表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

行く手を阻む崖野郎

日が昇ると同時に起床し、朝食用に取っておいた果実を貪りながら、木から飛び降りる。


この森でサバイバルな生活を繰り広げる事、早三日。


最初は川を辿れば自然と森から抜けられると高を括っていたが、どうやら事はそう簡単に済みそうもないらしい。


下流へ進めば、海が広がり。


上流へ進めば、崖が聳え立つ。


崖からは大量の水が激流となり、滝となり湖に流れ落ちていた。


こんな激流に飲まれてよく生きていたなと感心しながら、初日は泣く泣く元の場所へ戻る羽目となった。




森で生活する事、早三日。


寝床も滝の傍に移し変え、食料も魚と果実があるから飢える心配もない。


生きる為に必要な、最低限の要素は全て出揃っている。


後は、この森から脱出するだけ。


でも、それが出来ないから、困っているのだ。




森を抜けられたかと思うと、海が目前に広がっていて。


どうやら、俺が今いる場所はこの崖を除き、全ての森を海が周りを囲っているようで。


残すはこの、頂上が見えそうで見えない程の高さを誇る、崖野郎のみ。


こいつを越さない限り、俺はこの森から脱する事が出来そうもないらしい。


なので、一度意地でも登ろうと、ロッククライミングに挑戦してみたが、半分と行けず力尽き落下。


幸いにも足を強打するだけで済んだが、もう一度やれば骨折くらいはいくと思う。


でも、その時・・・、初めて体の異変に気づいた・・・。




腕力が、握力が、全くと言っていいほど出せなかった。




以前は片手で林檎を握り潰すぐらいはあったのに、今は両手で必死になって、やっとこさ握り潰せる程度。


いや、一般人の腕力か、それ以上の腕力はあるとは思う。


それでも、崖をよじ登るだけの筋肉が、この腕には全くと言っていいほど無かった。


それだけではない。


この体になってから得た身軽さは素直に評価してもいいけれど、短時間走るだけですぐに息を切らしてしまう、この体たらくは何だ?!


いや、以前と比べれば走る速度も増したし、跳躍力もこんな非力な体でよく出せているとは思う。


それでも、勇者としての観点から見れば、この肉体は脆弱と言っていいほど脆いと言える。



川の近くに歩み寄り、改めて自分の顔を拝見する。


水面に映るのは、赤い髪をした、目つきの悪い女。



俺と瓜二つな髪をもつ、女。



そもそも、どうして俺の体は、女になってしまった?


男を女に変える魔術なんて聞いた事もない。


聖剣がやったにしても、一体どうやって性別なんて変えたんだ。


いや、そもそも、この体は果たして俺の物なんだろうか?


もしかしたら、どこの誰かも分からない『誰か』の器に入れられているのかもしれない。


そうなれば、この女性には飛んだ迷惑をかけている事になる。


でも、俺もどうしてこんな事になったのか、全く検討がつかないんだ。




無の世界に返されたと思いきや、目が覚めればどこかも分からない樹海の中。


不運にも巨大狼に追い回され、愚かにも足をすべらせ、川に落ちる始末。


後ろには海が広がり、前方には崖が聳え立つ。


八方塞とはこの事か?




・・・とにかく、今はこの状況下で、何が出来るかだ。


崖を登るにしても、ある程度の筋力と持久力が必要だ。


ならば簡単な話、鍛えればいいのである。


だが、鍛えるにしても、崖をよじ登るだけの筋力を身につけるには、相当な時間が要するだろう。


ならば、イカダを作って海へ繰り出すとか?


アホか、そんな現実味のない手段がとれるか。


即遭難して、鮫にでも食われるのがオチだ。


ならば、なんだ。


やはりこの崖を意地でもよじ登るしかないのか。





ハァ・・・。





今もこうして全裸になって、座禅しながら滝にうたれてる訳だが・・・。


何?風邪引くって?


ハハハ、そいつは残念。


俺は今の今まで『風邪』とやらにかかった事がないのだ。


どうだ、羨ましいだろう?!


フハハハハ、ハハハ、ハァ・・・。




・・・とりあえず、鍛えるか。


腹筋+腕立てを100セットぐらいやれば、ある程度の筋力もつくだろう。


よし、これからの方針は決まった。


とりあえず、死に物狂いで鍛える事にする。


それで、少しの間を置いてから、改めて崖を登る事にする。


たとえ登れたとしても、その先に何があるのかも分からない。


もしかしたら、巨大狼のような化け物が、ウジャウジャいるのかもしれないし。


でももしかしたら、呆気なく人里に着けるのかもしれない。


でもその前にはまず、目の前に佇む崖野郎を越えなければいけないわけで・・・。


その為にはまず、鍛えなければいけない訳で・・・。




「ええい、考えても仕方ない!今は我武者羅になって、筋力を鍛える事にする!!」




こんな非力な腕では、お得意の剣術も使えないだろうし。


でも腕力を手に入れられれば、それも可能だろうし。


同時に、持久力も手に入れられるだろうし。


戦闘力が上がれば、死ぬ確立も減るだろうし。


強くなっても、損する事はないだろうし。


女になった原因も、それから探しても遅くはないだろうし。


聖剣に制裁を加えるのは、それからでも遅くはないだろうし。



座禅を解き、滝から立ち上がる。


同時に揺れ動く二つの物体。


ああ、そうだ。


鍛える前に一つだけ・・・。



「この馬鹿でかい脂肪を何とかしてくれ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