勇者から露出狂に
ここは何処だ。
どうして体が女になっている。
そしてどうして・・・全裸なのだ。
と、とにかく、頭を整理してみよう。
こういった予測不能な事態に陥ったのは、初めてじゃないしな。
よし。ではまず、どうして俺が生きているのかを推測しよう。
俺は確かに、あの時無に返された。
だが何らかの力によって命を救われ、今ここに立っている。
とりあえず聖剣の仕業にしておくとして・・・。
次は何故、全裸なのかだ。
『転移』系の魔法でなら、身に纏っている衣服と共に移動できる。
だが『空間転移』系の魔法は、その生命自体しか移動出来ない。
ようするに全裸にならないと空間移動できないって事だ。
となると俺は『空間転移』系の力によって何処か知らない場所へ飛ばされた・・・、でいいのかな?
それなら俺が全裸なのも頷けるし、この状況も理解できる。
それとも、或いは無の世界で着ていた服を塵にされたのか・・・。
では、何故俺は生きているのか・・・?
・・・まあ置いといて。
じゃあ最後の推測だ。
何で俺の体が女になっている。
これが今俺にとっての最大で、最重要な要素だ。
何処へ飛ばされたとか、何で全裸なのかとか、そんな事ちっぽけに思えてしまう程の要素だ。
肉体が女になってしまう事態、事例なんて聞いた事もないし、知りたくも無いわ。
でも現に俺の体は女になってしまった。
これは何らかの力によって肉体を改変させられた、と見ていいだろう。
その『何らかの力』は聖剣の力と見ていいだろう。
ここへ飛ばしたのも聖剣の仕業と見ていいだろう。
女に姿を変えたのも聖剣の仕業と見ていいだろう。
・・・川なんて生易しい、今度会ったら海に沈めてやる。
そう心に決めながら、客観的に自分の現状を考えてみる。
『森の中で全裸の女性が頭を抱えて座り込むの図』
・・・これちょっとヤバイんじゃないか?
例えば、ここがどこかの田舎の村の近くだったとしよう。
例えば、村の爺さんか婆さん、或いは子供が芝刈りにきたとしよう。
そこで出くわすは全裸の女性コト変態露出狂。
・・・考えたくもない絵図だな・・・。
そんな事が現実に起これば、俺の羞恥心が爆発して口から嘔吐を吐き出しながら気絶する事だろう。
ってか、何で俺はこんな壊滅的な思考をしているんだろうかね・・・。
体が女になったせいで、ネガティブにでもなってるのか。
落ち込んでる暇があるなら少しでも現状を改善させる為に行動すればいい物を。
でも、それも仕方ない気がする。
森で遭難した経験はあるが、全裸で放り込まれた経験はない。
武器も食料もない。
そんな状況でどうやれば、ポジティブな考えが浮かぶのだろうか。
でも落ち込んでるだけじゃあ、現状は何も変わらない。
という訳で、行動に移すことにする。
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今の所、人の気配は感じ取れないが、近くに村里か集落があるかもしれない。
そこで山賊に身包み剥がされたとか、適当に誤魔化して服でも何でも体を隠せる物を分けて貰えばいい。
そしてあわよくば、食料を分けて貰えばいい。
そんな淡い期待を抱きながら歩を進めていると・・・。
ある程度歩いた先に洞窟っぽい祠を発見。
何か良からぬ気配を感じるが、人かもしれないので覗く事にする。
気配を殺し、中を覗くも・・・。
・・・っ!!
な、何だ、あの良さげなローブは?!
茶色くて分厚そうなローブが、奥の方に落ちていた。
だが、奥の方から良からぬ気配を感じる。
でも、暗がりのせいでよく見えん。
しかし、あれさえ手に入れば、こんな肌寒い格好からもおさらば出来る!
目を光らせながら洞窟の奥へ足を進め、ローブに手をかける。
勇者は『良さ気なローブ』を手に入れた。
王道RPGに良くある効果音を奏でながらも、同時に横にいる物体の正体に気づく。
凄く・・・毛深いです。
その正体は、ワーウルフと呼ばれる狼の、数倍の大きさはあるだろうモンスター。
よく見ればそこらじゅうに、奴の餌食になったであろう骸骨が散らばっている。
恐らく、このローブも彼らの物だろう。
有難く頂戴し、俊足に、かつ無音で素早く洞窟から外へ抜け出す。
それと同時に、巨大狼も洞窟から飛び出してきた。
目を赤く光らせ、口からは涎が溢れんばかりに流れ出ている。
どうやら俺を食うつもりのようだ。
戦いたいのは山々だが、こんな全裸で武器もない状態で戦えというのは、些か鬼畜すぎやしないだろうか?
せめて武器らしい武器が欲しかった・・・。
当ても無く森の中を駆け抜け、それに食らいつくように巨大狼が追いかけてくる。
走りながらも器用に素早く、手に入れたローブを羽織る。
うん、少しは寒さに耐えられる作りをしているな!
ああでも、くそ!
コイツを食料にすれば万事OKなのだが、武器がないから逃げるしかない!
素手で戦うという手段もあるが、そんなの無理に決まってるだろう?!
でも思ったより足の速度は速く、どんどん狼との距離を切り離していく。
女になったお陰で身軽にでもなったのだろうか?
少しだけ女になった事に感謝しつつも、みるみる速度を上げていく。
これならあの狼も撒けるだろう。
あの狼も俺の逃げ足に諦めたのか、追うのをやめたようだ。
ふ、思い知ったか、獣の分際で!
そう思った瞬間、足が地面に着かなかった。
前言撤回。
獣は俺よりもよっぽど賢かったようだ。
狼に気を取られていたせいで、目前に広がる谷に気づけなかった。
崖の下には川があり、その川に一直線に落ちてしまった。
這い上がろうにも、落ちた衝撃が強すぎて体が言う事を利かない。
自分の馬鹿さ加減を呪いながら、底の見えない闇へ溺れていく。
こんなマヌケな死に方(溺死)するくらいならやっぱり、勇者らしく魔王と相打ってれば良かったと心底思ったユルカであった。




