盗まれた遊び、星の記憶
皆が立ち去った後、広場は再び里の静寂に還った。茶狼の尻尾の残響、岩狼と石狼の双子の足音、銀狼の悔しげな笑い、読狼の控えめな影――それらが、夜風に溶け、木々の葉ずれに混じって遠ざかる。星狼は一人、丘の頂に腰を下ろし、首を仰け反らせて夜空を仰いだ。
満天の星々が、黒絹のヴェールに散りばめられたダイヤモンドのように、無数に瞬き、銀河の帯が淡い霧のように弧を描く。争いの里でさえ、この空は慈悲深く、牙の棘を優しく溶かす。
彼は、そんな星々の囁きに耳を澄まし、心の傷を、冷たい光の雫で洗うように息を吐いた。星は沈黙の語り手――人間と狼の因縁を、ただ静かに見下ろす。
そんな中、ゲーム前に言った自分の言葉を思い出す。広場の興奮が、耳の奥で反響する。
「ははは、欠点も含めて人狼ってもんだ。誰だっていい所もあれば悪い所もある。皆に隠しているが、勿論俺にだってあるぞ? 職業・特殊能力・欠点の三つをバランスよく織り交ぜたお友達を紹介して、誰のお友達が一番かを決めようじゃないか?」
皆に隠している事。
星狼の胸に、微かな棘が刺さる。星々が、嘲るように一瞬、強く瞬いた。
「……まいったなぁ」
星狼は頭をかく。爪が毛並みを乱し、彼の顔に、少年のような困惑が浮かぶ。里の風が、冷たく頰を撫で、星空の果てを思わせる。
実はこのゲームは、星狼が考えたものではない。
若い時の彼が、先輩狼に修行の一環で教えて貰ったゲームなのだ。
あの頃、里の奥深くの洞窟で、火の揺らめきに照らされ、先輩の低い声が響いた。カードを並べ、想像を競う遊び――牙を研ぐための、頭脳の舞踏会。
星狼はそれを、里の掟に染め、子供たちの無垢に適わせてアレンジした。
だが、名前だけが、霧のように掴めない。
何かカードを使っていたゲームだった。それだけは覚えている。
内容の骨子は鮮明に残り、ヤマトの笑顔やアレックスの冒険を、即興で紡ぎ出せたのに。名前は、星の欠片のように、指の間から零れ落ちる。
「これ、下手に里で流行ったら危ないんじゃねぇか……? 俺が盗んだように思われないかなぁ……? まいったなぁ……?」
独り言が、夜空に溶ける。銀河の帯が、ゆっくりと流れ、星狼の不安を映す鏡のように揺らぐ。里の長老たちが嗅ぎつけたら? 先輩の影が、牙を剥いたら? 遊びの仮面の下で、自身の弱みが露わになる――借金三億の如く、重くのしかかる。
「いやぁ、困ったなぁ。ちょっと怖いなぁ……読狼が知ってたりしないかなぁ?」
星狼は再び空を見上げる。満天の星々が、答えの代わりに、無限の可能性を散らす。銀河の渦が、渦巻くように心を包み、彼に、ささやかな安堵を囁く。
名前など、失われてもいい。ゲームは生き、子供たちの笑顔は続く。里の闇が迫る中、この星空だけが、永遠の味方だ。




