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英雄の名が消える朝、弟子だけが師を呼んだ  作者: swingout777
第8章 心の型——守りたいを分ける

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心の型——守りたいを分ける

守りたい、という気持ちは強い。


強いから、皆に伝染する。

伝染するから、共通になる。

共通になれば糸になる。

糸になれば門になる。


役割を分けた。

命令を札に落とした。

自動を散らした。

規則を薄くした。

それでも鳴った。


師の欠けが鳴ったのは、“守りたい”が動いたからだ。


守りたいは、言葉ではない。

けれど言葉より強い。

名より深い。

役割より根に近い。


だからこそ、禁止できない。

禁止すれば空白が生まれる。

空白は門になる。

禁止は逆効果だ。


必要なのは、心の型。

守りたいを抱えたまま、共通にしない型。

抱えたまま、杭にしない型。


少年は、まず“分ける”ことを考えた。


守りたいは一つの塊になると強い。

塊になれば中心になる。

中心は門になる。

なら塊にしない。

細切れにする。

分けて、逃がす。


分け方は言葉ではない。

言葉は共通になりやすい。

共通は糸になる。

だから分け方も生活の形へ落とす。


少年は無文字の札を一枚、師の膝の横へ置いた。

点線で、小さな“四角”が四つ描いてある。

四角は箱。

箱は入れ物。

感情を入れる箱。


四つの箱は、それぞれ違う方向に開いている。

上。右。下。左。

開き方が違えば、逃げ方が違う。

逃げ方が違えば共通になりにくい。


運用はこうだ。


守りたいが湧いたら、師は箱を一つ選ぶ。

選ぶ基準は決めない。

決めれば規則になる。

規則は歪みに読まれる。

だから“その瞬間の微差”で選ぶ。


薪が爆ぜたなら上。

水滴が落ちたなら右。

縄が擦れたなら下。

灰が舞ったなら左。

誰も決めない微差が、選択を分ける。


選んだ箱に、親指で小さく触れる。

押すでもない。叩くでもない。

触れて、離す。

触れるだけなら音は出ない。

呼吸も変えにくい。

同期もしにくい。


触れた瞬間、師は心の中で“守りたい”をその箱に入れる。

入れる、と意識する。

意識は言葉ではない。

しかし意識は形になる。

形になれば、塊ではなく“分割”になる。


少年は師の顔を見ない。

見ると共通になる。

共通は糸になる。

だから少年は札を示すだけ。

示して、距離を取る。

距離は錨を防ぐ。


試験は、すぐ来た。


若い兵が見張り台の陰で、膝をついた。

恐怖ではない。

疲労だ。

疲労は弱さに見える。

弱さは守りたくなる。

守りたいは共通になりやすい。


師の肩が、わずかに前へ出る。

触れない。

だが触れたいが出る。

触れたいは守りたいの形だ。


欠けが鳴る。

胸の奥で鍵が回ろうとする。

回ろうとするだけで空気が引っかかる。


少年は息を吸って吐き、生活音を散らせの運用を維持する。

灰係が灰を散らす。

滴係が水を落とす。

縄係が縄を擦る。

歩係が歩幅をばらす。

空白を作らない。

中心を作らない。


そして師の横の札——四つの箱を、指で一度だけ示した。


ちょうどその瞬間、薪がぱち、と爆ぜた。

上。

師は上の箱に親指で触れ、離す。


触れた瞬間、師の胸の奥の回りが“止まる手前”で揺れる。

揺れて、止まる。

回りきらない。

門にならない。


師は若い兵へ歩幅で近づかない。

近づけば錨になる。

代わりに、器を押し出す。

水を置く。

水は喉ではなく身体を支える。

身体が支えられれば、心の共通が薄くなる。


若い兵は水を含み、息を吐き、掌を自分に向けて親指を押す。

自分の喉を止める。

声は出ない。

共通語は出ない。


周囲の兵は視線を集めない。

自動順序札が回り、各自が別の作業に戻る。

恐怖も守りたいも、共有されない。

共有されないなら糸にならない。


欠けの鳴りが、薄く消える。


夜、師は焚き火のそばで、四つの箱札を見つめた。


師は言葉を使わない。

だが表情が言う。

守りたいを、しまう場所ができた。

しまう場所ができれば、杭にならない。


少年は知っている。

これは小さな成功だ。

だが小さな成功ほど大きい。

感情を禁じずに、門を作らせない道が見えたからだ。


ただし問題は残る。


箱は四つ。

四つの箱が“習慣”になれば、そこにも規則が生まれる。

規則は歪みに読まれる。

読まれれば中心にされる。


だから箱も散らす必要がある。

箱の形を変える。

箱の数を変える。

開く方向を変える。

都度、微差で変える。


心の型も、生き物にする。

固定しない。

固定しないために、生活の微差を使う。


師の欠けはまだ残っている。

残っているが、回りきらない瞬間が作れた。

回りきらない瞬間を積み重ねれば、欠けは門にならないまま生きられる。


少年は額に手を当て、温度を作って自分の中へ収めた。


次は、この心の型を“隊にも”広げる。

広げ方は共通にしない形で。

共通にせずに共有する。

矛盾だが、順序で扱える。

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