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ハナちゃん  作者: 志村菫
9/12

再会の夜

 私の、初恋だった……。もうはるか昔のお話だわ。

 そう……マサルさんと会わなくなってから、暫くは人の姿になる事はなかったけれど、ここからいつもの景色を眺めていて、どうしても気になる人を見つけた時、私は再び人の姿になる。


 今夜はそれほど気になる人は……なんて思っていた矢先、中学生らしき少年がこんな夜中にフラフラと歩いているのが見えました。

 危なっかしいと思っていたら、不良高校生っぽい三人が少年を囲み、連れて行こうとしています。ちょっと行って来なくてはいけません。


 人気のない裏道に連れて行かれ、カツアゲでもしようとしているようです。いくら何でも、男性三人に対して力では叶いません。さぁ、いつもの古典的な方法でいきましょう。


「おまわりさーん、こっちこっち! 捕まえて下さい!」


 そう叫ぶと、簡単に不良たちは退散しましたが、少年はイライラしてこちらを睨んでいます。


「余計な事はやめろよ、おばさん!」


 キツイ口調の割に少年の顔は真っ青でした。


「もう帰ったほうがいいわよ。補導されるわよ。さっき警察の人がウロウロしてたし」

「ウソだろ?」

「さぁ、どうかしら」

 意味ありげに私が微笑むと、慌てて少年は歩き出しました。

「私、教師なの」

 咄嗟にそんなウソが出てしまいました。

「生徒が最近夜遊びしてるって聞いてね」

「ウソだろ?」

「まっ、一応保護者の方に連絡して迎えに来てもらうわ」

「ちゃんと一人で帰れるよ」

 歩き出した少年の跡を、私は付いて行きました。

 公園の横を通ると、桜が綺麗に咲いていたので思わず立ち止まって見つめてしまいました。 

 ああ……そうね、一緒に観たいって言ってくれたわよね? なんて感傷に浸っていたら、少年の携帯電話が鳴り、戸惑いながら少年は電話に出ました。


「何? だから入学式なんて出ないし、あの高校へは行かない……」

 隙を見て、私は少年の携帯電話を奪いました。

「あの…保護者の方ですか? 駅のマネキン人形の所にいますので、迎えにきてあげて下さい。お願いします」

「ちょっと、何するんだよ!」

 素早く切ると、携帯電話を少年に渡しました。

「まださっきの奴がウロウロしてたらどうするの?」

 そう言うと、少年はふて腐れた様に歩き出しました。


そして暫くの時間、私と少年は並んでマネキン人形の右足の方にいました。

 時が流れ、街の景色が変わり、ここから見える景色も少し変わったようだけど、あの頃あの人と見たあの景色を私は忘れません。何度も溜息を付く少年の横顔を不意に見ると、なぜかドキリとした。

……似ている……。


「おい、ナオ!」

「何だ、お父さんが来たの?」

「お母さんは家で待ってる。風邪引いてたろ? 熱が出て……」

 父親の顔を見て驚きました。マサルさんでした。

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