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第6話 ショッピングセンター探索

     ショッピングセンター探索

               *

 一同は高校生になって初めての夏休みを迎えていた。クラブ活動や勉強に勤しむ者や、読書や音楽など自分の趣味を深める者など、それぞれ与えられた膨大な時間を有効活用しているのだった。そんな夏休みのある日、蝉の鳴き声のせいで聴覚まで暑いと訴え始める気候の中、七海と青戸と細野と戸崎は、各々の家から大体中間付近にあるショッピングセンターに訪れていた。一刻も早く中で涼みたくて自動ドアにぶつかりそうになった七海が誤魔化すように言った。

「自動ドアよりも速い女七海、侵入成功しました! このショッピングセンターはまるで止まっているようです!」

「ここは動く城ではないからね~。いや~、涼しいね~」

 戸崎は保護者のように言った。青戸は暑さにやられた様子で汗と共に言葉を流した。

「動いて玄関前まで来てほしかった……」

「青戸くん大丈夫? 一回どこかで休憩する?」

 そう言いながら扇子を広げて青戸を扇ぐ細野が続いた。青戸は垂れるように細野に頭を下げた。

「それならいい場所があるわ。ついてきて」

 学生と家族連れの多いショッピングセンター内を進み、家具屋のブースの前で止まった。

「ここなら休みながら商品の良し悪しを確かめることができるわ。というより、疲れている時の方がよりありがたみを実感できるというものよ」

「俺を実験台にするつもりだな、いいだろう」

中に入り、店側の意図に従ってリビングのコーナーから見て回る一行。七海はタオルを泥棒のように巻いていた。

「やっぱり家具はシンプルなのがいいわね」

「シンプルに怪しい人がいるけど」

 戸崎が冷静にツッコんだ。その後ろで青戸は七海と同じようにタオルを巻き、足の細い草食動物のようなダイニングチェアに座っていた。

「ひと昔前のネット社会なら家に侵入した泥棒にされてただろうな」

「青戸くん大丈夫? 頭までおかしくなっちゃったんじゃ」

 細野は見かねて鞄の中から塩分をチャージできる飴を取り出して青戸に差し出した。

「これ、いる?」

 青戸は脱力するように頭を下げながら飴を受け取った。

「私もきなこ棒ならあるけれど……」

「殺人未遂の容疑で逮捕するぞ」

「凶器はきなこ棒だね」

 青戸と細野はそのままリビングのコーナーに残り、戸崎と七海は勉強机のコーナーへ移動した。

『細野ちゃん、青戸くんにべったりね。やっぱりかくれんぼの時のはそういうことなんじゃ』

 七海は胸の辺りを押さえながら心の中でそう呟いた。それを聞いていた戸崎は一瞬不安そうな顔を見せたが、すぐにいつもの愛想のいい顔に塗り替えた。

 七海は勉強机を眺めながら言った。

「子供に知識を得る機会を与える天使か、それとも勉学の象徴となり、そこに座っていない時は勉強をしなくてもいいという、勉学から逃げる機会を与える悪魔か、一体どちらなのだろうか……」

