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英雄の名が消える朝、弟子だけが師を呼んだ  作者: swingout777
第17章 最終判断——切断の通告

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奪名——名を奪えば門が開く

名は、杭だ。


杭は打てば残る。

残れば中心になる。

中心は門になる。


切断班の長が引いた夜、上位は別の札を送ってきた。

札は紙ではなかった。

金属札。

磨かれた面。

刻印。

刻印は残る。

残るものは中心になる。


女が札を受け取り、眉をひそめた。

賢い者が嫌う種類の“残り方”だった。


女は言った。


「切断は中止提案」

「代替措置:奪名」


奪名。

名を奪う。

名を付ける。

どちらでも結果は同じだ。

名が立てば中心が立つ。

中心は門になる。


研究班の男が言う。


「これなら切らずに固定できる」


照合係が頷く。


「名札があれば照合が取れる」


教義班の老人が笑う。


「名があれば封じられる」


女は黙って札を置いた。

机の中心に置かない。

端。

だが金属札は光る。

光は視線を集める。

視線が集まれば中心になる。


少年は息を吸って吐いた。


切断が切れないなら、名で切る。

名で固定する。

名で揃える。

揃えば糸。

糸は門。


金属札は最悪だ。

薄くならない。

摩耗しない。

消費されない中心。


だが奪えない。

奪えば反抗。

反抗は敵意。

敵意は中心。

中心は門。


名を成立させない。

名札を名札にしない。

刻印を刻印にしない。


名の成立条件を崩す。

名が名として機能するには、

皆が同じ名を同じ対象に結び付ける必要がある。

結び付けが揃えば糸になる。


結び付けを揃わせない。

対象を固定させない。

対象を工程へ溶かす。


女は上位の通告を読み上げた。


「奪名措置を実施する」

「当該因子に識別名を付与」

「識別名を用いて管理」

「識別名を所持する者は管理対象」

「抵抗は処分」


所持する者。

人に落ちた。

人に落ちれば柱が立つ。

柱は中心。

中心は門。


女が一瞬、目を伏せる。

賢い者でも、これは嫌だ。

責任が濃すぎる。


研究班が言う。


「名札を付けるだけだ」


照合係が言う。


「識別は必要だ」


教義班が言う。


「名を与えよ」


少年は息を吸って吐いた。


名札を付ける対象を、師にさせない。

師に付けば師が固定される。

固定は中心。

中心は門。


私に付けさせない。

私に付けば支点が柱になる。

柱は中心。

中心は門。


対象を“工程”にする。

名札を「工程札」にする。

工程札なら持つ者が毎回変わる。

変われば固定になりにくい。

固定になりにくければ門になりにくい。


奪名班が入ってきた。

黒布ではなく、白い布。

白い布は清潔で、揃う。

揃えば儀式になる。

儀式は門。


班の女が言う。


「識別名を刻印する」

「因子を特定する」

「触れた者に札を持たせる」


触れた者。

それは罠だ。

触れさせ、札を持たせ、名を固定する。


少年は額に手を当て、温度を作って自分の中へ収めた。


触れさせない。

だが拒否できない。

拒否は抵抗。

抵抗は処分。

処分は中心。


触れるのは“工程”にする。

触れるのは巡回順の作業。

作業は毎回変わる。

変わるなら名は固定しにくい。


少年は点検束を一枚、奪名班の前に置いた。

四枠の点線。

焚き火、水場、結び場、通路。


欠け印の札も外側に置く。

言葉にしづらい印。

共通になりにくい印。


班の女が眉をひそめる。


「これは何」


女(合同班)が言う。


「巡回工程」

「現場の事故防止」

「名を付けるなら工程に」


班の女が冷たく笑う。


「工程には名を付けられない」

「名は因子に付く」


因子。

中心の核。


少年は息を吸って吐いた。


因子を特定させない。

特定は固定。

固定は中心。

中心は門。


特定しようとするほど揺れが増えるようにする。

揺れは測れない。

測れないなら特定できない。


特定できないなら、名は宙に浮く。

宙に浮いた名は機能しない。


奪名班は器具を出した。

針。

紐。

札。

刻印具。


刻印具は残る。

残るものは中心。

中心は門。


班の女が言う。


「触れた瞬間を記録する」

「同意を取る」


同意。

署名。

契約。

門。


少年は息を吸って吐いた。


同意を取らせない。

だが拒めない。

なら同意を“同意にしない”。

同意を“事故防止の確認”に落とす。

確認は契約になりにくい。


女(合同班)が言った。


「同意ではない」

「事故防止の確認だ」

「抵抗ではなく、安全の手順」


奪名班は一瞬、止まる。

制度の言葉で縛られた。


班の女が言う。


「では確認を」


そして札を差し出した。

金属札。

光る。

重い。


机の端に置かれる。

端でも光は中心になる。


少年は息を吸って吐いた。


札を中心にしない。

札が中心になる前に、中心を割る。


札の“参照先”を割る。

参照先が一つなら札は鍵になる。

参照先が複数で揃わなければ札は鍵にならない。


少年は器を三つ置いた。

水面が三つ。

光が三つに割れる。

視線が割れる。

割れれば中心が立ちにくい。


さらに布を二枚。

摩耗帯を一本。

音を変える。

音が変われば注意が割れる。

割れれば中心が立ちにくい。


奪名班の女が苛立つ。


「散らすな」


散らすな、は中心を作る命令だ。

命令は反発を生む。

反発は戦い。

戦いは中心。

中心は門。


女(合同班)が言う。


「散らしは現場の安全だ」

「固定すると事故が増える」

「責任は上位が負う」


また責任。

鎖。


班の女は強引に言った。


「因子を特定する」

「識別名はこれだ」


そして金属札を掲げた。

刻印された名を読み上げる。

名が空気に立つ。

立てば中心になる。

中心は門になる。


少年は静かに息を吐いた。


ここが山だ。

名を立てさせない。

だが叫べない。

叫べば戦い。


名が立つ瞬間に、名の参照先をずらす。

同じ名が同じ対象に結び付かないようにする。


名を、工程へ滑らせる。

工程札にする。


少年は欠け印の札を、金属札の横へ置いた。

そして四枠点検束を指でなぞる。


女(合同班)が理解し、言う。


「識別名の適用先は工程」

「因子ではなく、因子が現れる工程状態」

「名は“状態名”として扱う」

「所持者は人ではなく、巡回順で変わる」


班の女が反発する。


「それでは封じられない」


女(合同班)が言う。


「封じは事故を呼ぶ」

「責任は上位が負う」


班の女は歯を食いしばる。

賢い者ほど、責任で縛られる。


そして班の女は言った。


「……上位に確認する」

「状態名としてなら、暫定で」


暫定。

固定ではない。

固定でなければ中心になりにくい。

中心になりにくければ門になりにくい。


少年は静かに息を吐いた。


奪名は、名付けにならなかった。

名は杭にならず、札は鍵にならなかった。

ただの状態名。

揺れる名。

揺れるなら糸になりにくい。


だが上位は怒る。

次は“最終封止”だ。

状態名すら許さず、封じる。

封じれば門が閉じる?

違う。

封じは門を固定する。

固定は門を開く鍵になる。


第18章。

決着が来る。


支点の役目は、ここからだ。

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