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ハナちゃん  作者: 志村菫
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夜の魔法

 暫く彼は私を真っ直ぐに見つめるので……もうドキドキが止まらなくて……。


「オレの話、聞いてくれるの?」

「えっ? ……あ……はい……」

「もうさぁ、誰かに話したくて……」


 私と彼は、私の右足に並んで座ると、彼はちょっとお酒の匂いをさせながら、就職活動がうまくいかない……もう数え切れないくらい落ちてしまった……。そう言って、悲しそうに俯きました。


「最初はさぁ……友達に相談したりしてたんだよ……でもさぁ、周りの奴らどんどん就職が決まって……でさぁ……変に慰められたり……気ィ使われたりして……だから、もう誰にも話せなくなっちゃって……」

 私は彼にどんな言葉をかけたらいいのか分かりませんでした。でも、どうしても彼に元気になって欲しかったので……。

「元気出して頑張って下さい!」とありきたりな言葉を掛けたのです。

 でも彼は「もう頑張れないかも……」と言って私の肩に頭を乗せて、ウトウトし始めました。うわっ! やっぱりドキドキして……私も彼の横で夢見心地で目を閉じて……。


 気が付いたら朝で、私はいつもの位置でいつもの姿になって立っていました。どうやら彼は、朝方まで私の右足で寝ていたようです。そして起き上がると慌てて帰って行きました。

 それ以来、私は夜になると、たびたび人の姿に変わる事が出来るようになったのです。彼とも私の右足で会う様になり、彼は私にお酒を飲みに行こうと誘ってくれますが、彼が酔って眠ってしまったら困るので、お酒を飲まず、いつも私の右足で話をするようになりました。


「ねぇ、学生? 働いてるの?」

「えっと、いろんな洋服を着たり、PRとかもしたり……」

「ああモデル? やっぱりね。スタイルいいもんね」

「生まれつきです」

「うわっ! 何か自信があっていいなぁ……夢もありそうで……」

「夢? 私が?」


 マサルさんは就職活動がうまくいかなくて、ずっと私に愚痴をこぼしてばかりでした。私はただ、黙って話を聞いていました。それが嫌ではなかったので……。

「ああ……夢か……夢って何だっけ」

 マサルさんはそう言って、遠くを見つめました。

「そもそも僕は、この世界で必要とされているんだろうか」

 もう、そんな事を言うもんですから、もう黙って話を聞いてなんていられなくて、私は思わずムキになってしまいました。


「必要です! だって、私はマサルさんと話したかったんですから。ずっと」

「ずっと? オレのこと知ってたの?」

「はい。ずっと上から見てました」

「は? 上? 上って?」

「……ずっと上の、同じ景色しか見ていなかった私が、マサルさんのおかげで違う景色を、こうして見る事が出来たんです!」

「えっ?」

「きっと神様が魔法をかけてくれたんだと思うんです……」

「魔法……?」

「あなたを想わなかったら、きっとこんな時間はなかったんです!」

「よ、よく分からないけど……」

「いいんです。分からなくても……私の独り言なので……気にしないで下さい」

 マサルさんは不思議そうに私を見つめて……少し照れたように微笑みました。

「あ……ありがとう……そんなふうに言ってくれて……嬉しいよ……」

 すると、マサルさんは急に私の手を取りました。

「ちょっと歩こう!」

「えっ?」

 私たちは走り出しました。

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