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英雄の名が消える朝、弟子だけが師を呼んだ  作者: swingout777
第11章 外部視線――名を探す世界

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外部——名を探す視線

外の視線は、鋭い。


内側の視線は流れへ落とせる。

巡回へ落とし、欠けへ落とし、器と縄と札へ落とせる。

だが外の視線は、それを知らない。


知らない視線は、人を探す。

人を探せば中心ができる。

中心ができれば門が育つ。


危機は、足音の数で分かった。


隊の外側、見張りのさらに外。

砂を踏む足が、一定の拍で近づく。

拍は糸になる。

糸は門になる。


来訪者は三人。

斥候の装い。

だが彼らの目は、敵よりも“指揮”を探している目だった。


「誰が指揮してる?」

「責任者は?」

「話ができるのは誰だ?」


言葉が来る。

言葉は共通になる。

共通は糸になる。

糸は門になる。


外は、名を求める。

名は最も簡単な中心だ。

中心が欲しい者は、まず名を探す。


少年は息を吸って吐いた。


外を拒めない。

拒めば敵になる。

敵になれば戦いになり、戦いは中心を作る。

中心は門になる。


外を迎え入れても危険だ。

迎え入れれば視線が隊の内側へ入り、

名を探し、中心を作る。


なら、入口で落とす。

外の視線を、人から物へ落とす。

入口で視線を“流れ”に変える。


少年は「入口の型」を作った。


第一は、人を立てない。

立てれば中心になる。

中心は門になる。


代わりに、物を先に出す。

器。縄。札。

それも“名に繋がらない物”だけ。


入口の前、地面に四つの印を置いた。

内側と同じ四つ——だが同じにしない。

同じにすると外が学ぶ。

学べば中心にされる。


印は、外から見ればただの生活の配置に見える形にする。

水の器が一つ。

縄の端が一つ。

灰が一握り。

無文字の札が一枚。


札には点線で“矢印のような流れ”が描かれている。

だが矢印ではない。

意味を持たせない。

意味は契約になる。

契約は門になる。


第二は、返事を短くする。

説明はしない。

説明は契約になる。

契約は門になる。


返事は“手順”だけ。


「ここで待つ」

「器に触れる」

「縄に触れる」

「札に触れる」


言葉は最小。

意味を固定しない。


第三は、視線を散らす。


外の者が人を探す前に、手を動かさせる。

手が動けば視線が割れる。

視線が割れれば共通になりにくい。

共通になりにくければ糸になりにくい。


器は喉を潤すために出す。

縄は荷を置くために出す。

灰は足跡を消すために出す。

札は“置き場”を示すために出す。

いずれも生活。

生活は意味になりにくい。

意味になりにくければ契約になりにくい。


外の者は、名を探す暇が減る。


三人は入口に立った。


先頭の男が、隊の内側を覗こうとする。

覗く視線は中心を探す。

中心を見つければ、名へ直結する。


少年は前に出ない。

前に出れば中心になる。

中心は門になる。


代わりに、器を半歩だけ前へ滑らせた。

滑らせたのは誰か分からない距離。

分からない距離は中心になりにくい。


男は器を見る。

喉が渇いていた。

渇きは人を素直にする。

素直さは危険でもあるが、視線を物へ落とすのには使える。


男が器を取る。

取る手が動く。

手が動けば視線が割れる。

割れれば共通になりにくい。


次に、縄の端が見える。

荷を置けという無言の提案。

男は荷を降ろす。

降ろせば身体が緩む。

緩めば視線の鋭さが薄まる。


灰は入口の足元に散っている。

足跡を消すための灰。

男は自然に足を擦る。

擦る動作は生活だ。

生活は意味になりにくい。


札が一枚。

無文字。点線の流れ。

男はそれを“読む”が、言葉にできない。

言葉にできないなら共有になりにくい。

共有になりにくければ糸になりにくい。


それでも男は言う。


「責任者は誰だ」


名が来た。

名を答えれば中心ができる。

中心ができれば門が育つ。


少年は息を吸って吐いた。


答えない。

答えないことで空白が生まれる。

空白は門になる。

だが“空白のまま”にはしない。

空白を物へ落とす。


返事は、札へ落とす。


少年は札をもう一枚、男の靴先へ滑らせた。

点線で“割れた輪”。

割れは開いている。

開いているから流れる。

流れれば中心になりにくい。


男は札を見る。


「……なんだ、これは」


説明しない。

説明は契約になる。

契約は門になる。


代わりに、縄を一回だけ撫でた。

撫でる。

合図ではない。

所作は個別。

共通にならない。


男は、苛立ちかけて、器の水をもう一口飲んだ。

飲むのは生活。

生活は中心になりにくい。


苛立ちは言葉を増やす。

言葉は糸になる。

糸は門になる。


だから苛立ちを増やさせない。

入口で、生活に落とし続ける。


そのとき、風が止まった。


無風。

無風は危険。

外の者が静止し、視線が一箇所に集まりやすい。


男の目が、奥を覗こうとする。

中心を探す目に戻る。


少年は無風札を一枚、灰の上へ落とした。

無文字。穴の点線。

穴は空白の印。

だが穴は“名”ではない。

名になりにくい形。


無風札が落ちた瞬間、入口の内側の者が動く。

器が半歩ずれる。

縄が一度だけ緩む。

灰が一度だけ散る。


小さなズレが同時を壊す。

同時が壊れれば中心ができにくい。

中心ができにくければ門が育ちにくい。


男の視線は、また物へ落ちる。

落ちれば名へ届きにくい。


師は奥にいる。

名なしの師。

外の視線が探せない位置。

探せないことで守られている。

だが探せないことは、外にとっては不信にもなる。


不信は言葉を呼ぶ。

言葉は糸になる。


少年は理解した。

入口の型は、まだ足りない。

外の者には“納得の手触り”が必要だ。

共有の説明ではない。

各自が勝手に納得した気になる手触り。


点線ログと同じもの。

外向けの、別の点線。


少年は額に手を当て、温度を作って自分の中へ収めた。


次は、外の者に「ここはこういう場所だ」と言わせないまま、

「こういう場所なんだろう」と思わせる。

思わせれば言葉が減る。

言葉が減れば糸が細くなる。

糸が細ければ門は育ちにくい。


外部視線を、入口で溶かす。

その型を完成させなければならない。

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