タイムリミット
「えっ? 水族館?」
「うん。あっ、今じゃなくて就活がうまくいったら一緒に行きたいなって……ほら、前に遊園地や水族館に行った事ないって言ってたから……」
マサルさんは、夜中に会うだけじゃなくて、今度は水族館や遊園地へ行こうと誘ってくれました。
「でも珍しいね。遊園地や水族館に行った事がないなんて……」
「は、はい……あんまりここから出た事がなくて」
「じゃあ、オレと行くのが初めてになるんだね。なんか楽しみだな……絶対に行こう!」
「そうですね……い、行けたら楽しいでしょうね……」
私は曖昧な言葉で誤魔化すしかありませんでした。
ある夜、人の姿になった私は……この街からもっと遠くへ行こうと試みました。
歩いて隣の街へ……ドキドキワクワクしながら……。
でも、気が付いたらいつもの場所に立っていました。
それでも諦めきれず、拾った切符で地下鉄に乗ろうと改札に向かったら……やっぱりいつもの場所に私は立っていたのです。
そうです……。残念ながら、私がこの場所から出て行く事は不可能のようです。
私の足元で待ち合わせた人々は、「今日は遊園地楽しみだね」とか「映画は何を観る?」などの会話でとても楽しそう。でも、私はその場所に行ける筈もなく……。
「そうそう……水族館っていえば、子供の頃の事を思い出したんだ。昔さぁ、自転車で10分位の場所に小さな水族館があって、年間パスポートみたいな? そういうのをおじいちゃんに買ってもらって通ってたんだよ……ただ、魚を見てるのが楽しくて……でも、中学に上がる頃に引っ越しちゃって、それから行かなくなって……」
それでも私は、私の右足で……マサルさんの隣で……マサルさんの話を聞いているだけで……マサルさんと同じ目線に自分が存在していることだけで、とても幸せでした。
でも、きっとタイムリミットが近付いている事が分かっていましたので、この時間を大切にしようとマサルさんの横顔を、ただ見つめていました。




