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英雄の名が消える朝、弟子だけが師を呼んだ  作者: swingout777
第16章 別手段——交換条件

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別手段——交換条件

別手段は、優しい顔をしている。


優しい顔は受け入れられる。

受け入れられれば共通になる。

共通は糸になる。

糸は門になる。


昼過ぎ、女は新しい紙を出した。

承認書のように厚くない。

だが整っている。

整った紙は残る。

残るものは中心になる。

中心は門になる。


女は言った。


「現場維持は決まった」

「だが現象は未解決」

「別手段を提示する」


研究班は椅子に座る。

教義班は板を置く。

監察班は規程を開く。

三つが揃う。

揃えば共通になる。

共通は糸になる。


女は紙を読み上げた。


「補給を増やす」

「免責を付ける」

「警備を厚くする」

「監視を軽くする」

「そして——交換」


交換。

その一語が刃だった。

交換は契約だ。

契約は門だ。


少年は息を吸って吐いた。


交換は危険だ。

交換の中心に“対象”が置かれる。

対象は中心になる。

中心は門になる。


彼らは師を“対象”にする。

欠けを差し出させる。

差し出させれば名が立つ。

名が立てば門が育つ。


だが拒めない。

拒めば圧が来る。

圧は戦い。

戦いは中心。

中心は門。


なら交換を交換にしない。

対価を人にしない。

対価を工程にする。

工程なら揺れる。

揺れるなら共通になりにくい。


研究班の男が言う。


「施設搬送は無理だ」

「なら現場で“核”を切り出す」

「核の提供を求める」


核。

中心の別名。


教義班の老人が言う。


「欠けを差し出せ」

「名を与え、封じる」

「それが皆の安全だ」


皆の安全。

善意の言葉。

善意は揃う。

揃えば糸。

糸は門。


照合係が言う。


「規程上も合理的だ」

「対象工程の異常を生む因子を隔離する」


因子。

言葉の形をした鍵。


女は静かに言った。


「差し出せとは言わない」

「“保護の強化”として受け取れる形にする」

「こちらは補給と免責を用意する」

「あなた方は協力する」


協力。

優しい契約。


少年は額に手を当て、温度を作って自分の中へ収めた。


差し出せと言わないのが一番怖い。

差し出せと言われれば拒める。

拒めば戦いになる。

戦いは中心。

中心は門。


だが“協力”は拒みにくい。

拒めない協力は共通になる。

共通は糸。

糸は門。


協力を、工程へ落とす。

人が協力するのではない。

工程が協力する。

工程なら中心になりにくい。


女は紙の最後の行を指で押さえた。


「協力項目」

「欠けの観測機会の提供」

「観測を拒否しない」

「観測手順に従う」


観測機会。

提供。

従う。

全部、糸を太くする言葉。


少年は息を吸って吐いた。


観測を拒否できない。

拒否は隠匿になる。

隠匿は罪。

罪は処分。

処分は中心。

中心は門。


なら観測を“観測にしない”。

観測を生活に落とす。

生活なら揃わない。

揃わなければ門になりにくい。


そして“欠けの観測機会”を、欠けではなく工程へ移す。

観測対象は工程の揺れ。

揺れは個体ではない。

個体ではなければ鍵になりにくい。


少年は紙に触れず、点検束を一枚、女の足元へ置いた。

四枠の点線。

焚き火、水場、結び場、通路。

そして欠け印の札を、紙の外側に置く。

言葉にしづらい印。

共通になりにくい印。


女が目を細める。


「……観測は工程点検の一部にする」

「欠けの観測ではなく、工程異常の点検」

「手順は巡回に従う」

「時間も順番も固定しない」


固定しない。

その一言で、刃が少し鈍る。


研究班が言う。


「固定しなければ再現できない」


女が返す。


「再現は未達で結論が出た」

「今は“管理”だ」


管理。

門を作る言葉。

だが管理は再現より遅い。

遅ければ時間が稼げる。


教義班が苛立つ。


「名はいつ与える」


女が冷たく言う。


「名は最後」

「事故の責任を負いたくない」


責任。

また責任。

彼女は責任に縛られている。

縛られた者は強引に踏み込めない。


紙の上に、補給の項目が並ぶ。

水、布、薬、食糧、火種。

増える補給。

補給はありがたい。

ありがたいものは共通になる。

共通は糸。

糸は門。


少年は息を吸って吐いた。


補給を受け取ると、借りができる。

借りは契約。

契約は門。


なら補給を“借り”にしない。

補給を工程に紐づける。

人が恩を受けるのではない。

工程が必要を満たすだけ。


女は言った。


「補給は条件付き」

「協力が履行された場合のみ」


条件付き。

契約の匂い。


少年は額に手を当て、温度を作って自分の中へ収めた。


条件付き補給は門の餌だ。

餌は人を揃える。

揃えば糸。

糸は門。


条件を“履行”にしない。

条件を“事故防止”にする。

事故防止は制度の目的だ。

目的なら契約でなくなる。

契約でなくなれば門になりにくい。


女は少しだけ言葉を変えた。


「補給は協力の対価ではない」

「事故防止のための措置だ」

「現場の安全維持に必要だ」


対価ではない。

それなら受け取れる。

受け取れても借りになりにくい。


研究班が渋い顔をする。


「それでは交渉にならない」


女は言う。


「交渉ではない」

「管理だ」


教義班が唸る。


「管理では封じられぬ」


女が返す。


「封じは事故を呼ぶ」

「責任が取れない」


責任が、また彼らを縛る。


最後に、免責の項目が出た。


「現場の判断を尊重する」

「処罰を猶予する」

「過去の運用の追及を保留する」


猶予。

保留。

甘い言葉。

甘い言葉は人を揃える。

揃えば糸。

糸は門。


少年は息を吸って吐いた。


免責を餌にされると、現場は名を差し出す。

名を差し出せば門が育つ。


免責を免責にしない。

免責を“工程改修の余白”にする。

余白は揺れる。

揺れる余白は共通になりにくい。


女は結論を書いた。


「別手段:交換条件の提示」

「ただし対価ではなく事故防止措置」

「観測は工程点検として実施」

「欠けは対象として固定しない」


紙にそう書かれた瞬間、

少しだけ空気が変わる。


師(欠け)が“差し出す対象”にならない。

対象が立たなければ中心が立ちにくい。

中心が立ちにくければ門が育ちにくい。


だが女は最後に言った。


「条件が守れない場合」

「次は“権限移譲”」

「現場の判断権を奪う」


権限。

それは力だ。

力は言葉より速い。

速い力は中心を作る。

中心は門になる。


少年は静かに息を吐いた。


取引は受け止めた。

だが次は力が来る。

権限を奪われたら、工程への落としができない。

工程が固定され、条件が揃う。

条件が揃えば門が作られる。


第16章は、ここから加速する。

こちらも、支点を変える必要がある。


師を守るためではない。

現場を守るためでもない。

門を開かせないために——

弟子自身が、支点になる準備を始める。

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