露出狂から遭難者に
・・・意識が戻った頃には既に、闇が辺りを占領していた。
もうすっかり日も沈んでいる。一体どれだけ下流に流された?
けど、生きている。それだけでも運がいい方だろう。
水に沈んでいた体を無理矢理起こし、岸に手をかけ、川から抜け出す。
あーあ、せっかく拾ったローブもびっちゃんこじゃねぇか。
これなら、全裸の方がまだマシかもな・・・。
『良さげなローブ』を脱ぎ捨て、再び全裸になる。
昼は『肌寒い』程度にしか感じていなかったが、夜の寒さはそれを遥かに凌駕していた。
それと相まって全裸でビッチャンコとなると、その寒さは凌駕していたそれをも凌駕していた・・・。
要するに極寒並みの寒さって事だ。
寒い通り越して熱いと感じるぐらいだから、相当ヤバイかもしれん。
白く健康そうな女の肌も、青白くなりつつある。
だが・・・、周りを見渡す限りやっぱり、視界には緑しか映らない。
・・・とにかく、この寒さを凌ぐ為の寝床を探さなくちゃいけない。
幸いにも服は手に入れた。あとは寝床と食料だけ・・・。
いや、食料は問題ないだろう。
辺りに落ちている木の枝をかけ集める。
・・・よし、これぐらいでいいだろう。
こういう場面に陥った時の事も考え、不得意な魔術を覚えておいてやはり正解だったな。
『フレイム』
初級魔法・フレイムを指先から発動し、木の枝に点火させる。
瞬く間に枝から枝へと燃え移り、焚き火を作った。
・・・これである程度寒さは凌げるな。
濡れきったローブを焚き火のそばで広げる。明日には乾くかな?
まぁ魔法といっても、俺には一般的で常識的な物しか使えない。
こういう非常時の為にしか使う必要がないとも言える。
なんせ俺には聖剣があったし、何よりチンタラ詠唱するよか真っ先に剣で切り付けた方が、魔物相手には効率が良かったからだ。
その剣が聖剣ともなると、どんな魔物でも一撃で粉砕できたりできなかったり・・・。
だから勇者と呼ばれる俺も、聖剣に頼らないとただの人である事に違いは無い。
ただ少しばかり、武術に心得があるだけ。
ただ少しばかり、常人には出来ない事が出来るだけ・・・。
常人には出来ない事。
例えば、こんな事だ・・・。
川の流れに佇む、小さいが少しばかり大きめな石に体の重心を乗せる。
小石の上を片足で立ち、深呼吸。
この状態から少しばかり手を伸ばせば、すぐに水に接触できる。
俺の取り得と言えばこんな事しかない。
指一本と動かさず、足に着いている石と同化する事で、自然に溶け込む。
頭は思考で一杯。
これから、この先どうすればいいのかで頭が一杯。
こんな何処かも分からない場所に放り込んだ聖剣を、どうしてくれようかで頭が一杯。
それでも、体は指一本と動かさない。
近くにはいるが、未だ一瞬で手が届く先にはきていない。
だから、未だ体は動かさない。
少しでも波を立てれば、彼らは一瞬で散って行ってしまうから・・・。
だから、体をうごかさ・・・きた。
無音で波を立てずに、瞬間的に手を水の中へ突っ込む。
掴んだ先には、この川で生活していたであろう生物。
掴んだ生物を焚き火の方へ投げ飛ばす。
悪いが、今日の晩飯になってもらう。
同時に、近くにきていた魚達を片手で突っ撥ね、焚き火の方へ弾き飛ばす。
逃げ纏う魚達の逃げ道を片手で断ち、もう片方の手で新たに彼らを突っ撥ねる。
その作業を1分程続けた所、数十匹にはなったであろう魚達が焚き火の傍で跳ね回っていた。
よし、これくらいでいいだろう。
その辺に落ちていた、串になりそうな形をした石を拾い集め、彼らの頭からぶっさす。
彼らを焚き火で炙りながら、寝床はどこにしようか、辺りを見回してみたところ・・・。
・・・あの木なんて良さげなんじゃないか?
火で炙った魚を口にしながら、目をつけた木に歩み寄る。
周りの木よか、少しばかり大きいだろうな大木。
その頂上には、人が乗っても折れなさそうな、しっかりとした太い枝が生えている。
試しに足で跳躍してみた所・・・うん。
以前のような跳躍力は無いが、これならあの枝までわざわざ登らなくても、飛べば手が届くだろう。
一気に跳躍し、枝に手をかける。
・・・よし。思ったよりも頑丈な枝なようだ。
寒さも他の枝から生えている葉っぱが周りを覆いつくしてるから、ある程度は凌げると思う。
これで乾いたローブを体に包めば、この寒さも難なくやり過ごせるだろう。
たとえ野生の動物が襲ってきたとしても、木の上にいるからそうそうな事がない限り危険はないし。
それに、何らかの危険が迫れば、瞬時に目が覚めるだろうし。
ただ、俺の寝相で木から転げ落ちなければの話だが・・・。
まぁ、その前に獲った魚さんを有難く頂戴するとするか。
木から飛び降り、再び野生の食事を再開する。
これからどうなる事やら。
文才なんて・・・文才なんて・・・ウワァァァアアアン!!!




