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第1話:いつもの光景



路上でパフォーマンスを披露する者、人々の賑わう声、風が吹けば木々のざわめき、そんな賑やかな城下とは裏腹に、城のある一室で苦悩する者が数名いた。


「あ゛ー、暇だぁー」


ここは“陛下直属特別トランプ兵隊長執務室”だ。“ダイヤ隊隊長”のはるはペンを投げ捨て、ツンツンしている金髪の後ろで腕を組み、力尽きたように椅子にもたれかかった。椅子がギィギィと悲鳴を上げている。


「煩いわね、ちょっとは黙ってできないの!?」


それに耐えかねた“ハート隊隊長”姫咲きさき。彼女はここ数日にわたる寝不足により、苛立ちはピークに達していた。


「自分が苛々してるからって俺にあたんなよなー。しわ増えるぜ~」

「なんですって!!」


ちゃかすようにニヤつく陽に姫咲は怒りを露にし、ガタッ!と音を立てて立ち上がる。そして自分の得物である剣を抜き、陽の鼻先へと突きつけた。


「もういっぺん言ってみなさい」

「お? やんのかコラ」


冷徹に言い放つ姫咲に対し、陽は挑戦的な笑みを浮かべながら、腰のホルダーから戦闘用の特別性カードを取り出し、チラつかせる。


「この……!」


姫咲は剣を振り上げる。その時だった。


――――バァァンッ


「「!?」」


2人の県下を仲裁するかのように、ドアの方から銃声が鳴り響いた。2人は驚き、同時にドアの方を見る。そしてサァッっと血の気が引いていった。


「2人とも、書類は進んでいるのかしら?」


普段から愛想笑い1つしない、冷静沈着な青い姫とも異名をとる“スペード隊隊長”の灑那さながにこやかに笑っている。しかもそれは笑顔というにはあまりにも胡散臭く、場合によっては恐怖とも捉えることができるような笑みだ。

2人は確信した。灑那は怒っている、しかも今までに無いほどに。2人が言葉に詰っていると、灑那の後に人影が現れた。2人は助かった!と思い、視線をあげる。


「灑那ー、追加の書類持ってきたよ」


2人が顔をあげると、そこにいたのは大量の書類を両手いっぱいに抱える“クローバー隊隊長”いつきだった。


「ありがとう。そこにでも積んどいてあげて?」

「クスクス、了解」


そういうと、樹はバサバサと書類を机の上に積み上げていく。


「あ、あの……樹?」

「そ、それって……!?」


姫咲と陽は顔を真っ青にしながらガタガタと震え、書類を指差す。


「ん?あぁ、いつもの消耗品とかの決算もあるけど、主に君たちの隊の器物破損への苦情が多いから、お詫びの文章書くほうがメインかもね」


ニコニコとしながら話す樹に2人は肩を落とし、深いため息をついた。そして立ったままブツブツと部下への文句を並べている。


「部下の失態は隊長の失態。きちんと指導しないからこうなるのよ」


灑那は冷たく言い放った。そしていつもの如くお説教が始まる。正座1時間は当たり前だ。そしてそれを苦笑しながら眺める樹。これがいつもの光景だ。

そう、いつもの。

お説教が始まってから40分程度が過ぎた頃、ドアの前で1つの足音が止まり、ノックの音が響いた。


「みんな、おるんやろ?入るで」


ガチャっとドアを開ける音と同時に入ってきたのは、城の“専属医師”暁那あきなだ。


「毎度毎度、ようあきへんなぁ」

「「暁兄!/那さん!」」


姫咲と陽は今度こそ助かった!と、笑顔で暁那に駆け寄った。

それにため息をつく灑那。


「暁那さん、今日はどうされたんですか?」


姫咲は嬉々として質問する。

暁那は独特な喋り方や医師という立場、なによりその気さくな性格からか城のみんなのお兄さん的存在なのだ。


「あぁ、まず樹にはいこれ。頼まれてた薬草や」

「もう手にはいったんですか?有難うございます」


樹の得物は香水、つまりは液状の薬だ。樹はその薬を自分で調合している。惚れ薬から毒薬までなんでも作れる、天性の才能をもっている。そのため、一般では手に入りにくい薬草は医師である暁那に頼んでいた。


「それ、何にすんだ?」

「うん。強力な痺れ薬でも作ろうかと思って」

「げぇ!?」


実は陽は一度樹の作業場に入ったことがあった。しかしそこで誤って痺れ薬の入っていた小瓶を頭からかぶってしまい、しばらく動けなくなったことがあった。樹によれば、弱めの薬だったからそんなに酷くはならなかったらしいが、それでも陽は半日寝込んでいたとか。

