即興の牙、頭脳の舞
星狼の視線が、坂道の闇に溶け込む影を捉えた。一つの影が、月明かりを背にゆっくりと近づいてくる。里の夜風が、草の葉をざわめかせ、子供たちの興奮を一瞬、静かに包む。
星狼は一呼吸おいて、皆に説明を続ける。戦いの予感を、想像の余地で塗り替える――それが、このゲームの真髄だ。
「今、三人が言ってくれた職業・特殊能力・欠点。この三つが一つずつ入ったキャラクターを作ってくれ」
星狼の言葉が、広場に静かに落ちる。銀狼は、銀色の毛並みを微かに震わせ、地面に視線を落とした。三人の言葉が、少年の頭の中で渦を巻く。茶狼の軽やかな職業のリスト、岩狼の力強い能力の羅列、石狼の棘ある欠点の連なり――それらを、糸のように紡ぎ合わせて、一つの生身の幻を形作る。里の掟が牙を研ぐように、想像力もまた、爪を立てる。
「ふんふん……じゃあ、どうしようかな……」
銀狼は三人の出した要素をじっくりと組み合わせる。指を土に這わせ、仮想の線を描くように。宇宙の果てを旅する者か、幻の糸を操る幻術師か、それとも失われた石を追うハンターか。夢を織るデザイナーか。時間を巻き戻す一瞬の贖罪、動物の囁きを借りた絆、食べ物の恵みで満たす温もり、記憶の霧で覆う忘却。借金の鎖、世界一の醜の仮面、眠気の永遠の霧、腐敗の触れぬ呪い。どれを、どれと、どれに。
少年の瞳が、星のように瞬く。戦いのための頭脳が、ここで、遊びの翼を得る。
「その組み合わさったキャラクターが、お前のオトモダチってわけだ」
星狼の声が、優しく促す。風が、子供たちの尻尾を軽く撫で、緊張を解す。
「あっ! だから【僕の素敵なお友達ゲーム】なんだ!?」
茶狼が気づいたように声をあげる。茶色の尻尾が、ぴんと跳ね上がり、少女の笑みが広場を照らす。無垢のひらめきが、里の重い空気を一掃する。
「そう、その通り。そして素敵なお友達は、当然皆に紹介しないといけないよな?」
星狼は頷き、岩狼の視線を捉える。双子の兄は、岩のようにどっしりとした体を少し前傾させ、期待を隠せない。
「うんうん!」
岩狼は目を輝かせる。石狼が、弟の袖をそっと引いて、互いの鼓動を共有する。双子の絆が、ゲームの糸をより強く結ぶ。
「だから、そのお友達を、茶狼、岩狼、石狼の三人に紹介して、どっちのお友達と仲良くなりたいか、判定してもらおう」
星狼の提案に、石狼の目が大きく見開く。欠点のリストを自分が吐き出した記憶が、少年の胸をざわつかせる。
「えっ? 僕、色々、変な事言ったよ!?」
石狼は驚く。声が、夜の森に小さく響き、微かな不安を運ぶ。借金三億の重荷、世界一醜い顔の棘、永遠の眠気の霧、触れたものが腐る呪いの冷たさ――それらが、遊びの中で牙を剥く。
「ははは、欠点も含めて人狼ってもんだ。誰だっていい所もあれば悪い所もある。皆に隠しているが、勿論俺にだってあるぞ? 職業・特殊能力・欠点の三つをバランスよく織り交ぜたお友達を紹介して、誰のお友達が一番かを決めようじゃないか?」
星狼の笑いが、広場を包む。彼は、自身の牙の影を、言葉の端に忍ばせる。里の争いが、こんな夜にさえ、息を潜めている。だが今は、欠点を晒す勇気が、絆の糧になる。
「いやぁ、難しいですねぇ……」
銀狼は悩んでいる。爪を軽く地面に立て、思考の渦を掻き回す。頭の回転が、戦いのためのものか、それともこのゲームのためのものか――境界が、ぼやける。
「こういう頭の回転が戦いには必要だ。誰の言葉がおかしかったか、誰の言葉が良かったか、そういった物を瞬時に理論にしていかなければならない」
星狼の教えが、静かに染み入る。銀狼の瞳に、里の現実がちらりと映る。人間との争いの渦で、そんな機転が命を繋ぐ。
「成程。頭の体操みたいな事ですね?」
銀狼の呟きに、星狼は小さく頷く。だが、次の言葉を紡ぐ前に、視線を坂道へ移す。影が、近づいていた。
「おっと、少し待ってくれるか?」
星狼は坂の方に視線を向ける。一人の人狼がこちらに向かって来ている。月光が、その毛並みを淡く縁取り、里の夜に新たな息吹を加える。子供たちの視線が、一斉に集まる。
「なんだなんだ。【読狼】も修行に来たのか? それなら、三人で一緒にやろうぜ?【読狼】の為にもう一度、ルールをおさらいだ」
星狼の声が、迎え入れる。広場の空気が、再びざわめき始める。新たな影が加わり、ゲームの輪が広がる気配。
職業: 宇宙探検家、幻術師、古代遺跡ハンター、夢のデザイナー。
特殊能力: 時間を少し巻き戻せる、動物と心で会話できる、食べ物を作り出せる、記憶を一時的に消せる。
欠点: 借金三億、世界一醜い顔、永遠の眠気、触れたものが全部腐る。
「この三つの項目から、一つずつの要素が組み込まれたキャラクターを作るんだ。そして、ソイツを紹介しろ」




