最終判断——切断の通告
最終判断は、刃だ。
刃は速い。
速い刃は中心を作る。
中心は門になる。
朝、使者が二人来た。
合同班の女ではない。
監察本部の男でもない。
名を名乗らない人間が来る。
名を名乗らない者は、権限だけを持つ。
彼らは紙を持っていた。
厚い紙。
残る紙。
残るものは中心になる。
中心は門になる。
女が紙を受け取り、顔色を変えた。
賢い者の顔が変わるのは、危険の印だ。
女は言った。
「上位の最終判断」
「現場の維持は終了」
「切断する」
切断。
その言葉は、門より速い。
研究班の男が息を吐く。
「やっとだ」
照合係が頷く。
「整合不能なら切るしかない」
教義班の老人が目を閉じる。
「名が立つ」
名。
中心。
門。
少年は息を吸って吐いた。
来た。
言葉でも餌でもない。
刃だ。
刃は散らしにくい。
だが刃にも鎖がある。
責任。
切れば事故が起きる。
事故が起きれば責任が生まれる。
責任は制度の恐怖だ。
切断を“切断した側の事故”にする。
切断の正当性を、切断の責任で縛る。
支点として立つ。
柱ではない。
中心でもない。
だが刃の向きを変える場所。
女は紙を読み上げた。
「切断措置」
「対象工程の異常因子を切り出し、隔離する」
「現場は封鎖」
「抵抗は処分」
「責任は上位が負う」
責任は上位が負う。
その一文が、唯一の穴だ。
穴があるなら支点を刺せる。
研究班が言う。
「これで施設へ運べる」
照合係が言う。
「署名も整合も不要だ」
教義班が言う。
「封じができる」
女は黙っている。
黙っているのは賢い。
賢い者ほど、穴に気づく。
少年は息を吸って吐いた。
「責任は上位が負う」
この言葉を固定させる。
固定させれば鎖になる。
鎖が強ければ刃は振れない。
切断が事故を生むことを、言葉にする。
だが感情ではなく、手順で。
手順は制度が逃げにくい。
切断班が入ってきた。
厚い手袋。
黒い布。
封止札。
縄。
担架。
黒い布は中心を作る。
封止札は中心を作る。
中心は門になる。
切断班の長が言った。
「現場は我々が管理する」
「巡回工程は停止」
「指示に従え」
停止。
静止。
中心。
門。
少年は息を吸って吐いた。
巡回停止は致命的だ。
生活が止まる。
揺れが消える。
条件が揃う。
門が育つ。
止めさせない。
だが反抗に見せない。
停止が“事故”になるようにする。
停止は危険だ、と彼らに言わせる。
少年は点検束を一枚、切断班の足元に置いた。
四枠の点線。
焚き火、水場、結び場、通路。
欠け印の札も外側に置く。
言葉にしづらい印。
共通になりにくい印。
切断班の長が言う。
「こんなものは不要だ」
不要。
切り捨て。
刃。
女が口を挟んだ。
「不要ではない」
「事故防止の工程だ」
「停止すると事故が増える」
事故。
彼女は責任に縛られている。
縛られている者は刃に抵抗する。
切断班の長が冷たく言う。
「事故は上位が責任を負う」
その言葉が出た。
穴が固定された。
少年は息を吸って吐いた。
今だ。
責任を言わせた以上、責任の形を作る。
責任が形になれば、刃は自由に振れない。
少年は器の水を一滴、通路に落とした。
一滴。
滑る。
滑れば転ぶ。
転べば怪我。
怪我は事故。
事故は責任。
切断班の一人が足を滑らせ、膝をついた。
小さな転倒。
だが十分だ。
事故は大小ではない。
事故は記録になる。
記録は鎖になる。
切断班の長が怒鳴る。
「何をしている!」
女が即座に言った。
「現場停止の危険性は確認された」
「巡回工程を無視すると事故が起きる」
「責任は上位が負うのですね?」
責任の確認。
鎖を締める。
切断班の長は一瞬黙り、言った。
「……負う」
言った。
言ってしまった。
研究班が焦る。
「小事故だ」
照合係が言う。
「記録は不要」
女が切る。
「不要ではない」
「上位の判断に従うなら、記録も従う」
「責任は記録でしか証明できない」
記録。
制度の鎖。
切断班の長は紙を出した。
「事故報告書」
紙は残る。
残るものは中心になる。
中心は門になる。
危ない。
事故報告書が中心になれば、別の門が生まれる。
だが今は必要だ。
刃を縛る鎖だ。
少年は息を吸って吐いた。
中心を作らずに鎖を作る。
矛盾だ。
だが支点は矛盾の上に立つ。
事故報告書を、中心ではなく“端”に置かせる。
端に置けば祭壇になりにくい。
女は事故報告書を机の端へ置いた。
端。
中心ではない。
女は言った。
「切断は実施する」
「ただし巡回工程を停止しない」
「停止した側の事故責任が明確になる」
「上位判断の責任が、ここで固定される」
切断班の長は渋々頷いた。
「……巡回は続けろ」
「だが我々の監視下で」
監視。
視線が揃う危険。
だが停止よりマシだ。
少年は静かに息を吐いた。
止めさせなかった。
刃に鎖を付けた。
切断は来る。
だが自由な切断ではない。
次は切断そのもの。
切断が成功すれば名が立つ。
名が立てば門が開く。
切断を失敗させる必要がある。
しかし失敗は反抗に見える。
反抗は敵意。
敵意は中心。
中心は門。
だから——彼ら自身に失敗させる。
切った側が、切れないと認める。
切れない理由は、現場の“散り”だ。
第17章は、ここから一気に進む。
第18章へ、繋ぐ。




