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英雄の名が消える朝、弟子だけが師を呼んだ  作者: swingout777
第11章 外部視線――名を探す世界

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証拠——残らない記録で納得させる

外の世界は、紙を信じる。


紙は残る。

残るから責任が固定される。

固定は名を呼ぶ。

名は中心になる。

中心は門になる。


配置の合意は、外には弱い。

連鎖の責任は、外には曖昧だ。

曖昧は不安を生む。

不安は言葉を増やす。

言葉は糸になる。

糸は門になる。


先頭の男が言った。


「証拠を残せ」

「後で確認できるようにしろ」

「記録がないのは通らない」


記録が来た。

署名の次に危険なものが来た。


少年は息を吸って吐いた。


拒めない。

拒めば敵意になる。

敵意は中心になる。

中心は門になる。


従えない。

残る記録は中心になる。

中心は門になる。


なら——残らない記録を作る。

残らないが、手触りだけは残る記録。

外の者に「証拠がある」と思わせる。

思わせれば言葉が減る。

言葉が減れば糸が細くなる。


中心化を防ぎながら、納得だけを残す。


少年が作ったのは「摩耗ログ」だった。


紙ではある。

だが紙は消費紙。

触れれば薄くなり、擦れば削れる。

雨に濡れれば滲み、乾けば割れる。

数日で灰になる。


文字は書かない。

文字は共通になる。

共通は糸になる。

糸は門になる。


摩耗ログにあるのは点線だけ。

点線は“手順の跡”。

跡は意味になりにくい。

意味になりにくければ契約になりにくい。


ログは三枚一組。


一枚目:配置の跡(四区画の点線)

二枚目:連鎖の跡(欠け印が散って並ぶ)

三枚目:摩耗の跡(点が擦れて乱れている)


そして最大の仕掛け。


ログは“持ち帰れない”。


持ち帰れば外の世界で共有される。

共有されれば共通になる。

共通は糸になる。

糸は門になる。


だからログはここでしか成立しない。

成立するが、残らない。

残らないから中心になりにくい。


持ち帰れないのに、外が納得する条件が必要だ。

その条件は「自分の手で痕跡をつける」こと。


外の者自身が、ログに摩耗を作る。

摩耗は証拠になる。

証拠は“手触り”として残る。

手触りは個別だ。

個別は共通になりにくい。

共通になりにくければ糸になりにくい。


先頭の男は頑固だった。


「俺の上は紙でしか動かない」

「印が必要だ」

「残せ」


少年は前に出ない。

前に出れば中心になる。

中心は門になる。


少年は摩耗ログを、器の横に置いた。

生活のそばへ寄せる。

寄せれば意味が薄まる。


男はログを見て眉をひそめる。


「文字がない」


説明しない。

説明は契約になる。

契約は門になる。


少年はただ、男の指先に灰を一粒つけた。

灰は汚れ。

汚れは現実だ。

現実は言葉より強い。


そして男の指を、摩耗ログの三枚目へ“滑らせる”。

滑らせるが、押さない。

押さないから固定にならない。


点が擦れて乱れる。

乱れが残る。

残るが、紙が薄くなっていく。

薄くなれば、残り続けない。


男は自分の指の汚れを見る。

汚れは手触りになる。

手触りは記憶になる。

記憶は個別だ。

個別は糸になりにくい。


「……これが証拠だと言うのか」


少年は肯定しない。

肯定は契約になる。

契約は門になる。


代わりに、二枚目(連鎖の跡)を男に触れさせる。

欠け印をなぞらせる。

なぞる途中で、器に一度触れる。

縄に一度触れる。

灰を一度散らす。


動作が増える。

増えれば視線が割れる。

割れれば中心ができにくい。


最後に一枚目(配置の跡)に、男自身が水滴を落とす。

指を濡らし、一滴。

一滴は小さい。

小さければ儀式になりにくい。

儀式になりにくければ共通になりにくい。


男は三枚を重ね、摩耗と水滴と乱れを見た。

見たが、言葉にしづらい。

言葉にしづらいものは共有されにくい。

共有されにくければ糸になりにくい。


納得は半分。

だが敵意にはならない。

これが綱渡りの成功だ。


しかし副官格の男が言った。


「持ち帰れないなら意味がない」

「ここで作った証拠など、あとで否定できる」


鋭い。

残らない記録の弱点を突いてくる。

ここで嘘をつけば敵意になる。

敵意は中心になる。

中心は門になる。


少年は息を吸って吐いた。


否定しない。

否定は言葉の戦いになる。

言葉の戦いは中心になる。


代わりに、持ち帰れるものを“別の形”で渡す。

紙ではない。

名でもない。

署名でもない。


——摩耗の粉だ。


少年は摩耗ログの端を指で擦り、

削れた紙粉を、灰と混ぜて小さな袋へ入れた。

袋はただの布。

布は生活。

生活は意味になりにくい。


粉は証拠になりにくい。

だが“匂い”になる。

触れた指先のざらつきになる。

その手触りは個別だ。

個別は共通になりにくい。


副官は袋を受け取り、眉をひそめた。


「これで……?」


少年は答えない。

答えれば意味が固定される。

意味は契約になる。

契約は門になる。


副官は袋を袖へしまった。

しまえば持ち帰る。

持ち帰るが、紙の証文ではない。

外の世界で共有しにくい。

共有しにくければ糸になりにくい。


納得は完全ではない。

だが追及の刃は少し鈍る。

鈍れば名に届くまでの距離が伸びる。


夜、先頭の男は言った。


「……このやり方は、長くは持たない」

「いずれ、誰かの名が要る」


正しい。

外の世界は名へ戻る。

戻れば門が近づく。


少年は額に手を当て、温度を作って自分の中へ収めた。


外部に、残らない記録で納得の手触りを渡せた。

だがこれは延命だ。

いずれ外は、名を引きずり出そうとする。


次は、師の存在が嗅ぎつけられる。

嗅ぎつけられた瞬間、名が外から完成させられる。

名が外から完成すれば、内の型では間に合わない。


外が名を作る前に、外の視線そのものを折る必要がある。

折るのではなく、散らす。

散らして、名を作れないまま帰らせる。

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