星屑の囁きと牙の影
ここは狼の里。人間の影など、微塵も許されぬ土地。人狼のみが息づき、爪と牙の記憶を共有する、静かなる巣窟。
星狼は広場に佇み、首を仰け反らせて夜空を凝視した。満天の星々が、冷たくも優しい光を散らし、里の外で渦巻く血の渦を、ほんの一瞬、遠ざけてくれる。彼は牙の重さを知っていた。争いの果てに残るのは、ただの虚空だけだ。
「俺達は何のために争ってるんだろうな……。もっと、ただ楽しく、生きられたらいいのに……」
独り言は、風に溶けて消えた。星狼の瞳に、星の欠片が映り込み、揺らぐ。里の掟は古く、根深い。人間との因縁は、霧のように曖昧で、誰もが本当の始まりを忘れかけている。それでも、牙は研がれ、爪は曲げられる。自分もまた、その輪廻の一部だ。
「星狼さ〜ん!」
遠くから、幼い叫びが響いた。星狼はゆっくりと視線を落とす。月明かりの下、四つの小さな影が、草を踏みしめてやってくる。
銀色の毛並みの少年、茶色の尻尾を翻す少女、双子の兄弟――彼らはまだ、里の現実を牙で噛み締めぬ歳。無垢な瞳が、星狼を捉えると、揃って花のような笑みを浮かべた。
「星狼さん、修行してよ! 僕も、大きくなったら人間と戦うんだから!」
その言葉が、星狼の胸を鋭く抉った。
戦う――。子供の唇から零れ落ちる、純粋なる毒。里の空気は、そんな言葉で満ちている。狼一族と人間の争いは、果てしない。
原因? 星狼自身、霧の中だ。古い神話か、領土の貪欲か、それともただの、忘れられた誤解か。この子たちにも、いつかその牙を向ける日が来る。無垢が、血に染まる日。
それでも、星狼は唇の端を吊り上げ、偽りの笑みを纏った。彼はそんな仮面の重さを、骨の髄まで知っている。
「よし、いいぜ。修行してやるよ。ただ、今日は特別だ。【僕の素敵なお友達ゲーム】だ」




