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英雄の名が消える朝、弟子だけが師を呼んだ  作者: swingout777
第11章 外部視線――名を探す世界

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空回り——名を捕まえさせない夜

外の者は、嗅ぐ。


名の匂いを。

中心の気配を。

責任の輪郭を。


残らない記録で納得は鈍らせた。

配置と連鎖で追及を曲げた。

それでも外は引かない。

引かない理由は一つ——確信だ。


「ここに、指揮官がいる」


指揮官という言葉は名の代わりだ。

代わりは入口になる。

入口は門になる。


彼らは昼は穏やかに振る舞い、夜に動く。

夜は視線が細くなる。

細い視線は中心を刺す。

刺されれば名が完成する。


少年は息を吸って吐いた。


戦えば敵意になる。

敵意は中心になる。

中心は門になる。


隠せば追いかけが生まれる。

追いかけは視線を一点に集める。

集まれば共通になる。

共通は糸になる。

糸は門になる。


なら、場を作る。

名を捕まえるための視線が、捕まえる先を失う場。

視線が散り続ける場。

散り続ければ中心ができない。

中心ができなければ名が完成しない。


入口の型を、一夜だけ最大化する。


準備は静かに進めた。


第一、灯りを固定しない。

固定された灯りは中心を作る。

中心は門になる。

焚き火は一つではなく、二つでもない。

小さな火種を四つ。

焚き火ほど強くない。

強くない光は影を増やす。

影は視線を散らす。


第二、音を合図にしない。

合図は拍になる。

拍は糸になる。

だから音は“生活の音”だけ。

水を注ぐ音。

縄を擦る音。

灰を払う音。

足裏の砂の音。

どれも揃えない。

揃えないから拍にならない。


第三、通路を一本にしない。

一本の通路は中心へ導く。

導けば名が捕まる。

だから通路は四つに分ける。

分けるが迷路にしない。

迷路は敵意に見える。

敵意は中心になる。

中心は門になる。


迷路ではなく、生活の迂回。

器が置かれているから避ける。

縄が張られているから跨ぐ。

灰が散っているから足を擦る。

札が落ちているから拾う。


拾う。

拾う手が動く。

手が動けば視線が割れる。

割れれば中心になりにくい。


第四、人を立てない。

見張りを立てると中心ができる。

中心は門になる。

見張りの代わりに、欠け印と摩耗ログを散らす。

薄いものがあちこちで消費されていく。

消費は“起きていること”を示す。

だが示す中心がない。

中心がないなら名が立たない。


師は奥にいる。

奥だが“隠れ”ではない。

隠れは追いかけを生む。

追いかけは中心を作る。

だから師は生活の動線の一部として動く。

留まらない。

留まらないから中心にならない。


夜、外の三人が動いた。


足音を殺し、入口を越えようとする。

越えた瞬間、足裏に灰が付く。

灰は証拠になる。

証拠は彼らを慎重にする。

慎重さは遅さになる。

遅さは視線の焦点を失わせる。


先頭は低く合図を出しかけた。

合図は拍になる。

拍は糸になる。


だが合図の前に、彼の手が勝手に動いた。

足元の札を踏み、紙が鳴ったからだ。

札は無文字。

だが点線の“割れ”が目に入る。

言葉にできない。

言葉にできないから共有になりにくい。


彼は札を拾う。

拾った指が紙粉でざらつく。

ざらつきは個別だ。

個別は糸になりにくい。


その間に、二人目は縄の端に触れてしまう。

縄はざらつく。

ざらつきが手に残る。

手に残れば注意が手へ落ちる。

注意が手へ落ちれば視線が割れる。


三人目は器を避けようとして足を止める。

止まると視線が一点に集まりやすい。

危ない。


だが止まった瞬間、無風が来た。

無風は最危険。

視線が刺さる。


少年は無風札を一枚、灰の上へ落とした。

落としたのは音ではない。

紙が沈むだけ。


それに合わせて、四つの火種の一つが弱くなる。

弱くなるのは自然。

自然は合図になりにくい。

弱い光が影を増やし、視線が散る。


外の者は奥を覗こうとする。

覗けば中心を探す。

中心を見つければ名が完成する。


だが奥には、中心がない。

四つの火種。

四つの通路。

四つの欠け印。

四つの摩耗ログ。

散っている。

散っているから刺さらない。


彼らは“誰か”を探して歩く。

歩けば足裏の灰が増える。

灰が増えれば証拠が増える。

証拠が増えるほど慎重になる。

慎重になるほど遅くなる。

遅くなるほど疲れる。

疲れれば苛立つ。

苛立ちは言葉を呼ぶ。


言葉が出そうになった瞬間、

摩耗ログの端が風でめくれ、紙粉が舞う。

舞う粉は喉を乾かす。

乾けば人は水を求める。

水を求めれば器へ寄る。

器へ寄れば視線が器へ落ちる。

落ちれば名に届きにくい。


空回りが始まった。


先頭の男は、ついに腹を立てた。


「ふざけてるのか」


声が出た。

声は共通になる。

共通は糸になる。

糸は門になる。


危ない。


だが声が響く前に、結び場の縄が一度だけ緩む。

緩むのは生活。

生活は意味になりにくい。

意味になりにくければ契約になりにくい。

契約になりにくければ門になりにくい。


三人目がその緩みを見て、反射的に縄を撫でる。

撫でる手が動く。

手が動けば視線が割れる。

割れれば声の共通が薄まる。


二人目は器の水を飲んだ。

飲むのは生活だ。

生活は中心を作りにくい。


先頭の男の声は、続かなかった。

続かなければ拍にならない。

拍にならなければ糸になりにくい。

糸になりにくければ門になりにくい。


男は気づく。


ここは、中心が掴めない。

名が引きずり出せない。

何かが“設計”されている。


設計者を探せば名へ戻る。

戻れば門が近づく。


男の目が細くなった。

細い目は刺す。


少年は息を吸って吐いた。


ここで刺させない。

刺させないために、刺す先を失わせる。


少年は欠落札を一枚、通路へ移した。

移すが合図にしない。

移すのは巡回の流れの一部。

流れは中心になりにくい。


欠落札のある場所は“崩れていい”。

崩れていい場所が一つあると、視線はそこへ落ちる。

落ちるが、落ち先は欠落だ。

欠落は名を作れない。

名を作れないなら門になりにくい。


男の視線が欠落札へ落ちた。

落ちた瞬間、刺す先が消えた。


空回りは完成した。


夜明け前、外の三人は引いた。


何も掴めない。

誰も捕まえられない。

証拠も持ち帰りにくい。

灰と紙粉とざらつきだけが残る。


残るのは手触りだ。

手触りは個別だ。

個別は共通になりにくい。

共通になりにくければ糸になりにくい。

糸になりにくければ門になりにくい。


彼らは去り際に言った。


「……今夜は引く。だが次は正式に来る」

「正式には、名と印が必要だ」


正式。

それは中心の要求だ。

中心の要求は門の要求だ。


少年は額に手を当て、温度を作って自分の中へ収めた。


一夜は守れた。

空回りさせて名を捕まえさせなかった。


だが次は“正式”だ。

正式は紙を持ってくる。

印章を持ってくる。

そして軍の秩序を持ってくる。

秩序は中心を作る。

中心は門になる。


名なしの師を守るには、

外の秩序と戦わずに、秩序を溶かさなければならない。


次は、正式の受け皿——

「印の代わり」を、外が受け入れざるを得ない形で用意する。

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