 戸崎が無反応だったので、七海は目線を近くの青年向け勉強机を見ながら眉をひそめる戸崎に移した。

「『あの机と結びつく嫌な記憶でもあるのかしら』。そろそろ戻りましょうか」

「あっ、そうだね。……そうしよう」

 戸崎は我に返ったようにいきなり答えた。

 青戸と細野のいた場所に戻ってきた二人は、彼らを探して辺りをキョロキョロ見回した。

「あれ? 二人ともいないわね」

「もう店を出たんじゃない?」

「私たちも出ましょうか」

 七海も戸崎も各々の理由で[心の穴]を気にしながら店を出た。

 店を出てまもなく、すぐ近くのベンチに座る青戸と細野を見つけ、そこまで歩いていった。青戸は名前通りの青ざめた顔から少し回復した様子で二人に言った。

「休憩のためだけに使うのも悪いと思ってな」

『誠実な子ね』

『……』

 七海のその感想に細野と戸崎は心の中まで無言ながらも何かを思うのであった。

 一行は次に服屋に入った。店は置いてある服から匂いから音楽まで、何もかもがお洒落だった。

「私はいつもGYONIQLOでしか買わないから、こういうお洒落な店は緊張するわね。私は招かれざる客になってないかしら」

「そんなことないよ~。ただあんまり他の店の名前は出さない方がいいかも」

「呪いでマネキンにされるな」

「あんなにスタイル良くなれるの?!」

「その前に人じゃなくなってるけどね」

 偶然か意図的にか、またしても七海と戸崎、青戸と細野に分かれた。

「戸崎くんはいつもどうやって服を選んでいるの?」

「僕の母親は昔モデルをやっていたんだ。だからいつも母親に決めてもらう、っていうか決められてるんだ」

「あんまり気に入っていないの?」

「いや、そんなことはないよ。僕が選ぶより断然お洒落になるからね。ただ、外側が良くなると、中身はそれに伴っているのかと不安にはなるね」

「悪い意味でのギャップを与えてしまうんじゃないか、ってことかしら?」

「まあそういうことだね。失望させてしまうのが怖いというか」

「その人の中の真にその人である部分を見ず、ギャップなどというひと時の波の揺らめきでしかないものに惑わされてしまう人間とは、どのみちいい人間関係は築けないわよ」

「確かにそうだね。君は大人だな。

『君のそのギャップはあまりにも強力だよ』」

 細野が服を選んでいるのをただぼーっとついていく青戸は、旅行客の転がすキャリーケースのようになっていた。細野はそれを見かねて自分が持っていた服を戻し、一つの提案をした。

「そうだ! 青戸くんに似合いそうな服を一緒に見ようよ!」

「いいのか? せっかく自分の服を選んでいたのに」

「じゃああっち行こう?」

 細野が青戸の腕を半ば強引に掴んで引っ張り、男性用の服が置かれたエリアに連れて行った。青戸に、緑色の少し大きめなシャツにベージュのボトムスを当てて確認しながら言った。

