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英雄の名が消える朝、弟子だけが師を呼んだ  作者: swingout777
第11章 外部視線――名を探す世界

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責任——人ではなく連鎖に置く

外の世界は、必ず「誰が?」に戻る。


誰が決めた。

誰が許可した。

誰が責任を取る。


責任は名を呼ぶ。

名は中心になる。

中心は門になる。


配置で合意を作っても、外の者は落ち着かない。

落ち着かないのは当然だ。

彼らは戦場の外で、名と署名で生きてきた。

残らない合意は不安を呼ぶ。

不安は言葉を増やす。

言葉は糸になる。

糸は門になる。


先頭の男が板を指先で叩いた。


「これ、誰が保証する?」

「うまくいかなかったら、誰が裁かれる?」

「責任者が必要だ」


師の名に近づく言葉だ。

責任者を立てれば中心ができる。

中心ができれば門が育つ。

外はそれを当然と思う。


少年は息を吸って吐いた。


拒めば敵意に見える。

敵意は中心を作る。

中心は門になる。


従えば名が生まれる。

名は門になる。


なら——責任を“人”から“連鎖”へ落とす。

責任は誰か一人が背負うものではなく、

手順が繋がって成立するものだ、と“手触り”で示す。


説明しない。

説明は契約になる。

契約は門になる。


見せる。

ただし見せ方は生活に溶かす。


少年は「責任の連鎖札」を用意した。


無文字の細い札。

点線で、四つの欠け印が縦に並ぶ。

焚き火→水場→結び場→通路。

矢印ではない。

矢印にすると意味になる。

意味は契約になる。

契約は門になる。


欠け印の間には、点が離れている部分がある。

間。

間があることが重要だ。

間があれば“誰か一人”に結びつかない。

結びつかなければ名になりにくい。


連鎖札は一枚ではない。

複数だ。

形も少しずつ違う。

同じにすると共通になる。

共通は糸になる。


運用はこうだ。


外の者が「誰が責任だ」と言ったら、

少年は答えずに、連鎖札を“場”へ置く。

場へ置けば、人ではなく場所に落ちる。

場所は生活に溶かせる。

溶かせば中心になりにくい。


そして外の者に、札を“なぞらせる”。

指で触れて、欠け印を順番に辿らせる。

辿る途中で、各所の物(器・縄・灰)に一度だけ触れさせる。

触れれば手が動く。

手が動けば視線が割れる。

割れれば共通になりにくい。


外の者は体で理解する。

責任は、連鎖で成立している。

一人ではない。

一箇所でもない。


理解が体に残れば、言葉が減る。

言葉が減れば糸が細くなる。

糸が細ければ門は育ちにくい。


先頭の男は苛立っていた。

苛立ちは言葉を増やす。

言葉は糸になる。


「回りくどい。責任者を出せ」


少年は前に出ない。

前に出れば中心になる。

中心は門になる。


少年は連鎖札を、地面に置いた。

入口の器の横。

生活の場所。

意味を薄める位置。


そして、指を一本だけ差し出す。

命令ではない。

促しでもない。

ただ、そこに“触れられるもの”があるという提示。


男は札を掴もうとして、やめた。

掴むと所有になる。

所有は契約になりうる。

契約は門になる。


男は指先で欠け印をなぞった。

焚き火。

水場。

結び場。

通路。


なぞる途中で、少年は灰を一握り、足元へ散らした。

男は無意識に足を擦る。

擦れば生活に落ちる。

生活に落ちれば意味が薄まる。


水場で、男は器に触れる。

冷たさが指に残る。

冷たさは個別だ。

個別は共通になりにくい。


結び場で、縄に一度だけ触れる。

縄はざらつく。

ざらつきは言葉になりにくい。

言葉になりにくければ糸になりにくい。


通路で、小石を一つだけ踏む。

硬さが踵に残る。

硬さも個別だ。


男の視線が、隊の奥から戻る。

奥にいる“誰か”を探す視線が、

今、足元の連鎖へ落ちている。


「……つまり、誰も責任を取らないのか」


ここが綱渡りだ。


否定すれば言葉が増える。

肯定すれば敵意になる。

敵意は中心を作る。

中心は門になる。


少年は息を吸って吐いた。


答えない。

だが空白にもしない。

空白は門になる。


空白を、もう一段、物へ落とす。


少年は配置板を持ってきて、男の前に置いた。

板の点線は少し薄くなっている。

消費されている。

残らない合意の形。


そして、男に“同じ配置をもう一度置かせる”。

水滴。縄。小石。灰。

二度目。

二度目は意味になりやすい。

だから二度目は、順番を変える。

順番が違えば規則になりにくい。

規則になりにくければ中心になりにくい。


男は置く。

置いて、手が汚れる。

汚れは現実だ。

現実は言葉より強い。

強い現実は、余計な言葉を減らす。


男の苛立ちが一段落ちた。

落ちたが納得ではない。

だが“敵意”にもなりきらない。


迷路は成功した。

追及は、名へ一直線ではなく、連鎖へ曲がった。


ただし危険は残る。


迷路は、外の者には「逃げ」に見えることがある。

逃げに見えれば不信になる。

不信は言葉を増やす。

言葉は糸になる。

糸は門になる。


男は最後に言った。


「このやり方を考えたのは誰だ」


鋭い。

連鎖の背後に“設計者”を見ている。

設計者は責任者だ。

責任者は名だ。

名は門だ。


少年は息を吸って吐いた。


ここで名を出せば終わる。

ここで嘘をつけば敵意になる。

敵意は中心になる。

中心は門になる。


なら——設計者も連鎖へ落とす。


少年は連鎖札をもう一枚置く。

今度は欠け印が“散って”いる。

散りの連鎖。

散っているなら中心がない。

中心がないなら設計者が立たない。


男は札を見る。

見て、言葉を探す。

探すが、言葉にできない。

言葉にできないなら共有になりにくい。


少年は縄を一度撫で、離した。

説明しない。

意味を固定しない。


男は舌打ちしかけて、やめた。

舌打ちは敵意だ。

敵意は中心だ。

中心は門だ。


代わりに水を飲んだ。

生活へ戻った。


入口で、また一歩、門を遠ざけた。


少年は額に手を当て、温度を作って自分の中へ収めた。


外部追及は、名へ一直線ではなくなった。

だが外の世界は諦めない。

次は必ず「記録」を求める。

証文を求める。

印章を求める。


記録は残る。

残るものは中心になる。

中心は門になる。


残らない記録で納得させる。

それが次の戦いになる。

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