BAD END
それからどのくらいの時間が経っただろう。 気が付くと皆さっきと同じ場所、愛加と戦った場所にいた。
「な、なんだったんだ今の…」
「わからない。でも…」
ゆっくりと起き上がった芽紅はあたしのほうを向いた。 そしてこう言った。
「明菜、さっきのは・・・本当なの?その、明菜が愛加を仲間外れにしたとかなんとか…」
「……」
芽紅の問いに、はいともいいえとも言えない。 本当にあたしが愛加を仲間外れにしていたのかもわからない。
「ねえ、答えてよ明菜。黙ってたら何もわからないんだよ?」
「それは…」
「明菜、さっさと答えてよ!愛加を仲間はずれにしたの?してないの!?」
「芽紅先輩、落ち着いてください!」
「……」
普段は温厚な芽紅が、今あたしの胸ぐらをつかんで怒りをあらわにしている。 そりゃあそうだ。 愛加は大人しいけど本当に優しい子で、何も悪いことはしていないから。
「芽紅先輩、そもそも愛加先輩が言ってることが嘘かもしれないじゃないですか、女王が明菜先輩だけを呼ぶつもりだったのかそうじゃないのかとか!」
「そうですよ!その『あのお方』ってやつに操られているだけかもしれませんし…決めつけるのは早いです!」
「まどかちゃん、羽矢斗君…」
2人はあんなことを言ってくれているけど、本心はきっとあたしを疑ってる。 2人の目が、そう言っている。
「みなさん!ご無事ですか!?」
後ろから聞こえてきた声の主。 それはあたしの緊迫の象徴でもあった。
「女王様…」
「ここで爆発があったと聞いたので駆け付けてみましたが、一体何があったのですか?」
説明しなきゃ。でも声が出ない。 『何も話すな』脳内でその言葉が響く。
「さっきここで羽矢斗君たちが作業をしているときにM…愛加が来たんです。やはりこの間同様、あっけなくやられてしまいましたが、代わりに『真実』を聞きました」
「真実…ですか?」
「女王様にはいろいろとお聞きしたいことがあります」
今度は別の言葉が流れてきた。 抑えられない、この黒い気持ち。
『ソノハナシヲトメロ』
「きゃあっ!」
あたしはわけもわからないまま、芽紅に向かって走り出した。 その話を止めればいいんでしょ? 一瞬にして止めてあげるよ。 そう、その話を…。
「おい明菜っ!」
その時、パァンッと言う大きな音が鳴った。 それに伴って、頬にひりひりとした痛みが走った。 颯介に殴られたことで我に返ったあたし。 そのあたしが両手で絞めていたのは、芽紅だった。
「芽紅っ…」
幸いにも、意識は残っていた。けど、そんなあたしに集まる視線はまるで氷だった。
『ソノハナシヲトメロ』 『ドンナテヲツカッテマデデモ』 『ハヤク、ハヤク…』
「黙れ黙れ黙れ黙れだまれええええええええええ!!!」
頭が割れるように痛い。 お願いだから黙って!これ以上皆に危害を加えたら、皆ばらばらになっちゃう! これ以上は…!
「…もうやってらんねーよ」
颯介が立ち上がる。
「なあ女王。一つ聞くけどよ、明菜以外の俺らは本当に巻き込まれただけなのか?」
「なにを言っているんですか?皆さんの団結が…」
「これが一番の団結に見えるかよ。俺は愛加のことよりもそっちが知りてえんだ」
「颯介、あんた…愛加のことはどうでもいいの!?」
「そんなこと言ってねえだろ!俺は今俺らが巻き込まれただけなのかどうなのかっていうのをまず先に知りてえんだよ!」
3人が口論になっている中、脳内に断片的な映像が流れ込んできた。 あたし達6人が夕暮れに下校していて、その一歩後ろに愛加がいる。
『明菜ちゃん、どうして私と話してくれなくなったのかな?もっと話したいよ…』
「!?」
流れ込んできた声。 この声の主は…まぎれもなく、愛加だ。
「明菜、今の聞いてたか」
「えっ」
はっとして我に返ると、皆があたしのほうを向いていた。そして、女王がこう言った。
「颯介さんが言ったことは事実です。本当はマナカさんと一番仲の良いアキナさんならマナカさんを止められると思い、ここに連れてこようと思ったんです。しかし、私のミスでみなさんまで連れてきてしまったのです。だから荒れ地の開拓というのは…はっきり言って皆さんを納得させるためのおまけに過ぎなかったんです」
「そんな…」
それじゃあ、皆をこんな目に合わせたのはやっぱりあたしなの?
