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英雄の名が消える朝、弟子だけが師を呼んだ  作者: swingout777
第13章 源泉——規則を作る側が来る

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是正——名の欄を埋めるが名にしない

是正命令は、刃だ。


刃は切る。

切れば線ができる。

線は境界だ。

境界は中心を作る。

中心は門になる。


朝、監察本部の男は箱を二つ持って来た。

昨日より重い。

重い箱は残る紙の匂いが濃い。

残るものは中心になる。


男は言った。


「是正命令を出す」

「この現場は、統一様式に従う」

「責任者を登録する」

「名を記せ」

「印を押せ」


名。

印。

残る紙。

中心の材料が揃った。


隊員たちの顔が硬くなる。

硬くなると、視線が一点に寄る。

寄れば中心になる。

中心は門になる。


少年は息を吸って吐いた。


ここで争えば終わる。

争いは敵意。

敵意は中心。

中心は門。


ここで従えば終わる。

従えば名が立つ。

名が立てば門が育つ。


なら、従う。

だが名を名にしない。

責任者を責任者にしない。


責任者=個人を、責任工程=巡回へ置く。

名の欄を埋めながら、名を成立させない。


監察本部の男は厚い紙を広げた。

紙は硬い。

硬い紙は残る。

残れば中心になる。


紙の上に、枠がある。


責任者氏名。

所属。

署名。

印。

登録番号。


登録番号は杭だ。

杭は支点だ。

支点は鍵を回す。


男は言った。


「この枠を埋めろ」

「今ここで」

「この場で決める」


この場。

中心。

門。


少年は前に出ない。

前に出れば中心になる。

中心は門になる。


少年は器を一つ、紙の近くへ置いた。

水の器。

生活の器。

生活は意味になりにくい。

意味になりにくければ儀式になりにくい。


監察本部の男は器を嫌そうに避けた。

避ける動作で、視線が割れる。

割れれば中心ができにくい。


少年は息を吸って吐いた。


今だ。

責任者を“人”にしないための置換を、制度自身に言わせる。


少年は、昨日の点検束を一枚出した。

四枠の点線。

焚き火、水場、結び場、通路。


そして、欠け印の札を四枚。

三角、丸、線、足跡。

言葉にしづらい印。

言葉にしづらければ共通になりにくい。


少年は札を、厚い紙の「責任者氏名」の枠の上に重ねた。

上に重ねるだけ。

貼らない。

固定しない。

固定しなければ杭になりにくい。


監察本部の男は眉をひそめる。


「ふざけ——」


言葉が強くなる前に、少年は器の水を指に取り、

灰と紙粉を混ぜた薄い膜を作った。


摩耗膜。

押されるが残らない。

残らないなら中心になりにくい。


少年は膜を、厚い紙の枠の外側にだけ薄く塗った。

枠の中ではない。

外側。

外側は意味になりにくい。

意味になりにくければ契約になりにくい。


監察本部の男は、膜の光り方を見て、思い違いをした。


「……封印か?」

「改竄防止?」


制度が好きな言葉だ。

改竄防止。

目的が満たされれば形に目をつぶる。


少年は肯定しない。

肯定は契約になる。

契約は門になる。


だが否定もしない。

否定は戦いになる。

戦いは中心。

中心は門。


沈黙が、男に解釈を作らせる。


男は自分で言った。


「……よし。改竄防止として扱う」

「では責任者を——」


責任者の名を、今から書かせる。

ここで置換だ。


少年は、欠け印の札を一枚ずつ指で示した。


三角。

丸。

線。

足跡。


そして、点検束の四枠を順に示す。


焚き火。

水場。

結び場。

通路。


言葉にしない。

言葉にすれば共通になる。

共通は糸になる。

糸は門になる。


監察本部の男は苛立ちながらも、理解を“作った”。


「……責任工程、ということか」

「責任者を一人にせず、工程に割り当てる」

「四つの担当——」


担当という言葉は危険だ。

担当は人を呼ぶ。

人は名を呼ぶ。


だが男は続けた。


「……いや、担当ではない」

「工程の責任だ」

「運用責任の区分だ」


制度が、自分で“人”を避ける言葉を選んだ。


少年は息を吐いた。

刃が少し落ちた。


だが厚い紙には、まだ「氏名」の枠がある。


枠は埋められなければならない。

埋められなければ違反。

違反は処分。


少年は額に手を当て、温度を作って自分の中へ収めた。


氏名枠を空白にすると門になる。

空白は入口になる。

入口は門になる。


なら埋める。

だが文字で名を固定しない。

文字は共通。

共通は糸。

糸は門。


埋めるのは“欠け印”。

印は押せる。

押せば形式は満たされる。

だが印は名にならない。

名にならないなら門が育ちにくい。


そして印も残さない。

摩耗印で、押されるが残らない。


少年は監察本部の男に、印章を渡さない。

印章は権威の中心だ。

中心は門になる。


代わりに、摩耗膜の上に欠け印の札を置き、

男の指で一度だけ押させた。


押す。

形が出る。

出れば「埋まった」と見える。


だが膜は乾けば割れる。

割れれば形が崩れる。

崩れれば残らない。


男は満足した。

「よし。氏名欄はこれで埋めた」


彼の言葉は制度の内部で完結する。

完結すればこちらの説明がいらない。

説明がいらなければ契約が生まれにくい。


次は登録番号だ。


男がペンを取る。

番号を書く手。

番号は杭だ。

杭は支点だ。

支点は鍵。


少年は息を吸って吐いた。


番号を一つにさせない。

一つにすれば中心になる。


少年は四つの欠け印を、登録番号欄の周囲に置いた。

一つの枠に、一つの番号。

ではなく、四つの微小な枠に分ける。

分けたように見せる。

実際は枠の外。

外側は意味になりにくい。


監察本部の男は苛立ちながらも、また自分で解釈した。


「……工程番号として扱う」

「四つの番号だ」

「これで一冊にまとめられる」


一冊にまとめる、が出た。

危険だ。

だが今は“工程番号”に落ちた。

人番号ではない。

人番号でなければ門が育ちにくい。


是正命令の紙は、形の上では完成した。


監察本部の男は言った。


「これで、現場は規則に戻る」

「次は登録の確認だ」

「一致しているか照合する」


照合。

一致。

共通化の最終工程。


少年は額に手を当て、温度を作って自分の中へ収めた。


第13章は守った。

名の欄を埋めながら、名を成立させなかった。

責任を人から工程へ落とした。


だが次は照合だ。

照合は一致を作る。

一致は共通だ。

共通は糸だ。

糸は門だ。


第14章は「登録——名を作る装置」。

ここから先、制度は一致を作るために賢くなる。

賢くなる敵は、散りだけでは止まらない。


散りを“正しさ”にする必要がある。

散りを制度の目的に接続し直す必要がある。


そうでなければ、門は完成する。

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