時の流れ
「ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした」
「い、いいえ」
マサルさんと目が合いました。
年を重ねて、白髪が混じった髪、目じりには薄っすらと皺が刻まれていましたが、優しそうな目元はちっとも変っていなくて、胸が熱くなりました。
「帰るぞ。おい、ナオ?」
相変わらず、ふて腐れた顔をしてナオくんはマサルさんを睨みます。
「なぁ、ナオ。第一希望じゃない学校へ行きたくない気持ちは分かる」
「お父さんには俺の気持ちは分からないよ……受験に失敗した事ないだろ?」
「ああ……だけど、就職の時はかなり苦戦したよ……」
「ウソだろ? 今の仕事は天職だって言ってたじゃん」
「でも、すんなりと今の職場に就いた訳じゃないぞ……」
そう話しながら、マサルさんは私の右足に座り、ナオくんを隣に座らせました。
「お父さんは、いい学校を出て大企業に就職するつもりでいたけど、就活がうまくいかなくてさぁ……もう落ち込んで落ち込んで……そうそう、ここで酔っ払って寝転がってたっけな……」
「えっ! ここで?」
「ああ……あの頃……なぜかよく覚えてないんだけど……」
マサルさんは遠くを見つめながら少し首を傾げました。
「どうして急に水族館へ行ったのか……就活中なのにそんな余裕はなかった筈なのに……でも、無性に行きたくなって、子供の頃によく通ってた水族館にフラッと出かけたんだ」
一緒に行こうって誘ってくれましたね……でも叶わなかった……。
「引っ越してから何年も行っていなかったのに、館長さんが覚えていてくれて、お父さんに話しかけてくれたんだ。その時、あれこれ話しているうちに、水族館が存続の危機にあるって聞かされて……」
「えっ? あの水族館って閉館しそうだったの?」
「もう何十年も前の話だよ。でもその話を聞いて、居ても立っても居られなくなって、迷わずそこでアルバイトをし始めて、気が付いたら正社員になってた……今じゃ、ちょっと頼りないけど、館長だ」
マサルさん……大好きだった場所で働いていたんですね……良かった。
「自分で言うのもなんだけど、今の水族館になるまではかなり苦労したよ……でもやりがいを感じて、いい仕事に就いたって思えた……みんなで力を合わせて……」
「へぇ……」
「うまくいかない事や思い通りにならない事があると辛いよな……でも、これから通う高校でどんな景色が見えるのか、まだ分からないだろ? なぁナオ? ……お父さんは壁にぶち当たった時、いつもそう思うようにしてるんだ」
そこには、父親の顔をしたマサルさんがいました。




