新しい仲間
あたしは気が付くと、真っ暗な場所にいた。自分の体さえも見えない暗闇。それなのに、1つだけはっきりと見える人影。・・・あぁ、またあいつだ。
『明菜ちゃん、さっきは楽しかったね。みんなのおびえた顔、最高だったよ。』
黙って。愛加の偽者であるお前なんかが気安く名前呼ばないでくれる?
『偽者って・・・ひどいなぁ、私たち幼馴染なのに、見分けすらつかないわけ?』
そんなことない、愛加は人を陥れて楽しむような子なんかじゃない。あんたとは違ってね!
『まだわからないの?明菜ちゃんのそのつまらない意地が、皆を巻き込むんだよ?』
うるさいうるさい!!もうあたしの前から消えてよ!!
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「-----っつ!!」
あたしはベットから飛び起きた。額には、本当に気持ち悪い汗がにじんでいた。最初は寝ぼけていたせいもあって全然状況が理解できていなかったが、すぐに自分はまたあいつの夢を見たんだと分かった。
昨日は芽紅とまどかちゃんと森の近くまで行って、そこであいつと会った時には本当に愛加かどうか半信半疑で。でもあの夢を見た今はっきりわかる。愛加はあんな薄気味悪い笑みなんか浮かべない。人を陥れるような真似もしない。・・・つまり、あれは愛加ではないのだ。
「そう、あれは愛加なんかじゃないんだ。愛加はあいつにとらえられてるのよ、きっとそうだ。」
自分で自分に言い聞かせながら階段を下りる。いつも集まる部屋に移動すると、そこには颯介とまどかと羽矢斗と、半ば寝ぼけ気味の芽紅がいた。
「おはようございます明菜先輩!・・・もう大丈夫なんですか?」
「あぁ、おはよ。うん、もう大丈夫だよ。」
本当はそこまで大丈夫じゃないんだけど、まどかちゃんにそんなこと言うと大パニックを起こしてしまうのだ。まぁ心配してくれてそういうことをするんだから悪気はないんだろうけど。それに、あたしがリーダーなのにここでへこたれているわけにはいかないわけで。
「ところで、ピリアーは?」
「ピリアーは昨日のMについての報告と、なんかいろいろもらってくるって言って2時間くらい前に女王様のところに行った。それまではいつMが襲ってくるかもわからないから、俺たちはピリアーが戻ってくるまで待機だ。」
腕を組みながら颯介が答える。それで思い出した、Mから開拓の中止を要求されていたことを。そして、ここで1つの疑問が浮かんだ。
「仮に本当に開拓を中止するとしたら、あたしたちどうなるのかな?」
入ってきたはいいけど、誰も出方をしらないのだ。羽矢斗君が口を開く。
「それは、女王様が何とかしてくれるんじゃないですかね?呼んできたのも女王様だし、何とかしてくれるんじゃ?」
「あぁー、なるほどね。じゃあピリアーがまた戻ってきたら聞いてきてもらおうか。」
「まぁ、開拓が中止になったらの話だけどね。」
ようやく目を覚ましたのか、芽紅がいつも通り眼鏡をかける。どうでもいいけど、芽紅ってここに来てから敬語からタメ口になったような気がする。人ってここまで変わるもんなんだなぁ。
「・・・ってこと。明菜ちゃんわかりました?」
「ふぇ!?何が?」
「聞いてなかったのかよ・・・。」
横から颯介が呆れたとでもいうようにため息をつく。既に芽紅の話は終わってしまっていたようだ。
「こんな凶悪モンスターがうじゃうじゃいるところに一般人を巻き込むくらいだから、女王様もそう簡単には引き下がれないんじゃないかって話。」
「確かに、こんな場所を開拓して町を創るって、なんだかおかしな話だよね。」
「だから女王様は、開拓と違う何かを私たちにさせようとしているんじゃないかって思うの。」
「開拓と違うなにか・・・ですか。もしそれが本当だったとして、それっていったいなんなんですかね?」
「わからねぇけど、今はピリアーが帰ってくるのを待つだけしか俺たちにはできない。」
「そうっすね・・・。」
そのときガチャっとドアがいた音がして、振り返ってみるとピリアーがいると思ったら、後ろには知らない人が4人いた。
「戻りました。」
普通に何食わぬ顔で入ってきたピリアーだけど、あたしたちは後ろの4人がめっちゃ気になった。
「おかえり。いろいろ聞きたいことはあるんだけど、とりあえず後ろの4人について説明してくれない?」
「あ、うん。今紹介しますよ。4人とも、お願いします。」
だったら最初から紹介しろ。まぁそんなことはどうでもいいや。
最初に現れたのは、2人の男女だった。
「皆さん初めまして。俺はベル。こっちは双子の妹の・・・」
「・・・シア。」
「俺たちは今回この町のギルド員としてここに来ました。よろしく。」
2人は金髪で、ベルはすごく頼りがいがありそうな男子、シアは無口な印象を受けた。
「次は俺か。俺はアン!ガルマジア村の武器屋の息子だ。この町の武器屋は俺が経営するぜ。」
赤毛で少し日焼けしたアンは、あたしが抱いている武器屋のイメージそのものだった。しかも、ちょっとイケメンかも。
「私はミル。女王様のメイドをやってたけど、その前は武器屋をやってたから今回こうやって女王様の名でここに来ました。」
ミルはミル以外の女子陣が全員嫉妬するような美少女だった。淡い紫の髪は見ただけでもサラサラ。顔はまるでお人形のようなきれいさだった。
「この方たちは、女王様が力になってくれるだろうとお呼びしてくださった方たちなんです。・・・と、ここにいるみんなは全員同い年だから、お互い気楽にいこうよ。」
