四つの声、無限の欠片
星狼は、夜の風に毛並みをそよがせながら、言葉を続けた。月光が彼の瞳を銀に染め、里の闇を優しく溶かす。子供たちの好奇心が、まるで小さな火種のように周囲を温めていたが、星狼の胸中には、まだ争いの残り香が漂う。
彼は、そんな夜にこそ、想像の翼を広げたくなるのだ。
「それじゃあ、銀狼……お前が対戦相手だ。俺と勝負しよう。騙し合いの技術なんてのは、実際に戦ってみて覚えるのが一番だ」
「はい!」
銀狼の返事は、元気よく弾けたが、その銀色の毛並みが微かに震え、緊張の糸を覗かせる。少年の瞳には、里の掟がまだ薄い影を落としていた。戦うための牙を、遊びの仮面で覆い隠す――そんな矛盾が、星狼の心をくすぐる。
「他の三人にも役割があるからな? 最初に茶狼……君はなんでもいいから、【職業】を四つ言ってみてくれ」
茶狼は、茶色の尻尾を軽く翻し、目を輝かせて口を開いた。少女の声は、森の小川のように澄んで、夜の静けさを優しく乱す。
「じゃあ……宇宙探検家、幻術師、古代遺跡ハンター、夢のデザイナー!」
星狼の唇が、弧を描いた。笑いが、喉の奥から零れ落ちる。
「ははは、夢のデザイナーってのは面白い職業だな? 具体的に、どんな仕事してるんだ?」
「えっとね……皆の夢を、カスタムメイドするクリエイターなの! 夜中に訪れて、理想の世界を織り上げちゃうのよ」
茶狼の言葉が、風に舞う葉のように軽やかで、星狼は再び笑った。里の外の世界を思わせる響き――人狼の空想が、こんなにも無垢に混じり込むなんて。
「ははは、面白い職業だ! 意外とこれは使えるカードかもな!?」
星狼は嬉しそうに笑う。子供たちの視線が、彼の牙の隙間に集まる。だが、その笑いの奥底に潜む理由は、誰にもわからない。星狼自身、争いの渦中から逃れるための、ささやかな策略を嗅ぎ取っていたのかもしれない。夢をデザインする者なら、人間と狼の狭間で、どんな橋を架けられるか。
「次は岩狼。お前はなんでもいい。【特殊能力】を四つ言ってくれ」
岩狼は、兄らしいどっしりとした体躯を少し前傾させ、声を張った。双子の石狼が、弟の尻尾をそっと掴んで、互いの鼓動を確かめ合う。
「それじゃあ……時間を少し巻き戻せる、動物と心で会話できる、食べ物を作り出せる、記憶を一時的に消せる……の四つでいいですか?」
星狼は満足そうな笑みを浮かべながら、ゆっくりと頷いた。月が雲に隠れ、広場の影が深まる中、彼の声は穏やかだった。
「あぁ、完璧だ! 時間を少し巻き戻せるってのは、何秒ぐらいだ?」
「5秒ぐらい!」
岩狼の答えに、星狼の目が細まる。5秒――一瞬の後悔を、やり直すための、絶妙な狭間。里の戦いで、そんな力があれば、どれだけの血を拭い去れるか。星狼の胸に、淡い幻影がよぎった。
「成程、いい塩梅だなぁ。よし、最後に石狼」
「はい!」
石狼の声は、弟らしい柔らかさで響く。双子の絆が、空気を震わせる。
「君はなんでもいいから、人狼として【とんでもないマイナス要素】これを四つ考えてくれるか? これは少し考えるのが難しいかもしれないぞ?」
石狼は、首を傾げ、爪で地面を軽く掻いた。思考の渦が、少年の毛並みを乱す。里の現実が、こんな遊びの中に忍び寄る――星狼は、そんな危うさを、静かに見守った。
「え〜っと、え〜っと……それじゃあ……借金三億! 世界一醜い顔! 永遠の眠気! 触れたものが全部腐る!」
石狼の言葉が、夜の森に転がる。借金三億の重み、世界一の醜さの棘、眠気の霧、腐敗の呪い――人狼の体に、そんな枷を想像するだけで、子供たちの笑いが、微かに歪む。
「ははは! いいぞいいぞ。最高だ! それじゃあ、銀狼には俺との勝負方法を教えるぞ?」




