崩壊
-----明菜side-----
羽矢斗君たちが出かけた後、あたしたちは家でメニューを考えることにした。
「とりあえず、名前だけ考えてみない?」
「名前・・・ですか?」
「うん、最初に名前考えればあとメニューが出てくるかなー・・・みたいな。」
「じゃあ今から3分間、出せるだけ出してみましょう。どうもうまくいかない気がするのだけど。」
芽紅は半ばあきれ顔をしていたが、意外と楽しそうに書いていた。まどかちゃんは絵までかいていたんだけど、なんだか放送事故レベルの絵になっている。そういえばまどかちゃんは絵が苦手なんだよな。この前まどかちゃんが描いた象の絵がネズミみたいだって颯介と羽矢斗君が大笑いして、まどかちゃんがブチギレしたことあったよなぁ。
なーんてことを考えている間に3分間近になり、大慌てで名前を考えた。
「3分たったわよ。じゃあ、明菜ちゃんから。」
「はーい!あたしは、お米とこっちの野菜をふんだんにつかった『RPG炊き込みご飯』を提案します!」
「なるほどね。」
「ちなみにRPGっていうのはゲームの意味と、
RicePigGigantの略でRPGね♪」
「どうでもいい情報をありがとうございました。次はまどかちゃん。」
「はい!私はコンダーイとレンラクホウをつかったおひたしがいいと思います!名前は思いつきませんでした。」
「レンラクホウ?なにそれ?」
「図鑑に載ってたんですけど、現実世界のホウレンソウと味はそっくりらしいですよ。」
「へー。確かに名前もどことなく似てるし、なるほどね。」
「じゃあ最後はあたしが----------」
その時だった。遠くのほうで大きな爆発音がしたのだ。音がしたほうの窓から外を見てみると、煙がもくもくと上がっていた。その間にももう一回、また一回と爆発が立て続いた。爆風はこっちまで飛んできて、部屋の中のものが散乱した。
「な、なに今の!?」
「しかもあの方向って・・・先輩と羽矢斗がいるところじゃないですか!?」
向こうの光景に唖然としていると、背後にピリアーが現れた。
「ピリアー!?どうしたの、ボロボロじゃん!」
「・・・颯介たちが・・・ミルにっ・・・つっ!!」
傷口の痛みに耐えながら、ピリアーはすべてを話した。建物を建てて開店準備を始めようとしたところ、ミルが急に笑い出したこと。そして、皆を急に襲いだしたこと。今は颯介が属性のバリアで必死に皆を守っていること。
「そんな・・・ミル、一体どうしちゃったの?」
「とにかく・・・一刻も早くみんなのところに・・・っ!」
「ピリアー・・・ありがとう。」
あたしはピリアーに手をかざし。呪文を唱える。緑色の光がピリアーを包み、その光が消えると、ピリアーは落ち着いた顔を取り戻した。
「あたしたちはみんなのところに行ってくるから、ピリアーは休んでて!あと10分くらいしたら治るから!」
「頼み・・・ます。」
あたしたちは部屋を飛び出し、爆発が起こったところに向かった。
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戦況は、芳しくなかった。現場に行ってみるとピリアーが言っていた状況からかなり変化し、颯介も羽矢斗くんも倒れていた。そして何とか意識を保ち、起き上がろうとしていたシアを、ミルが踏みつけた。
「ミル、こんな・・・どうしてこんなことしたの?」
あたしの問いかけに気付いたミルは、怪しい笑みでこう答えた。
「だって、街づくりをやめろって言ったのにみんな聞かないんだもん。だから・・・予告通り襲っちゃった。」
「襲ったって・・・あんたまさか!」
「キャハハハハハハ!そう、そのまさかよ!」
次の瞬間、ミルはまばゆいばかりの紫の光に包まれた。光が消えると、さっきまでのミルの姿はなくなり、そこにいたのは・・・『愛加の姿をした』Mだった。
「私が無防備に待っているとでも思った?そんなわけないでしょ。街づくりを再開しようとした瞬間に罰を与えられるようにミルとなって見張っていたのよ!怪しまれないように、ベルとシアとアンという操り人形まで作ってね。」
「そんな・・・でもあんたも女王様に命じられてここに来たんじゃないの?」
「そんなの嘘に決まってるでしょ。あたしが女王の正常な記憶を『破壊』して、ニセモノの記憶、あたしが前から城にいたということを埋め込ませたのよ。」
「『破壊』てことは・・・あんたの属性は・・・破壊なの!?」
「だーいせいかい♪つまりそれがどういうことか、頭のいいみんな、特に芽紅ちゃんならわかるよね。・・・みんなに勝ち目はないってことを!」
話し終えると同時に、ものすごいスピードでこっちに迫ってくるM。
「こんどは前みたいにはならない!『ファイヤーアロー』!そして『サンダーアロー』!」
「『アップ・レイド』!」
いつもの陣形で、2人は技を繰り出す。まどかちゃんが新技を繰り出してきたおかげもあって、Mも少々苦戦しているようだ。
「あたしも!『ラップ・リラーヴ』!」
そう唱えた・・・はずだった。いつも通り緑の光が2人を包み込むはずなのに、出てこない!はやくしないと、2人が力尽きる!