「これとか似合うんじゃない? あとボトムスはこれ」

「これにそれを合わせるのか。なるほど……。君はセンスがあるな」

「ありがとう……」

 細野は服で顔を隠しながら言った。

「どうやって身に付けたんだ?」

「う~ん。服装が人に見られる一番外側だからかな~」

「それだけでそこまでのセンスを身に付けられるものなのか?」

「……見た目が良くないと、相手にしてもらえないからね。まあいくら外側を良くしても、中身なんて誰も見たりしないんだけど……」

「そうか……。だが、人の中にも人はいるものだ。いつかきっと報われるさ」

「そうだね……。ありがとう」

 細野の視界は一瞬歪み、それはまばたきによって改善された。

 四人とも、店の外で合流した。

「あら、何か買ったの?」

「ああ。努力の賜物だ」

「……なるほど。大事にするのですよ」

 七海は全てを悟った。戸崎は次の話題を切り出した。

「みんな、空腹加減はどう?」

「私は結構お腹空いたかも!」

「私もそろそろ全身から汗じゃなくてよだれが分泌され始める頃よ」

「同感だ。俺の場合はよだれじゃなくて胃酸だがな。早くフードコートへ行こう」

「君たちは病院に行った方がいいんじゃないかな?」

 フードコートは言わずもがな混雑していた。四人はなんとか座れる席を見つけ、荷物でマーキングしてから各々食べたいものを注文し、ようやく席についた。

「みんなは何を注文したのかしら?」

 細野は呼び出し用の機械を見せながら言った。

「私は石焼ビビンバ!」

 戸崎は番号が書かれたレシートを見せながら言った。

「僕はハンバーガーのセットだね」

 青戸は呼び出し用の機械を机に置いて言った。

「俺はからあげ定食だ」

「みんならしいものを買ってきたわね」

「君は何を買ってきたんだい?」

 七海は手だけを机に置いて言った。

「私はうどんだから、まだ買ってないわ。うどんはすぐ受け取れるから、みんなの頃合いを見て買いに行こうと思って」

「だから一番先に席を取ってくれたんだな。今日は学生が多いから助かったよ。気を使ったわけじゃないよな?」

 七海は将棋を指すように人差し指と中指を机に置いた。

「いいえ。みんなと一緒に食べれるし、席も取れるし、私としては一石二鳥よ」

 置いていた人差し指と中指を開いて二を表現した。七海は彼らに対して気を使うと気付いてくれる優しい人たちだと思い、嬉しくなった。

 しばらくして、ほとんど同時に青戸と細野の機械が鳴った。

「じゃあ行ってきます!」

「必ずやまたここに戻ってきます」

「君も行ってきなよ。ちょうどいい時間になるんじゃないかな?」

「いいの? 戸崎くんのももうできてる頃じゃないかしら?」

「僕は猫舌だから、少し冷めてるぐらいがいいんだ」

「そうなの? 私に気を使わなくていいのよ?」

「全然使ってないから行ってきなよ」

「そう? じゃあお言葉に甘えるわね」

 七海は財布を持って立ち上がり、うどん屋の方へ歩いて行った。

『僕は気を使うのが下手だな……』

 食事を終え、次は本屋に来た一行。一人を除いて、せっかく外に出たならば本屋に行くのは外せないメンバーが揃っていたのである。

 細野はファッション誌を持ちながら皆に問いかけた。

「私、本はあんまり読まないんだけど、みんなはどんな本読んでるの?」

「今私が読んでるのは(愛するということとは)ね。哲学者は人間として生きることに情熱を持っている人が多くて、そういう人たちが抱いている愛についての考えを知れる、とてもいい機会よ。昨今人間として生きようとする人間は珍しいから、そういう人間に触れられるのもいいところね」

