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英雄の名が消える朝、弟子だけが師を呼んだ  作者: swingout777
第11章 外部視線――名を探す世界

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契約——署名ではなく配置で結ぶ

契約は、門に一番近い。


誰が責任を持つか。

誰が命令するか。

誰が署名するか。


署名は名を呼ぶ。

名は中心になる。

中心は門になる。


外の者は、名と署名で世界を動かす。

それは悪ではない。

むしろ正しさだ。

正しいから共通になる。

共通は糸になる。

糸は門になる。


入口に来た三人は、翌朝も引かなかった。

水と食料を受け取り、灰で足跡を消し、縄で荷を整えた。

生活へ落としても、彼らの目的は変わらない。


「共同作戦の合意が必要だ」

「補給線を通す」

「責任者の署名が要る」


署名が来た。

最短ルートの言葉が来た。


少年は息を吸って吐いた。


拒めない。

拒めば敵対になる。

敵対は中心を作る。

中心は門になる。


受けても危険だ。

署名すれば名が固定される。

固定は杭になる。

杭は支点になる。

支点は鍵を回す。


なら、契約の形を変える。

署名の契約ではなく、配置の契約へ。

名の合意ではなく、手順の合意へ。


合意は必要だ。

だが合意の媒体を変えれば、門の距離は伸びる。


少年は「配置板」を作った。


板といっても大げさなものではない。

木片に、点線で四つの区画が描かれているだけ。

焚き火/水場/結び場/通路。

中に文字はない。

文字は共通になる。

共通は糸になる。


区画の隅に、四つの小物を置ける凹みだけを作る。

小石。縄の切れ端。灰の粒。水滴の跡。

これが“同意の印”になる。


同意の仕方はこうだ。


外の者が提案する。


「補給をここに置く」

「合流地点はここ」

「危険時の退避はここ」


その提案に対し、少年は言葉で肯定しない。

肯定は契約になる。

契約は門になる。


代わりに、配置を置く。


例えば——

補給は水場区画に水滴。

合流は通路区画に小石。

退避は結び場区画に縄切れ。

そして焚き火区画に灰粒を一つ置く(合図ではない“散り”の印)。


外の者は、それを見て自分で頷く。

頷くのは各自。

各自が頷けば共有になりにくい。

共有になりにくければ糸になりにくい。


最後に、外の者も同じ配置を“自分の手で”置く。

置けば、手順が一致する。

一致は合意だ。

だが一致の媒体が名ではない。

名がないなら中心になりにくい。


これが、署名の代わりの合意。


三人の先頭が言った。


「責任者は誰だ。合意の主体が必要だ」


少年は前に出ない。

前に出れば中心になる。

中心は門になる。


少年は配置板を、器の横に置いた。

器は生活。

生活に寄せれば意味が薄まる。

意味が薄まれば契約の鋭さが落ちる。


先頭の男は板を見る。


「……遊びか?」


説明しない。

説明は契約になる。

契約は門になる。


少年はただ、水滴の跡を水場区画へ落とした。

指先を濡らし、板に一滴置く。

置いて離す。

押さない。

固定しない。


次に縄の切れ端を結び場へ置く。

次に小石を通路へ。

最後に灰粒を焚き火へ散らす。


散らすのは“合意”の印ではない。

合意の中心を作らないための散り。

中心ができなければ門が育ちにくい。


先頭の男の目が、板の上を行き来する。

視線が割れる。

割れれば共通になりにくい。

共通になりにくければ糸になりにくい。


男が、黙って同じ配置を置いた。

水滴。縄。小石。灰。

手順が一致した。


「……これでいいと言うのか」


言葉で肯定しない。

肯定は契約になる。

契約は門になる。


少年は、板の端を一度だけ指で撫で、離した。

撫では合図ではない。

所作は個別。

共通にならない。


男はそれを“肯定”と解釈した。

解釈は各自。

各自の解釈は共有になりにくい。

共有になりにくければ糸になりにくい。


合意は成立した。

署名はない。

名もない。

それでも外の者は「形がある」と感じる。

形があるから納得する。

納得すれば言葉が減る。

言葉が減れば糸が細くなる。


だが危険は残る。


配置板は形だ。

形は残る。

残る形は中心になりうる。

中心になれば門が育つ。


だから配置板は“消費”されなければならない。

消費される合意。

使うたびに薄くなり、いつか消える合意。

残らないから中心になりにくい。


少年は板を火に入れない。

燃やすと意味になる。

意味は契約になる。

契約は門になる。


板は、灰で擦って薄くする。

区画の点線が少しずつ消える。

消えれば中心になりにくい。

中心になりにくければ門になりにくい。


外の者はそれを見て、不満を覚える。


「記録が残らない」

「責任が曖昧だ」


不満は言葉を増やす。

言葉は糸になる。

糸は門になる。


少年は理解した。


次は、外の者の“記録欲”だ。

記録が欲しい。

証拠が欲しい。

署名が欲しい。

それをどう溶かすか。


点線ログを、外向けにもう一段作る必要がある。

残らない記録。

だが納得だけは残る記録。


少年は額に手を当て、温度を作って自分の中へ収めた。


契約は、配置へ変換できた。

署名を避けられた。

名を避けられた。


しかし外の世界は、必ず「誰が?」に戻る。

責任の名を求める。

求める視線は鋭い。

鋭さは中心を作る。


次は、責任の視線を“人”から“流れ”へ落とす。

責任者を作らずに責任を成立させる。

それができなければ、門は必ず近づく。

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