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英雄の名が消える朝、弟子だけが師を呼んだ  作者: swingout777
第16章 別手段——交換条件

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餌——ありがたさが揃う前に散らす

餌は、甘い。


甘いものは集まる。

集まれば中心になる。

中心は門になる。


補給が届いた。

水が増える。

布が増える。

食糧が増える。

薬が増える。

火種が増える。


増えたものは、喜ばれる。

喜びが揃うと拍になる。

拍は糸になる。

糸は門になる。


隊員たちは口々に言った。


「助かった」

「ありがたい」

「これで耐えられる」


ありがたい。

その言葉が危ない。

ありがたいは借りを生む。

借りは契約。

契約は門。


少年は息を吸って吐いた。


否定しない。

否定は冷たい。

冷たさは敵意。

敵意は中心。

中心は門。


だが揃えさせない。

ありがたいの言葉を、共通にしない。

共通は糸。

糸は門。


喜びを散らす。

散らして生活へ落とす。

生活は揃わない。

揃わなければ門になりにくい。


合同班は補給に札を付けた。


「支給」

「事故防止措置」

「条件:工程点検の実施」


条件。

札。

残る紙。

残るものは中心になる。


研究班の男が言う。


「条件は守れ」


照合係が言う。


「履行を記録しろ」


履行。

記録。

糸が太る。


少年は息を吸って吐いた。


履行を履行にしない。

履行を生活のついでにする。

記録を記録にしない。

記録を消費にする。


条件を満たすが、条件の形を固定しない。


少年は補給を一か所に集めない。


一か所に集めると中心になる。

中心は門になる。


水は水場に。

布は結び場に。

食糧は焚き火の外側に。

薬は通路端に。

火種は焚き火から離れた影に。


散らす。

散らせば取りに行く道が割れる。

割れれば拍が崩れる。

拍が崩れれば糸になりにくい。


隊員が言う。


「まとめた方が管理しやすい」


管理。

中心を作る言葉。


少年は息を吸って吐いた。


管理を否定しない。

だが管理の単位を小さくする。

小さくすれば中心になりにくい。


「工程ごと」


そう言わず、そうなる配置にする。


免責の紙も届いた。


監察本部の男が読み上げる。


「過去の追及を保留する」

「処罰を猶予する」


猶予。

甘い。

甘いものは揃う。

揃えば糸。

糸は門。


隊員の顔が緩む。

緩んだ顔が揃うのが危ない。

安心は拍。

拍は糸。


少年は息を吸って吐いた。


安心を壊さない。

壊せば恨みになる。

恨みは中心。

中心は門。


安心を散らす。

安心を“個々の小さな動作”に落とす。

大きな安心は共通になる。

小さな安心は揃いにくい。


少年は布を一枚ずつ手渡した。

まとめて配らない。

まとめて配ると式になる。

式は中心。

中心は門。


一枚ずつ。

渡し方も違う。

言葉も添えない。

言葉を添えると感謝が揃う。

揃えば糸。


渡された者は各自で使う。

拭く者。

巻く者。

結ぶ者。

畳む者。

使い方が揃わない。

揃わないなら共通になりにくい。


誰かが言う。


「助かったな」


もう一人が言う。


「いや、まだだ」


揃わない会話。

揃わないなら拍にならない。


合同班は“工程点検”を求めた。


女が言う。


「点検の履行が条件」

「点検が滞れば補給は止まる」


止まる。

脅しの形。

脅しは敵意を生む。

敵意は中心。

中心は門。


少年は息を吸って吐いた。


補給を盾にされると、現場は揃う。

揃えば門が育つ。


盾を盾にしない。

補給を“条件の対価”ではなく“事故防止”に戻す。

彼女がそう言った。

その言葉を使う。


少年は女の目を見る。

言葉を使わず、目で。


女は一瞬、黙ってから言った。


「補給は事故防止措置だ」

「止めると事故の責任が生まれる」

「責任は取りたくない」


責任。

また責任が彼女を縛る。


研究班が不満そうに言う。


「では点検記録を」


照合係も頷く。


「痕跡を残せ」


痕跡。

残るものは中心になる。


少年は息を吸って吐いた。


残す。

だが残り続けない形で。

消費される痕跡。

薄くなる痕跡。


少年は点検束を出した。

四枠の点線。

文字はない。


点検は枠を擦るだけ。

擦り痕は残る。

残るが薄い。

薄くなれば次の擦り痕と混ざる。

混ざれば読み取れない。

読み取れなければ共通になりにくい。


照合係が苛立つ。


「読めない」


女が言う。


「読めなくても、履行痕があれば十分」


研究班が言う。


「……データにならない」


女が切る。


「再現は未達」

「今は管理だ」


管理。

遅い言葉。

遅いほど時間が稼げる。


午後、隊員の一人が言った。


「条件を守れば助かる」

「守らないと罰が来る」


守る。

罰。

共通が生まれる言葉。


少年は息を吸って吐いた。


守る/守らないの二択にすると揃う。

揃えば糸。

糸は門。


二択を崩す。

守るの形を一つにしない。

条件履行を“工程の揺れ”にする。


少年は水を少しだけ足し、

火種を少しだけ増やし、

布を少しだけ畳み、

灰を少しだけ払う。


少しだけ。

それが揃わない。

揃わないなら共通になりにくい。


条件は満たされる。

だが満たし方は毎回違う。

違うなら契約になりにくい。

契約になりにくければ門になりにくい。


夕方、女が再び言った。


「これが続けば、権限移譲は不要」

「現場判断を尊重できる」


尊重。

また優しい言葉。

優しい言葉は揃う。


少年は静かに息を吐いた。


彼女の優しさも餌だ。

優しさが共通になれば糸になる。

糸になれば門が育つ。


優しさを散らす。

散らして一人の判断にしない。

判断を工程に落とす。

工程は揺れる。

揺れるなら共通になりにくい。


教義班の老人が低く言った。


「餌で釣れぬなら、次は言葉ではない」

「力だ」


力。

権限移譲。

現場の奪取。

第16章の刃が見えた。


少年は額に手を当て、温度を作って自分の中へ収めた。


餌は散らした。

ありがたさは揃わせなかった。

条件履行も固定させなかった。


だが次は力。

力は揃えなくても中心を作る。

中心は門。


力に対しては、散らしだけでは足りない。

支点が要る。

門を止めるための支点。


師ではない。

現場でもない。

——弟子自身だ。

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