ピリアーが双方に話すと、それにともなってそこに張られていた緊張の糸がプツッと切れたような気がした。
「じゃあ報告とかは後にして、4人の歓迎会も兼ねてお昼にしませんか?」
その提案をかけたのは芽紅だった。その考えを否定する人もいなくて、満場一致で昼食会&歓迎会が行われることになった。
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「ベル、シア、アン、ミル、私たちの街(仮)へようこそ!これからよろしく!ということで・・・」
「「「「「「「「「「かんぱーい!!!」」」」」」」」」」
オレンジジュースが注がれたグラスをその掛け声で上に掲げ、そして飲み干す。テーブルにはやはり羽矢斗が創造で出したフライドチキンやピザといった、パーティーの定番メニューが並んでいた。
「んまっ!羽矢斗創造使いこなせてるんじゃない?」
「まどか、それは魔法とは関係ないんじゃ・・・。」
「本によれば、食べ物だったら本人の想像力次第でうまいまずいが決まるらしいよ。」
「・・・ベルの友達が創造属性なんだけど、その時に料理出してもらった。かなりまずかった。」
「あはははっ!それ面白いな!村のやつらに教えてやろっ。」
ついさっき初めましてだったけど、皆が打ち解けるのに時間はかからなかった。まるで、昔から友達だったかのようなノリだ。特に羽矢斗とアンは気が合ったらしく、ずっとさっきから・・・なぜか変顔対決をしている。わけわからん。
こうして大盛況の中歓迎会はお開きとなったが、これで休んでなんかいられない。これからピリアーから
報告があるのだから。ちなみに4人はいても邪魔になるからといって戻っていった。村が形になり次第戻ってくるとのことだった。
「さて、じゃあ色々報告するね。まず昨日現れたMの要求なんだけど、これは気にせず街づくりを続けてほしい・・・って女王様言ってたよ。」
「はぁ!?仮に本当に襲撃とかしてきたらどうすんだよ!!」
颯介が立ち上がり、声を荒げて怒鳴った。
「それに関しては・・・もしそういうことが起こったら兵をこっちに送り込むらしい。」
「まぁそれならかまわねぇんだけどよ、女王ってのはこっちの安否お構いなしかよ?」
「確かに、これくらいのことがあったなら中止してもよさそうですし・・・。」
「それなりの理由があるんじゃない?まぁ女王様の命とあれば、しょうがないですね・・・。」
なんだか颯介は納得いってないみたいだけど、結局街づくりは続行する方向で話は固まった。まぁ納得いかなくてもここから帰る術を全員知らないから乗るしかないんだけどね。
「次にどんな村がいいかって話なんだけど・・・女王様がこんなキャッチコピーを考えてくれたんだ。」
そう言ってピリアーがポケットから取り出したメモにはこう書いてあった。
『Welcome勇者☆休息、娯楽の○○村☆(○○の中は自分で考えてね♪)』
「・・・・・・。」
「王女意外とお茶目だね・・・。」
「てか字汚い。」
そう、かろうじて読めるくらいの字だったのだ。(大事なことなので2回言いました。)まぁそんなことは置いといて、話を進めよう。
「ということは、勇者?が休めるような村にすればいいってことっすよね?」
「そういうことだね。てことは、まず食堂とか宿とかは必要だよね?」
あたしはメモを取り出して、必要な施設をメモする。
「娯楽っていうからには、なんか遊ぶ場所とかも必要じゃないですか?たとえば勇者だし・・・射的とか?」
「なんで勇者で射的なんだよ、子供じみすぎるし。それだったら訓練したいやつらのために訓練場も作ったらどうだ?」
「そしたら娯楽が消えるから・・・そうだ、私たちの世界にあったゲームを普及させちゃえばいいんじゃないかしら?オセロとか囲碁とかなら簡単ですしね。」
「あとは休息・・・回復できるようなところとか?たとえば黒瀬さんの属性で勇者たちを回復できる店をつくるとか・・・ですかね。」
「あたしはなんかここにしかない食材とか作り出して食堂の食材にしたいかな。じゃあ今みんなが言ったことをまとめると・・・」
【必要なもの】
・食堂、宿などの基本施設
・訓練場(射的?)
・あたしたちの世界のゲーム(オセロ、囲碁などの簡単なもの)
・あたしの魔法で勇者を回復できるところ
・ここにしかない食材
「まぁそんなところだな。てか射的入れたのかよ。」
「え、訓練しながら景品ゲット☆とかしたくてさ。」
「勇者は勇者で魔王倒すために必死だから、そこまでふざけないほうがいいと思うぞ、俺は。」
「はうぅ・・・デスヨネー。」
というわけで、射的のところを二重線を引っ張って消した。あたし的にはいい案だと思うんだけどね。
「ところで明菜先輩、この『ここにしかない食材』って、例えばどんなのですか?大概のものはほかのところにあるんじゃないですかね?」
「そういえば・・・うーん、ここにしかない食材・・・。」
あたしはここになくて、あたしが知っている食材を考えてみた。サトウキビ・・・はフトウジビとにてるし、大根はコンダーイと似てるし・・・なにか忘れてる気がする、あたしたちがいつも食べてて、ここにはないもの・・・。
「あ!ねぇねぇ、ここにお米ってなくない?」
「そういえばないっすね・・・それがいいんじゃないっすか?」
「決まりだな。」
こうしてあたしたちは、お米をここの特産物にすることにした。
が、1つ重要なことを忘れていた。それは・・・。
「種・・・どうやって手に入れるの?」