「先輩、もうそろそろ限界です!」
「わかってる!『ラップ・リラーヴ』!『ラップリラーヴ』!・・・なんででないの!?」
この状況にあたしは大あせりだった。何回やっても出ない。今まではこんなことなかったのに!
「『ファイヤーアロ・・・きゃあ!!」
「まどか!だいじょ・・・っつ!?」
結局間に合わず、2人は倒れてしまった。そして・・・
「かはっ・・・!!」
激しい痛みが背中を襲い、あたしもその場に倒れこんだ。
「くくっ・・・みんな無様だね。本当に無力だね。知ってる?人っていうのは1つの支えがなくなると一気に落ちるんだよ。まるで今のみんなみたいに。」
「こんな・・・ことって!」
「最期に言っておくね。明菜ちゃんの魔法を使えなくしたの私だから。私が明菜ちゃんの正常な思考を一時的に破壊したんだ。・・・じゃあ、バイバイ!」
Mにとどめを刺されると思い、覚悟を決めた。
・・・しかし、一向にとどめを刺されない。そう思ったあたしは目を開けた。そこには、バリアを張ってあたしをMから守ってくれていた、颯介の姿があった。
「・・・こんなところでくたばるんじゃねぇよ。俺らが必死でここまで態勢まもってたのによ。」
「颯介・・・ありがとう。」
そんな安堵もつかの間。
「・・・驚いたわ、もう死んだと思ってたのに。・・・まぁいいや、今日は殺すつもりなかったし。」
「・・・どういうことだ。」
颯介が怒りと憎しみに満ちた目でMをにらむ。
「そんな怒らないでよ、颯介君。私はこれからみんなに真実を教えてあげようと思ってるだけなのに。
「「真実?」」
「そう・・・見せてあげる、そして壊してあげる、全てを、ね。」
何を言っているかわからないまま、Mは背中を向け、右手を空に掲げた。
「じゃあいくよ。『ロッキングバースト』!」
Mの右手から、黒い渦が現れた。その渦はどんどん大きくなって、あたしたちを飲み込んだ。そして、あたりが闇で包まれる。
-----そして、訪れる静寂。
「・・・治さなくていいの?」
「えっ?」
「だから、傷ついた皆を治さなくていいの?もう魔法は解けたよ?」
「そ、そうだね。『ラップ・リラーヴ』。」
さっきまで失敗していたのに、今度はすんなりと成功した。
「っ・・・明菜・・・?」
「皆!よかった・・・。」
その場でお互いの無事を確認し、安心した。
「・・・終わった?全員起こしてもらわないと、これから真実を語るんだからさ。」
「真実?なんですか、それ。」
「今から教える。そんなあわてないでよ。」
Mは深呼吸を一つすると、今度は気味の悪い笑顔でこう言い放った。
「あたし・・・愛加が1ヶ月前に現実世界から消えたのはわかるよね?私も下校途中に取り込まれちゃったの、皆と同じようにね。それで、たどり着いたのはここだった。そこで凶悪なモンスターに襲われそうになったのを助けてくれたのが、『あのお方』だったの。」
「あのお方って誰?」
「それは言えない。口外を禁じられているからね。そこで、私はあのお方と契りを結び、この破壊属性を手に入れた。」
「なんでそんなことしたんだよ!現実に戻る手立ては考えなかったのかよ!」
「だって、こっちの世界のほうが居心地がいいんだもん。」
「なんで!どうして!あたしたち友達じゃなかったの!?」
あたしはむきになってそんな言葉を放ってしまったことを後悔した。なぜならそれは・・・
「私を愛加だって認めてくれたってことだよね、明菜ちゃん。」
「つっ!!」
「もう遅いよ。後悔したって遅いんだから。そう、あんたが後悔したって遅いのよ!!」
「!?」
「女王はね、皆が一番団結力があるから呼んだって言ってたけど、本当は明菜ちゃんだけ呼ぶつもりだったのよ!」
「「「「え・・・?」」」
誰もが予想していなかった言葉だった。あたしが、皆を巻き込んだっていうの?
「だとしたら、どうしてあたしなの?」
「まだわからないの!?私はっ!中学生までずっと一緒だった明菜ちゃんと高校でもずっと一緒にいたいと思っていたのに!明菜ちゃんは軽音部の皆と仲良くなっちゃった!私を混ぜようともせずに!」
「違う・・・。」
「そのせいで私は居場所を失った!明菜ちゃんと友達になる前のいじめられていたみじめな自分に戻った!そんな私がやっと見つけた場所だったのに、また明菜ちゃんは居場所を消そうとする!」
「違う!そんなつもりじゃなかったの!」
「うるさい!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!」
刹那、闇と闇の狭間からガラスのようなものが飛んできた。その一つは、見事にあたしの胸に命中。
「愛・・・加・・・。」
血を吐いたあたし。意識がどんどん遠のいていく。
「これが真実。つまり、巻き込まれたのは明菜ちゃん以外。明菜ちゃんは自分のせいでみんなを巻き込んだ。・・・リーダー失格だね。」
冷たい顔でそういった愛加。それを最後にあたしの意識は途切れた。