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英雄の名が消える朝、弟子だけが師を呼んだ  作者: swingout777
第8章 心の型——守りたいを分ける

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自然減——更新を拍にしない

更新は、拍になる。


決まった時間。

決まった手順。

同じ人。

同じ場所。


それが揃えば中心ができる。

中心ができれば門が育つ。


心札は効いた。

だが心札を“更新すること”が共通になれば、それは新しい糸になる。

糸になれば門になる。

門になれば欠けが回る。


だから更新をやめる。


やめると言っても、止めるのではない。

止めれば空白が生まれる。

空白は門になる。

更新を“消す”のではなく、“薄める”。


少年が選んだのは、自然減と自然補充だった。


札は毎朝置かない。

束で配らない。

札は、使われた分だけ減る。

減った分だけ、勝手に増える。


勝手に増えるには、誰も決めない微差が必要だ。

微差で動くなら、歪みが規則を掴みにくい。

掴みにくければ中心にできない。


少年は札師に、札を“消費できる紙”で作らせた。

薄い紙。

触れた指の温度で、ほんの少しずつ灰になる紙。

一度触れれば、その札は数刻で薄くなり、翌朝には消える。

消える札は中心になりにくい。

中心になりにくいなら門になりにくい。


これが自然減。


次に自然補充。


補充は毎朝しない。

補充の時間を作らない。

補充は“減ったことが起きた場所”へ、後から自然に落ちる形にする。


少年は補充箱を四つ作った。

箱も無文字。

点線で、灰・滴・結び・火花の印。

箱はそれぞれ、対応する場所に置く。


焚き火には火花箱。

水場には滴箱。

結び場には結び箱。

通路には灰箱。


箱の中には札が入っている。

ただし入っている札の形は、箱の印と一致しない。

火花箱には滴札や交差線札も混ぜる。

滴箱には足跡札や箱札も混ぜる。

混ぜれば規則が薄くなる。

薄ければ歪みが読めない。


補充の合図は“減り”そのものだ。


札が消えて空白ができる前に、減りの場所が“知らせる”。

知らせ方は言葉ではない。

札の下に敷かれた小さな砂が、札が薄くなると露出する。

露出した砂の色が変わる。

変わり方は微差で違う。

風向きで散る。

灰で染まる。

水で滲む。


砂の色が変わったら、近くの箱から一枚落とす。

落とすのは札師ではない。

その場の係が落とす。

係は固定しない。

微差で変える。

薪が爆ぜたら火係。

水滴が落ちたら水係。

縄が擦れたら縄係。

灰が舞ったら灰係。


誰も決めない微差が、補充の手を選ぶ。

選ぶ手が変われば中心ができない。

中心ができなければ門が育たない。


最初の夜、試験が来た。


見張り台の陰で、若い兵が息を詰める。

守りたいが周囲に湧く。

湧くが、各自が自分の札に触れて離す。

札は少しずつ薄くなる。

薄くなることが“使った”という証拠になる。

証拠は言葉ではない。

証拠が言葉で共有されないから、糸になりにくい。


数刻後、見張り台の丸札がほとんど消えかけた。

下の砂が露出し、色が変わる。

風で砂が偏り、灰が少し混じる。


その瞬間、通路の灰箱の蓋が少しだけ開く。

蓋が開いたのは人の手ではない。

通りすがりの歩係が、砂の色を見て気づき、何も言わずに一枚落とす。

落とした札は“箱札”ではなく“足跡札”だった。

偶然に近い。

だが完全な偶然ではない。

砂の色と通路の箱が繋がっている。

繋がっているが、規則は薄い。


薄さが札の上に寄ろうとした。

歪みは更新の拍を嗅ぐ。

だが拍がない。

同時がない。

決まった時間がない。

だから寄り切れない。


薄さは、拡散した。

拡散すれば門になれない。


師の欠けは鳴らなかった。


守りたいは湧いた。

湧いたが、札で分割され、自然減で薄まり、自然補充で散った。

共通の瞬間が生まれない。

共通の拍が生まれない。

だから杭にならない。

杭にならなければ支点にならない。

支点にならなければ鍵は回らない。


師は焚き火のそばで、掌を自分に向け、親指を押して放した。

それは癖になりつつある。

癖は危険だ。

癖は共通になる。

だが癖は個別に残る。

個別に残すために、箱札の形は日々変える。

師の箱札も、四角ではなく丸へ、丸ではなく線へ。

固定しない。

固定しないことで、癖を中心にしない。


少年は額に手を当て、温度を作って自分の中へ収めた。


自然減と自然補充で、更新の拍を消した。

歪みの嗅覚を外した。


だが歪みは次に、減りそのものを読もうとする。

どこが減ったか。

誰が落としたか。

その“偏り”を中心にしようとする。


だから次は——偏りを食わせる。

偏りをわざと作って、別の場所へ誘導する。

歪みを誤誘導する型が必要だ。

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