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英雄の名が消える朝、弟子だけが師を呼んだ  作者: swingout777
第12章 制度――中心を作る怪物

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摩耗座——中心が持ち上がると崩れる

夜は、中心が生まれやすい。


作業が減る。

手が止まる。

止まれば目が戻る。

目が戻れば刺す。

刺せば中心を見つける。

中心を見つければ名が完成する。

名が完成すれば門が育つ。


常駐監督の男は、夜に動いた。


焚き火の近く。

風の当たらない場所。

視界が通る位置。

そこに石を寄せ、座を作り始めた。


座。

中心だ。

中心は門だ。


少年は息を吸って吐いた。


壊せない。

壊せば敵意になる。

敵意は中心だ。

中心は門だ。


止められない。

止めれば対立になる。

対立は中心だ。

中心は門だ。


なら、座を座として成立させない。

座の顔は残す。

だが中心としては残さない。


消費される座。

持ち上げると崩れる座。

座るほど薄くなる座。


座を、摩耗へ落とす。


少年は「摩耗座」を用意した。


座布団ではない。

布は残る。

残れば中心になる。


摩耗座は、灰と紙粉を混ぜた薄い敷き。

敷いた瞬間は平らに見える。

だが体重が乗ると割れる。

割れた粉が舞う。

舞えば喉が乾く。

乾けば水を飲む。

水を飲めば生活へ落ちる。


粉の舞いは、合図ではない。

自然だ。

自然は契約になりにくい。


摩耗座の下には小石を置かない。

小石は残る。

残るものは中心になる。


代わりに、灰の上に灰を置く。

灰は散る。

散るものは中心になりにくい。


そして決定的な仕掛け。


摩耗座の縁に、欠け穴を二つ開ける。

穴は欠けている。

欠けている穴は中心になりにくい。


穴に通すのは縄ではない。

縄は結び。

結びは中心。

中心は門だ。


通すのは摩耗帯。

摩耗帯は結ばない。

ただ挟むだけ。

挟んだ帯は座るたび削れて短くなる。

短くなれば抜ける。

抜ければ敷きはずれる。

ずれれば座が座でなくなる。


中心は、持ち上げた瞬間に崩れる。


監督の男は座を作り終え、そこへ腰を下ろした。


その瞬間、摩耗座が割れた。


粉が舞う。

灰が喉に触れる。

男は咳をしかけ、堪えた。

堪えると目が細くなる。

細い目は刺す。

刺されれば名が完成する。


危ない。


だが咳を堪えた喉は渇く。

渇けば水を飲む。

水を飲めば生活へ落ちる。

生活へ落ちれば刺さりが鈍る。


男は器へ手を伸ばした。

手が動く。

手が動けば視線が割れる。

割れれば中心ができにくい。


男は水を飲み、座り直す。

座り直した瞬間、摩耗帯が削れて短くなる。

短くなれば、敷きが微妙にずれる。

ずれれば座が固定できない。

固定できない座は中心になりにくい。


男は苛立つ。

苛立ちは言葉を呼ぶ。

言葉は糸。

糸は門。


「……ここは落ち着かない」


言葉が出た。

だが続かない。

続かなければ拍にならない。

拍にならなければ糸になりにくい。


男は石を寄せ直そうとする。

寄せ直す動作は作業だ。

作業は手を動かす。

手が動けば視線が割れる。

割れれば名へ届きにくい。


中心を作ろうとするほど、

手が動いて、中心から遠ざかる。

空回りの完成だ。


男は座を諦めず、別の場所へ移ろうとした。


移動は流れだ。

流れは中心になりにくい。

だから移動させること自体は悪くない。


ただし移動先に“座の顔”が生まれると危ない。

顔は中心を作る。


少年は息を吸って吐いた。


座の顔を、あちこちへ散らす。

一つの座を作らせない。

作らせないが、止めない。

止めると敵意。

敵意は中心。

中心は門。


少年は摩耗座を一枚だけ追加で置いた。

置くが中心に置かない。

通路の端。

水場の横。

結び場の近く。

焚き火の外側。


四つ。

散っている。

散っているなら中心がない。


男はどれかに座ろうとする。

座れば割れる。

割れれば渇く。

渇けば水。

水は生活。

生活は中心を作りにくい。


座を作るはずが、生活へ落ちる。

名を探すはずが、手が動く。

刺すはずが、視線が割れる。


夜の目は、空回りした。


夜明け前、監督の男はため息をついた。


「……ここは妙だ」

「規則がないのに、散らかっていない」

「中心がないのに、回っている」


危険な理解だ。


中心がないのに回っている。

それは“設計”を想像させる。

設計者は名だ。

名は門だ。


男の目が細くなる。

刺す目。


少年は額に手を当て、温度を作って自分の中へ収めた。


ここで名を作らせない。

設計者を探させない。

探させると門が近づく。


なら、設計者の像を“制度自身”へ渡す。

制度が勝手に「制度の産物」と解釈するようにする。

人ではなく、制度が作ったと思わせる。


——次は、制度の上位が来る。

常駐監督のさらに上。

規則を作る側。

中心を欲しがる側。


ここで守れたのは、現場。

だが次は、規則の源泉だ。


夜が明け、監督の男は言った。


「上へ報告する」

「ここは“特殊運用”として扱う」

「規則を作り直す必要がある」


規則を作り直す。

それは中心を作り直すということだ。

中心は門だ。


少年は焚き火の火種を見つめた。

散っている火。

散っているから、まだ守れている。


だが規則が散りを許さなければ。

散りが違反になれば。

違反は排除になる。

排除は戦いになる。

戦いは中心になる。

中心は門になる。


少年は静かに息を吐いた。


次章は、規則の源と向き合う。

戦わずに。

名を立てずに。

中心を作らずに。


散りのまま、制度を通す。

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