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英雄の名が消える朝、弟子だけが師を呼んだ  作者: swingout777
第13章 源泉——規則を作る側が来る

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配布——同じに見えるが一致しない手順書

配布は、糸だ。


一枚の手順が、百の手に渡る。

百の手が同じ動きをする。

同じ動きは共通になる。

共通は糸になる。

糸は門になる。


監察本部の男は言った。


「手順書を作れ」

「全員に配る」

「今日中だ」


今日中。

急がせるのは制度の技だ。

急げば揃う。

揃えば共通。

共通は糸。

糸は門。


少年は息を吸って吐いた。


拒めない。

拒めば違反。

違反は処分。

処分は敵意。

敵意は中心。

中心は門。


従えない。

同一手順書は糸を太らせる。

糸が太れば門が近づく。


なら配る。

だが同じものを配らない。

同じに見えるが一致しない。

一致しないなら共通になりにくい。


配布を、散りに落とす。


手順書は四冊になった。


焚き火の冊。

水場の冊。

結び場の冊。

通路の冊。


題名は書かない。

題名は共通になる。

共通は糸になる。

糸は門になる。


表紙の印は点線だけ。

三角、丸、線、足跡。

見れば区別できる。

だが言葉にはしづらい。

言葉にしづらければ共有になりにくい。


中身は“項目の顔”だけを揃える。

四枠。

点線。

空欄。

これで制度は「統一された」と言える。


だが枠の中身は微差。

点線の角度。

枠の余白。

欠け印の位置。

水滴の痕。

紙粉のざらつき。


微差は覚えにくい。

覚えにくければ揃わない。

揃わなければ共通になりにくい。


さらに仕掛け。


手順書は“配るほど変わる”。


紙は消費紙。

触れれば薄くなる。

擦れば欠ける。

濡れれば滲む。

配布の途中で、手汗だけでも微差が増える。


同じ原本から切り出しても、

配布の瞬間に同じでなくなる。

同じでなくなるなら共通になりにくい。


監察本部の男は、配布のやり方まで指示した。


「一列に並べ」

「番号順に受け取れ」

「同じ説明を聞け」


一列。

拍。

糸。

門。


少年は息を吸って吐いた。


並ぶこと自体を壊さない。

壊せば反抗。

反抗は敵意。

敵意は中心。

中心は門。


列の“中身”を割る。

割れば拍になりにくい。


少年は器を二つに分けた。

水場が二つになる。

列の途中で水を飲む者が出る。

動けば列が乱れる。

乱れれば拍になりにくい。


焚き火の火種を四つに散らす。

影が増える。

影が増えれば視線が割れる。

視線が割れれば中心ができにくい。


縄を一本、低く張る。

跨ぐ者と回り込む者が分かれる。

分かれれば列の受け取り順が揃わない。

揃わなければ共通になりにくい。


監察本部の男は眉をひそめる。


「邪魔をするな」


少年は息を吸って吐いた。


邪魔ではない。

生活だ。

生活の都合だ。

都合は揃わない。

揃わないから拍にならない。


少年は器の水をこぼさない。

こぼさないことで“故意”が消える。

故意が消えれば敵意に見えにくい。


配布が始まる。


一人目が受け取り、紙粉が指に付く。

二人目が受け取り、汗で角が湿る。

三人目が受け取り、縄を跨ぐために片手で掴み、紙が擦れる。


同じ冊が、同じでなくなる。


監察本部の男は説明を始めた。


「この手順書に従え」

「枠を埋めろ」

「記録を残せ」


残せ。

残るものは中心になる。

中心は門になる。


少年は息を吸って吐いた。


枠は埋めさせる。

だが文字で埋めさせない。

文字は共通になる。

共通は糸になる。


埋めるのは“痕”だ。

摩耗。

水滴。

灰粒。

痕は個別。

個別は共通になりにくい。


少年は点検束を一枚、監察本部の男の足元に置く。

男はそれを見て「点検」の言葉を思い出す。

制度は言葉があると落ち着く。


男の説明が「文字」から「点検」へ少し傾く。

傾いた瞬間が重要だ。


少年は隊員の指先に灰を一粒ずつ付け、

手順書の枠を一度だけ擦らせる。

擦れば痕が残る。

残るが薄くなる。

薄くなれば残り続けない。


監察本部の男は言った。


「……よし。点検手順として運用しろ」


勝手に言語化。

勝手に言語化はありがたい。

こちらが説明しなくて済む。

説明しなければ契約が生まれにくい。


だが男は最後に釘を刺した。


「これを壁に貼れ」

「誰でも見える場所に」

「常に参照できるように」


貼る。

共有の完成。

共通の正しさが立つ。

糸が太る。

門が近づく。


少年は額に手を当て、温度を作って自分の中へ収めた。


壁に貼ると“中心の板”になる。

板は座になる。

座は中心。

中心は門。


拒めば違反。

従えば門。


なら、貼る。

だが壁を壁にしない。

壁を“動く壁”にする。

貼られた手順書が固定されないようにする。


動く壁とは——巡回だ。

貼る場所を変える。

貼る手順書を変える。

見せるが定着させない。


次は、掲示を散らす。

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