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英雄の名が消える朝、弟子だけが師を呼んだ  作者: swingout777
第14章 登録——名を作る装置

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保護——善意が揃う前に散らす

保護は、優しい顔をしている。


優しい顔は疑われにくい。

疑われにくいものは通りやすい。

通りやすいものは広がる。

広がれば共通になる。

共通は糸になる。

糸は門になる。


照合係は隔離室の前で紙を差し替えた。

「隔離」の二文字に線を引き、

その上に「保護」と書き直す。


監察本部の男が言った。


「誤解を避ける」

「これは保護だ」

「現場の安全のためだ」


安全。

制度が好きな言葉。

好きな言葉は広がる。

広がれば共通になる。

共通は糸になる。


隊員たちは、ほっとした顔をする。

ほっとするのも危険だ。

安心が揃うと、拍になる。

拍は糸になる。

糸は門になる。


少年は息を吸って吐いた。


保護を否定できない。

否定は冷たさに見える。

冷たさは敵意を生む。

敵意は中心。

中心は門。


保護を受け入れる。

だが“守る対象”を固定しない。

守る対象が固定されると中心になる。

中心は門になる。


善意を壊さず、散らす。

散らして生活へ落とす。

生活は揃わない。

揃わなければ糸になりにくい。


保護の名札が隔離室の扉に貼られた。


貼られた紙は残る。

残るものは中心になる。

中心は門になる。


少年は息を吸って吐いた。


貼ることは止めない。

止めれば違反。

違反は処分。

処分は中心。

中心は門。


なら、貼った紙を“貼り続けさせない”。

掲示と同じ。

固定の板にしない。


少年は摩耗帯を扉の蝶番に一枚挟んだ。

挟めば扉が少しだけ鳴る。

鳴れば人が気にする。

気にすれば触る。

触れば紙が擦れる。

擦れれば角が欠ける。

欠ければ読みづらい。

読みづらければ貼り替える。

貼り替えれば固定になりにくい。


保護の札は残る。

だが“同じ札”は残らない。

同じが残らないなら共通になりにくい。


隊員たちは言った。


「師を守ろう」

「師を一人にするな」

「交代で見守ろう」


見守る。

善意の言葉。

善意は揃う。

揃えば共通。

共通は糸。

糸は門。


監察本部の男も頷く。


「良い心がけだ」


制度が善意を承認すると、善意は“規則”になる。

規則になった善意は、門を育てる。


少年は息を吸って吐いた。


見守りの輪を作らせない。

輪は中心。

中心は門。


だが“守りたい”を否定しない。

否定は敵意。

敵意は中心。

中心は門。


なら、見守りを作業へ落とす。

見守りを「当番」にしない。

当番は規則。

規則は共通。

共通は糸。


見守りを「ついで」にする。

生活のついで。

水を運ぶついで。

布を干すついで。

灰を払うついで。

ついでは揃わない。

揃わないなら糸になりにくい。


少年は水の器を増やし、隔離室の前に置かない。

前に置けば祭壇になる。

祭壇は門になる。


器は通路の端へ。

水場の横へ。

焚き火の外側へ。

結び場の近くへ。


人は水のために動く。

動けば視線が割れる。

割れれば中心ができにくい。


布も同じ。

隔離室の中に布を溜めない。

溜めれば“特別な部屋”になる。

特別は中心。

中心は門。


布は外へ。

干す。

乾かす。

畳む。

生活の動線に戻す。


隔離室は「生活の一部」になる。

生活の一部なら、守る対象として固定されにくい。


それでも、善意は集まる。


隊員の一人が扉の前で立ち止まり、

声を落として言った。


「師……大丈夫ですか」


その声は、祈りに似ていた。

祈りは共通になりやすい。

共通は糸。

糸は門。


少年は息を吸って吐いた。


祈りを止められない。

止めれば冷たい。

冷たさは敵意。

敵意は中心。

中心は門。


なら、祈りを言葉にしない。

言葉を動作へ落とす。


少年はその隊員の手に、布を一枚渡した。

渡すが、命令しない。

命令は契約。

契約は門。


隊員は布を握り、黙って扉の前の床を拭いた。

拭くのは生活。

生活は共通になりにくい。


別の者も、つられて拭く。

拭き方が違う。

違えば揃わない。

揃わなければ拍になりにくい。

拍になりにくければ糸になりにくい。


祈りは作業になった。

作業は中心になりにくい。


監察本部の男は、また紙を出す。


「保護計画」

「見守り計画」

「交代表を作る」


交代表。

名が並ぶ。

名が並べば中心が立つ。

中心は門になる。


少年は額に手を当て、温度を作って自分の中へ収めた。


交代表は最悪だ。

名を並べる。

善意を規則にする。

規則は共通。

共通は糸。

糸は門。


だが拒めない。

拒めば隠匿。

隠匿は罪。

罪は処分。

処分は中心。

中心は門。


なら、表を表にしない。

名を名にしない。


交代を“巡回工程”に落とす。

人の当番ではなく、動線の当番。

水路、火種、灰払い、布干し。

工程が回るだけ。

人は固定されない。


少年は点検束を一枚出した。

四枠の点線。

文字はない。

項目の顔だけ。


監察本部の男にそれを見せ、

欠け印の札を四枚、枠の外側に置く。

三角、丸、線、足跡。


男は自分で言葉を作る。


「……見守りではなく、巡回点検だ」

「工程ごとに回す」

「人名は不要だ」


制度が人名不要と言った。

その一言で刃が落ちる。


男はさらに言う。


「点検結果だけ残せ」


結果。

残る。

残れば中心。

中心は門。


少年は息を吸って吐いた。


結果は残す。

だが文字で残さない。

痕で残す。

擦り痕。

灰粒。

水滴。

残るが薄くなる。

薄くなれば残り続けない。

残り続けなければ中心になりにくい。


監察本部の男は満足げに頷いた。


「これで上へ出せる」


上へ。

その言葉が一番重い。

上へ出れば、上位が来る。

上位は賢い。

賢い者は現象を言語化する。

言語化は共通。

共通は糸。

糸は門。


その午後、照合係が小さく笑った。


「保護がうまく回っている」

「だが、これは現場の努力ではない」

「仕組みだ」

「仕組みを解析すべきだ」


解析。

機関の言葉。


監察本部の男が言う。


「本部へ報告する」

「機関に回す」

「ここは“現象管理対象”だ」


少年は静かに息を吐いた。


善意は散らした。

保護は生活へ落とした。

隔離室は実験室にならなかった。


だが敵は、次の枠を持ってくる。

次の枠は、言葉を揃える。

揃えた言葉で、門を作る。


師は守られる対象ではいけない。

守られるほど中心になる。

中心になれば門が育つ。


師は、生活の支点として残るべきだ。

支えるが中心にならない支え。

名を持たない支え。


次章で、門を理解する者が来る。

理解される前に、理解の前提を崩す必要がある。


少年は扉の前で、布を畳んだ。

畳む手は静かだ。

静かだが、祈りではない。

生活だ。


生活のまま、戦う。

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