序章
室内遊戯のカードゲーム
『トランプ』を題材にしたファンタジーです!
「 」
日の沈んだ頃、森林の奥深くに隠れるかの様にひっそりと建っている一軒の屋敷があった。
その屋敷のある一室で、ジョーカーは呟いた。部屋は小さな小さな水晶とジョーカーから放たれる淡い光で満ちている。自分自身の半分以上の魔力を水晶に閉じ込めているのだ。
ジョーカーは瞳を閉じ、思い出している。家族や友人との思い出、今までの自分。そして自虐的に小さく笑った。すると、まるでそれが合図かのように光は弱まっていく。
出来上がったのは、血のような赤黒い水晶。しかしそれはどこか艶かしく、惹きつけられるような色だ。そして水晶とは反対に、魔力が抜け落ち燃えるような赤から深い青へと変化したジョーカーの瞳。
ジョーカーは水晶をそっと手に取り、見つめる。
「これで、終わりだ」
そう呟くと、水晶を口元へと運び飲み込んだ。
「う゛……あ゛……あ゛ぁ゛……」
水晶を飲み込むと、右目に焼けるような痛みを感じその場にうずくまる。
しばらくすると痛みは消え、ジョーカーの右目は先ほどの水晶のような血のように赤色に染まっていた。全身のほとんどの魔力が右目に集まったからである。
ジョーカーは用意しておいた封印用の眼帯をつけ、部屋を出た。すると、部屋の外には1つの影が。それは女の気配だ。魔力があることもわかる。それもとても強大な魔力だ。
「誰だ」
ここには自分以外いないはず。そう思っていたジョーカーは守りをしっかりしておかなかった事を後悔した。ジョーカーは大きすぎる魔力を持つが故、命を狙われることが多いからだ。
女は彼の気も知らず、コツコツとヒールの音をたてながらゆっくりとジョーカーに近づいていく。わずかな魔力しかもたない今の彼にとって、女のもつ魔力は大きすぎた。
更に近づく女。
「(魔女か……)」
ジョーカーの頬や背中には、つうっと冷や汗が流れる。
「ジョーカー、私よ」
「! アイリーン……」
窓から降り注ぐ月明かりに、波打つプラチナブロンドの髪、空色の瞳、美しいアイリーンの姿が照らされる。ジョーカーは安堵の息をついた。
「驚かすな」
「ごめんなさい。そろそろ終わる頃だと思って」
アイリーンは少し悲しげにめを伏せる。それにつられるかの様に、ジョーカーも目を伏せた。そして沈黙が続く。
「本当に、これでよかったの……?」
沈黙を破ったのはアイリーンだった。
「いいんだ」
「でも……!」
「いいんだっ!!!」
声を荒らげるジョーカー。その声はわずかに殺気を帯び、ビリビリと空気を揺らす。
「っ!……すまない」
ジョーカーはハッとすると、またも下をむいて謝罪の言葉を呟いた。
「私の方こそ、悪かったわ……」
またも2人を包む沈黙。しばらくすると、ふいにジョーカーが窓際へと寄った。
「私は……」
「?」
「私は罪を犯しすぎた。もう遅いかもしれない、けれど償いたいんだ。終わりの無い生涯をかけてでも」
「ジョーカー……」
窓枠に手をかけ、何かを思うように月を見つめながら語るジョーカー。言葉は間接だが、アイリーンにとってはずっしりと重みのある言葉だった。アイリーンは何かを悟ったように小さく笑い、ジョーカーに歩み寄る。
「今夜は月が綺麗ね」
ジョーカーは一瞬驚いたように目を見開いた。そしてすぐに憂いるように微笑む。
「あぁ……」
2人はしばらく儚げに、しかし微笑みながら美しく大きな満月を見つめていた。
ここから始まるは廻り廻る1つの物語。
役者は揃った。さぁ、立ち上がるのだ選ばれし者達よ!そして完結してみせろ、この
狂的なる偽りの喜劇を――――