それからというもの、元々他人の出入りは少なかった樹の作業場は、さらに出入りが減った。


「まぁまぁ陽、そんな顔せえへんで!お前にもプレゼントあるんやで?」


暁那は二カッと笑う。

その言葉に陽の曇っていたいた表情は一気にパァっと晴れた。


「ホント!?何!?」

「そう焦らんで、ほれ、これや」


差し出されたのは1枚の紙。紙は黒い文字で埋め尽くされている。そして陽の晴れていた顔は段々と曇っていき、体はプルプルと震えている。


「いやぁ、リノちゃんって酒めっちゃ弱いんやな~。まさかアルコール消毒で酔うとは思わへんかったわ~」


リノとは陽の率いるダイヤ隊の中でも腕の立つ部下である。普段はとてもおとなしく、暴走する陽のストッパー役だが、酒にはめっぽう弱い。家を一軒潰してしまうほどの暴れ上戸になる。話からしてリノは医務室で暴れたのだろう。


「あ、暁兄……、この領収書って何……?」


嫌な予感のした陽は、冷や汗をだらだらと流し、下の方にホチキスで止められている領収書を指で差す。


「あぁ、それな。リノちゃんが暴れてしもて、薬やベッドの修理代が半端ないねん。薬はほとんどが樹の作ってるやつやからそんな掛からへんのやけど、ベッド代はごっつ掛かんねん。そこで経費のおっちゃんに言うたら、隊長にでも請求しとけって言われてな?せやからベッド代は陽の今月の給料から引いといたで♪」


ニコニコと話す暁那。

その言葉にピシリと音を立てて固まる陽。


「ふふ、陽ドンマ~イ♪」

「こればっかりは、庇ってあげられないなぁ……」

「部下の不始末を隊長が尻拭いするのは当然のことよ」


ざまぁみろと勝ち誇ったように笑う姫咲。

苦笑する樹。

きつい言葉を放つ灑那。

それぞれ好き勝手に言う3人に、陽は体をふるふると震わせ、ベルベットのような緑色の双眸を潤ませている。


「あっはっはっはっは!灑那ちゃんは相変わらず厳しいなぁ~、1番ぐさっときたんちゃう?」


ケラケラと笑う暁那に灑那は深海のように深い青色の瞳で鋭く光らせ、射抜くように暁那を見つめた。


「よけいなお世話ですわ。それに貴方、本当は何しに来たのです?こんな些細なことならドクターでなく、助手にでもまかせれば良いこと。他に言うべきことが、又は重要な用があるのではなくて?」


灑那の攻撃的な問いかけに、暁那はへらっと笑う。


「さすがは冷静沈着、才色兼備の青い姫。灑那ちゃんは勘がえ……」

「リノォォォォォォォォォォォ!!!」


今まで黙りこくっていた陽が何を思ったのか、暁那の言葉を遮り、突然リノの名を叫びながら走り出した。

が、部屋を出る前に樹と姫咲に止められる。


「ちょ、陽落ち着いて!」

「アンタのせいで暁那さんの言葉が遮られちゃったじゃない!!」


ギャーギャーと言い争う3人を見て、灑那は深いため息をつく。

暁那は頬を掻きながら苦笑していた。


「はは、俺喋っとたんやけどなぁ、陽はやっぱりやんちゃやな。まぁええわ。陽!」

「「「?」」」


暁那が呼ぶと、3人はおとなしくなり、暁那と灑那の方を見た。


「リノちゃんは今、樹の作った睡眠薬で寝とるからしばらく起きへんで。それに灑那ちゃんの言うとおり、もう1つ用があってここに来たんや」


そう言うと、先程までの笑顔ではなく、真剣な顔つきで暁那は言葉を続けた。


「女王陛下、国王陛下からお呼び出しや。何やら、いつもとはちょいと違ごた重要なことみたいやで。」


暁那は城の専属医師であると同時に城の中でも高官な重要人物なのだ。なので時々ある重要な任務の呼び出しや、女王陛下や国王陛下直々の呼び出しは暁那が行なっていた。

4人は先ほどまでの緩い雰囲気ではなく真剣な顔で、緊張感のある空気を纏い、「はい」と返事をし、部屋をでていこうとする。暁那はそんな4人をみて、「あ」と声を上げた。

4人は何だろうと後ろを振り返る。


「そこの書類、全部片付けてからやったわ」


暁那は笑顔で言った。反対に青ざめる陽と姫咲。そんな2人をよそに暁那は言葉を続ける。


「それも今日中や。でも来るときは4人揃って来てほしい言うてはったから、灑那ちゃんと樹も手伝ってあげてな。あぁ後、夜までには来てほしいとも言うてはったで」

「え゛っ!?」

「なっ……!?」


固まる樹と灑那。そして顔を青ざめたまま固まっている姫咲と陽を置いて、暁那は「ほな頑張ってな~♪」と言い残し、部屋を出て行った。

しばらく続く沈黙。


「姫咲、陽、樹、さっさと終わらせるわよ……」

「「「は、はい!!」」」


灑那のドスの効いた声でに3人は大きく反応し、それぞれの席に着き書類整理を始めた。




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