「皆さんがお望みなら、明菜さん以外を現実世界に戻すことができます。禁断魔法を使うことになるのですが…」
「それなら、俺にはこいつにかかわる義務はないんだな。巻き込まれはごめんだからな、俺は戻るぞ」
颯介が、女王のもとへ歩み寄る。
「私ね、実は愛加の相談に乗ったことがあるんだ。最近明菜ちゃんとしゃべれないからタイミングをつくってほしいって内容のね。仲間外れにしたとは断言しないけど、結果的に愛加の悩みに気付いてあげなかったからこうなったんだよ。」
芽紅も、女王のもとへ歩み寄る。
「明菜先輩すみません。私もこれ以上は…耐えられません」
まどかちゃんも、女王のもとへ歩み寄る。
「俺も無理っす。まどかも戻るって言ってますし…。」
そして羽矢斗君も、女王のもとへ歩み寄っていった。
「じゃあ全員ですね…現実帰還魔法は明後日に行いますので、皆さんを城に召喚します。『シャインリング・ワープ』」
女王が唱えると、5人を白い光が包み込んだ。 その光が消えると、皆も消えた。
「そういえば、ピリアーは…?」
「ピリアーさんの意志はまだ聞いていませんし、そもそも真実をまだ知らないのではないのでしょうか?」
「わかりました。戻って…あたしが聞いておきます。」
あたしは立ち上がり、少しもたついた足取りで家路についた。
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「そうですか、そんなことが…」
ピリアーが神妙な面持ちで、あたしの話を聞いている。
「だから…ピリアーはどうするの?」
「僕は…皆さんと話し合ってから決めます。ですから、少し離脱しますよ」
そしていつもの移動魔法で城へと向かった。
誰もいない家で、たった一人いるあたし。ついさっきまでは賑やかで、楽しい思い出ばかりの家だったのに。
「皆…どうしてっ…」
あたしは大声で泣いた。誰もいなくて静かだからいつもの倍は声が響く、この家で。 涙が枯れるまで。
その中で思い出した、一つの記憶があった。
-----2ヶ月前-----
「明菜ちゃん、相談があるんだけど…」
愛加がそう話しかけてきたのは、昼休みの時だった。 その時、愛加は深刻な顔をしていた。
「別にいいよ。じゃあ今日の夜、メールでいい?」
「…今乗ってほしい。」
「えっ」
愛加は普段自分の意見を主張しないタイプだったから、この時はさすがのあたしもびっくりした。 今から思えば本当に悩んだ末にあたしにどうしても相談したかったからだったのかもしれない。 けど、そんな愛加にあたしは…
「ゴメン!萌花たちとベランダで話す約束があるから…メールにしてくれない?」
「…わかった。無理言ってごめんね」
愛加は暗い顔で自分の席に戻っていった。
萌花というのはあたしのクラスのリーダー格の人で、その人の言うことを聞かなかったり、気にそぐわないことをしたらいじめられてしまうのだ。 それが怖かったあたしは、親友の頼みを聞けなかった。 それだけならまだよかったのかもしれない。 愛加も理解してくれたかもしれない。
だけど、メールの約束さえも破ってしまった。その夜は家族で夜にレストランに行って、その楽しい思い出とともに約束もおいてきてしまった。
その次の日に…愛加は行方不明になった。
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愛加が言っていたことの1つが、やっとわかった。あの日相談に乗ってあげられなかったことに憤りを感じているのかもしれない。その相談がなんだったのかはわからないけど、失踪の原因も、もしかしたらそれがきっかけなのだろう。
「愛加も…こんな気持ちだったんだね。」
あたしは引き出しからカッターを取り出し、刃を出して、手首に当てた。
「もう何もかも戻せないのなら、いっそ…」
覚悟を決めて、カッターをぐっと押しつけた。 その時からだんだん意識は薄れていき、あたしは床に倒れ、そのまま…目を覚ますことはなかった。