表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄の名が消える朝、弟子だけが師を呼んだ  作者: swingout777
第12章 制度――中心を作る怪物

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/104

常駐——視線を手へ落とす

常駐の目は、逃げない。


紙なら散らせる。

原本も写しも、摩耗させて薄くできる。

だが目は薄くならない。

薄くならない目は中心を探し続ける。

中心を見つければ名が完成する。

名が完成すれば門が育つ。


監査官が告げた通り、翌日ひとりの男が来た。


服は役人。

だが靴は現場用。

現場を知っている者だ。

知っている目は鋭い。

鋭い目は刺さる。


男は自己紹介をしなかった。

名を言えば名を求められる。

制度側ですら名を避ける。

それでも彼は中心を探す。


「今後、ここに常駐する」

「運用を見届ける」

「責任の所在を明確にする」


明確。

その言葉が門に近い。


少年は息を吸って吐いた。


追い返せない。

追い返せば敵意。

敵意は中心。

中心は門。


迎え入れて放置できない。

放置すれば目が刺さる。

刺されれば名が完成する。


なら——目を“仕事”に落とす。

観察者は危険だ。

観察者は中心を作る。

だが作業者は中心になりにくい。

手が動けば視線が割れる。

割れれば名に届きにくい。


常駐を、巡回に変える。


少年は「常駐の座」を与えなかった。


座は中心だ。

中心は門だ。


代わりに、四つの欠け印の間を歩かせる。

焚き火、水場、結び場、通路。

歩く者は流れになる。

流れは中心になりにくい。


男は言う。


「私は監督だ。作業員ではない」


拒絶の言葉。

拒絶は対立を生む。

対立は中心を作る。

中心は門になる。


少年は息を吸って吐いた。


作業を命令にしない。

命令は契約だ。

契約は門だ。


作業を“生活の当然”にする。

当然は意味になりにくい。

意味になりにくければ敵意になりにくい。


少年は器を半歩ずらす。

ただの生活。

水が揺れる。

男の目が器に落ちる。

落ちた瞬間が入口だ。


少年は点検束を一枚、器の横に置く。

四枠の点線。

文字はない。

読めないが、項目の顔をする。


男はそれを見る。


「……点検か」


勝手に言語化した。

勝手に言語化なら共有になりにくい。


少年は男の指先に灰を一粒つけ、

点検束の一枠を一度だけ擦らせた。

擦る。

痕が残る。

残るが薄くなる。

薄くなれば残らない。


男は反射的に手を引いた。

だが手を動かした事実が重要だ。

手が動けば視線が割れる。

割れれば中心ができにくい。


男は苛立つ。


「これは儀式か?」


儀式は危険だ。

儀式は共通になる。

共通は糸になる。

糸は門になる。


少年は息を吸って吐いた。


儀式にしない。

揃えない。

固定しない。


少年は次の枠を擦らせない。

代わりに、縄の端を一度だけ撫でさせる。

撫でる。

ざらつきが指に残る。

ざらつきは個別。

個別は共通になりにくい。


次に灰を一度だけ散らさせる。

散らす。

灰が舞い、喉が乾く。

乾けば水を飲む。

水を飲めば生活へ落ちる。


次に通路の小石を一つだけ拾わせる。

拾う。

拾う手が動く。

手が動けば視線が割れる。


行為は四つ。

だが順番は固定しない。

固定しないから儀式にならない。

儀式にならなければ共通になりにくい。


男は気づく。


自分は“見ている”つもりで、

いつの間にか“やっている”。


やっている者は、中心を作りにくい。

中心を作りにくい者は、名を引きずり出しにくい。


それでも男は鋭い。


焚き火のそばで立ち止まり、奥を見た。

奥に“指揮の座”があるか探す目。

座は中心だ。

中心は門だ。


だが座はない。

あるのは散った火種。

散った欠け印。

消費される紙。

生活の器と縄。


男の目が細くなる。

細い目は刺す。


「誰がこれを設計した」


設計者。

それは名だ。

名は門だ。


少年は息を吸って吐いた。


名を出さない。

嘘もつかない。

嘘は敵意を呼ぶ。

敵意は中心。

中心は門。


名の代わりを、手へ落とす。

設計を“個人の才能”ではなく“運用の結果”に見せる。


少年は摩耗ログの端を、男の指で一度だけ擦らせた。

擦れば紙が薄くなる。

薄くなるのは運用の痕。

痕は「誰か」ではなく「繰り返し」を示す。

繰り返しは流れだ。

流れは中心になりにくい。


男は紙粉を見て、言葉を飲んだ。

紙粉は現実だ。

現実は推理を鈍らせる。

鈍らせれば刺す先がぼやける。


夜、男は焚き火のそばで言った。


「私はここに残る」

「朝まで動きがないか見る」


来た。

常駐の本体。

刺さり続ける目。


少年は額に手を当て、温度を作って自分の中へ収めた。


作業へ落とした。

目を手へ落とした。

だが夜は違う。

夜は仕事が減る。

仕事が減れば目が戻る。

目が戻れば中心を探す。


夜の常駐を、どう溶かすか。

夜の目を、手へ落とし続けるには。

“夜にも自然に続く作業”が必要だ。


それは巡回では足りない。

巡回は規則に見える。

規則は共通だ。

共通は糸だ。

糸は門だ。


夜の作業は、規則ではなく“微差の生活”でなければならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