿みたいだったね」
ピリアーに向かって、笑いかけた。
「よかった…黒瀬さんの目が元に戻った」
「え、あたしも目に光なかった!?」
「目、死んでましたよ?」
「ちょっ!そこまでいうことないじゃん!」
「すみませんね」
お互いにこうやってふざけあう楽しさも思い出した。
「明菜ちゃん?」
「愛加…」
「どうしたの? 遅いから迎えに来たんだよ、早く行こうよ?」
あたしは大きく深呼吸してから、愛加にこう言った。
「ゴメン、やっぱり一緒には行けないよ」
「ど、どうして!?ここに残っても、いじめられるだけなんだよ?軽音部の皆の本性だって…」
「それでも、あたしは皆を信じる。 それに、ここには残らないよ」
あたしは愛加に背を向けて、ピリアーのもとに走り出した。
「待って明菜ちゃん!どこに行くの!?」
その言葉に立ち止まり、愛加に向かって宣言するように言った。
「…現実から逃げないで、立ち向かうんだよ」
そしてあたしはピリアーの移動魔法で、ゲーム世界へと戻っていった。
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目が覚めると、あたしはベットの上にいた。 でも今度は、お城のベットだった。
「アキナさん!目が覚めたんですね!」
「女王…様…」
左手を見てみると、きれいに包帯が巻かれていた。
「回復属性でよかったですね、あと1日もすれば傷はきれいさっぱりなくなりますよ」
「そうですか…」
その報告に安心した。しかし、もっと重要なことを思い出してベットから飛び起きた。
「そういえば、他の皆は!?」
「ピリアーさんは魔力を結構使ったからと言って別室で休んでいます。 他の皆さんは…」
女王はうつむいて言葉を詰まらせた。
「まだ、魔法が解けないんですね」
「申し訳ありません。 できる限りのすべての手は尽くしたのですが、誰一人として魔法が解けることがないんです」
「そうですか…そうですよね、あたしでさえ魔法が解けるのに時間がかかったんですから」
そういいながらも、本当の皆が戻っていないことにあたしはがっくりと肩を落とした。 軽音同好会発足当時の、賑やかなみんなの姿が脳裏をよぎる。
あの時に立てた「何があっても軽音同好会は協力する!」っていう約束なんて、皆忘れているんだろうな…
「…協力…そうだ!」
それでできるかわからないけど、思いついた。 皆の目を覚まさせる方法。
「女王様、ギター2台とドラムとべースとキーボードとマイクってありますか?代わりになるものでも構いません!」
「異世界の楽器ですか? 名前は違いますけど、それと演奏の仕方は全く同じの楽器ならそろえられますよ」
「じゃあお願いします!」
「2日ほど時間をいただけますか?王宮内にはギターとマイクしかないので…」
「わかりました、あたしも2日は必要だったので! ありがとうございます!」
確認が取れると、あたしはピリアーがいる部屋に向かって猛ダッシュした。 そして、思いっきりドアを開けた。
「ピリアー!あたしたちが作曲した曲の楽譜って覚えてる?」
「え?まあ、ほとんどは覚えてますけど…」
「じゃあ今すぐ書いて! それでみんなの目を覚ませるかもしれない!」
「そういうことなら、喜んでお受けしますよ!」
ピリアーに紙とペンと定規を渡すと、早速作業に取り掛かった。 あたしも楽器が集まるまでピリアーを手伝うことにした。