隔離——部屋を実験室にさせない
隔離は、中心になる。
隔離された者は目を集める。
目が集まれば中心になる。
中心は門になる。
同意書の摩耗印が乾く前に、照合係は言った。
「隔離室へ」
「監視を付ける」
「記録を取る」
「再現実験の準備だ」
再現。
その言葉が、門の形を持っていた。
同じ条件を揃える。
揃えれば共通になる。
共通は糸になる。
糸は門になる。
少年は息を吸って吐いた。
隔離を止められない。
止めれば強制になる。
強制は戦い。
戦いは中心。
中心は門。
なら隔離を隔離にしない。
隔離室を実験室にさせない。
実験室は中心を作る。
中心は門になる。
隔離室を、生活の部屋へ落とす。
生活は揃わない。
揃わなければ糸になりにくい。
隔離室は、入口の奥に作られていた。
板で囲われ、扉が一枚。
扉の外に椅子が二つ。
椅子は座だ。
座は中心。
中心は門。
照合係は淡々と告げる。
「監視は交代制」
「二名常駐」
「会話は禁止」
「接触は禁止」
禁止は線を引く。
線は中心を作る。
中心は門になる。
少年は息を吸って吐いた。
会話禁止はありがたい。
言葉が減れば糸が太りにくい。
だが接触禁止は危険だ。
触れられない隔離は“神格化”を呼ぶ。
触れられないものは中心になる。
中心は門になる。
触れさせないのではない。
触れの意味を変える。
触れを“検査”ではなく“生活”にする。
扉が開く。
中は空っぽだった。
空っぽの部屋は、すぐに中心になる。
中心になる空っぽは危険だ。
危険は人の想像を呼ぶ。
想像は言葉を呼ぶ。
言葉は糸。
糸は門。
少年は、空っぽを埋めた。
まず器。
水の器を二つ。
左右に置く。
真ん中に置かない。
真ん中は祭壇になる。
祭壇は門になる。
次に布。
硬くない布。
ただの布。
布は生活の匂いがする。
生活は意味になりにくい。
次に灰。
少しだけ。
灰は残らない。
残らないものは中心になりにくい。
最後に、摩耗帯を一本。
結ばない。
ただ挟むだけ。
挟まれた帯は削れて短くなる。
短くなれば抜ける。
抜ければ配置が変わる。
変われば固定にならない。
隔離室が、生活の部屋になる。
生活の部屋なら、目は刺し続けられない。
刺すためには静止が必要だ。
静止は中心を作る。
だが生活は動く。
動けば視線が割れる。
照合係は眉をひそめた。
「余計な物を置くな」
「観察の妨げだ」
観察。
その言葉が実験室を作る。
実験室は中心。
中心は門。
少年は息を吸って吐いた。
観察を否定しない。
否定は戦い。
戦いは中心。
中心は門。
観察の目的を“安全”へ落とす。
安全は制度が好きな言葉だ。
好きな言葉を与えると刃が鈍る。
少年は器を指で示す。
水。
渇き。
渇きは事故を呼ぶ。
事故は責任を呼ぶ。
責任は制度の恐怖だ。
照合係は舌打ちを飲み込んだ。
「……安全のためなら許可する」
許可の言葉が出た。
制度が自分を守る言葉を使うと、攻撃の刃が鈍る。
次は監視だ。
扉の外の椅子。
二つの椅子。
二名常駐。
椅子に座る者は中心になる。
中心の目は刺さる。
刺されれば門が育つ。
少年は息を吸って吐いた。
椅子を壊せない。
壊せば敵意。
敵意は中心。
中心は門。
なら椅子を“座”にしない。
座を作業に落とす。
少年は椅子の横に、点検束を二枚置いた。
四枠の点線。
文字はない。
だが項目の顔がある。
照合係が見る。
「……点検か」
少年は肯定しない。
肯定は契約。
契約は門。
ただ、摩耗帯を椅子の脚に挟む。
挟めば椅子がわずかに揺れる。
揺れる椅子は長く座れない。
長く座れないなら常駐になりにくい。
常駐になりにくければ刺さりが弱まる。
監視役は座り直し、足を動かす。
足が動けば視線が割れる。
割れれば中心ができにくい。
さらに、点検束の枠を一度だけ擦らせる。
擦る動作は作業だ。
作業は手を動かす。
手が動けば視線が割れる。
割れれば中心ができにくい。
監視は、“見る”から“手を動かす”へ落ちた。
監視者が作業者になる。
作業者は中心になりにくい。
隔離室の中、師は静かだった。
名を持たない師。
欠けを抱えた師。
だが沈黙は危険でもある。
沈黙は神格化を呼ぶ。
神格化は中心。
中心は門になる。
少年は息を吸って吐いた。
師に言葉を与えない。
言葉は契約。
契約は門。
だが師に“動作”を与える。
少年は布を、師の手元に置く。
置くだけ。
触れろとは言わない。
命令は契約。
契約は門。
師は布に触れ、指先で撫でた。
撫でる。
温度が戻る。
温度は自己の輪郭だ。
輪郭が戻れば欠けが鍵になりにくい。
少年は水の器を、師の左右に置く。
左右。
中心に置かない。
中心を作らない。
師は片方の水を飲み、呼吸が少し深くなる。
深い呼吸は固定ではない。
固定でないなら門になりにくい。
照合係は、隔離室の外で紙をめくりながら言った。
「これでは実験にならない」
「条件が揃わない」
「記録が取れない」
条件。
揃う。
共通。
糸。
門。
監察本部の男が言った。
「なら、上位へ」
「ここは現場では扱えない」
「機関に回す」
機関。
第15章の扉が開く音。
少年は額に手を当て、温度を作って自分の中へ収めた。
隔離は止められない。
だが実験室にはさせなかった。
中心を作らせなかった。
門を育てさせなかった。
しかし敵は賢くなる。
賢い敵は「現象」と呼ぶ。
現象と呼べば、上位の枠が来る。
上位の枠は言葉を揃える。
言葉が揃えば糸が太る。
次は——言葉そのものを摩耗させる必要がある。
中心化の理屈を、理屈のまま無効化する必要がある。
第15章。
門を理解する者たちが来る。
理解される前に、理解の前提を崩す。