 細野は、想定していたより重厚な答えが飛んできて反応に困る様子で言った。

「なる、ほど……。二人は?」

「俺は(霧と夜)だな。上辺だけの明るい言葉じゃなくて、本物の人間の光がそこにはあるぞ」

 細野は二撃目を食らったように半歩下がりながら言った。

「……そう、なんだ。戸崎くんは?」

「僕は、(アンドロイドは電気山羊の夢を見るか?)だね。この世界の本質的な姿を独特な視点で描いていて、とっても面白いよ!」

「みんな、凄いね……」

 細野はイメージの自分がノックアウトした。

 次はゲームセンターに移動した一行。またしても細野が三人に、今思いついたかのように明るく提案した。

「そうだ! みんなでレーシングゲームやろうよ!」

「私まだ免許持ってないの……」

「俺もだ」

「免許なくてもできるから安心して!」

「ここだけは違う星の領土なのね。UFOいっぱい飛んでるし」

「君たちは宇宙人みたいな思考の持ち主だね」

 四人は運転席を模したゲーム機に座った。

「最初にキャラクターの顔に当てはめる写真を撮られるから、気を付けてね!」

「これで私の身元が割れてしまうわ……」

 七海は画面に自分が映ってびっくりした瞬間に撮られたのだった。

 その後、車を選ぶ画面になった。

「車なのにグライダーまで使うのか。この星の交通課は大変そうだな」

 全員準備ができると、ステージ上に移動し、スタートのカウントダウンが始まった。ステージは、宙に浮かぶ8の字型のサーキット場であった。

「さあ、始まるよ!」

「私たちなんで後ろの方にいるの?」

「先頭にいても道案内できないだろう」

「おじいちゃんとおばあちゃんみたいだね」

 空砲が鳴り響くのと同時に一斉に走り出した。

「スタートダッシュに成功したよ!」

「細野さん速いね! 負けないぞ!」

 先頭集団が二週目に差し掛かった頃、七海は、

「たとえコースから落ちてもこの雲に乗った人が助けてくれるのね。社会が敷いたコースから転落しても拾ってくれるかしら」

「ナーバスになること言わないで!」

 先頭集団が三週目に差し掛かった頃、青戸は、

「道にバナナの皮が落ちてるぞ。運転しながらバナナを食べる余裕があるのか」

「それアイテムだから、君も使えるよ!」

 先頭集団がゴールし、そこにいた戸崎は細野に手を差し出しながら言った。

「細野さん、いい勝負だったよ。一位、おめでとう」

「こちらこそ! 好敵手がいたからこそ全力が出せたんだよ! ありがとう!」

 その頃七海と青戸は、

「全身がミサイルに突然変異したわ!」

「全身が虹色に光り始めたぞ! どんな病気だ?」

 結局なんとかゴールできた青戸と、強制終了された七海も、謎の握手を交わし、無駄に青春感を演出した。

 四人はゲームを終えると、各自取りたい景品をUFOキャッチャーで獲った後、店の前でもう一度集合した。

「みんなは何を獲ったの?」

 青戸は袋からピンク色の丸いキャラクターがナイトキャップを被って寝ているぬいぐるみを取り出して言った。

「これだ。いいだろう」

「かわいい~! いいね~」

「細野さんは何を獲ったんだ?」

 細野は袋から白いぬいぐるみを取り出した。

「じゃ~ん! かわいいでしょ!」

「唇が小さい球体二つなのがいいな」

「他の部位と比べておしりの曲線だけリアルなのもいいわね」

「でしょ! で、戸崎くんはどうだった?」

 戸崎は袋からキメラのキャラクターのぬいぐるみを取り出して皆に見せた。

「これだよ!」

「ライオンに角が生えてるの、なかなかいいわね」

「尻尾が蛇になってるじゃん! かわいい~」

「七海さんはどうだったの?」

 七海は袋から黄色の何かの幼体のようなぬいぐるみを取り出して見せつけた。

「私はこれよ!」

「かわいい~、けど、何のキャラクターなの?」

「わからないわ。何かの幼体みたいだから、どんな姿に育つか楽しみよ」

「不思議な生き物獲ったな」

「確かに」

「あなたたちに言われたくないわ」

 一階の屋台が出ている場所に来た一行。昼に出ている屋台も、人々を非日常の世界へ連れて行った。

「期間限定でお祭りをやってるのね! 何かやりましょう!」

 七海と青戸は型抜きをしていた。椅子に座って、各々爪楊枝で絵柄の描かれた、お世辞にも美味しいとは言えないプレートに穴を空け、絵柄をくり抜こうとしていた。二人とも失敗してしまったようだ。

「星が割れてしまったわ! 何かの暗示じゃなければいいんだけど……。どうしたの? あなたはどんな絵柄だったの?」

「漢字の(鬱)だ……」

「早めに割れて正解ね……」

 二人は型抜きのコーナーを後にすると、かき氷屋台の前に来ていた。

「かき氷いいわね! 私はメロンがいいわ!」

「僕はブルーハワイが良かった!」

 先にかき氷を買っていた親子が注文と異なるシロップをかけられてしまったようで、子供が少し泣きそうな声で大人たちに訴えていた。七海は店員の困った様子を見て言った。

「私がそれ貰います」

「いいんですか?」

「ちょうど欲しかった色なので」

「ありがとうございます!」

 かき氷を受け取り、二人はどこへともなく歩き始めた。

「良かったのか? レモンで」

「まあ、味は一緒だものね」

 何かしてやれることはないかと考えた青戸は、背負っていたリュックから水色の透明な下敷きを出して、かき氷にかざした。

「これでどうだろう」

「まあ! 緑色になったわ! 創意工夫ね! でも、やめておくわ。このかき氷はレモン味として存在しているもの。目の錯覚で存在を捻じ曲げるのは悪いわ」

「そうか。

『無生物の尊厳も大切にしてるんだな』」

 一方、細野と戸崎は屋台を一つずつ見て吟味していた。

「金魚すくいだって! いっぱい泳いでるよ! 可愛い~!」

「やってみる?」

「やめとくよ~。命あるものは怖いから」

「同感だ」

 金魚屋をスルーし、もう少し先まで歩いていった。

「りんご飴があるね! ザ・屋台って感じだ!」

「買っていく?」

「いや、やめとくよ。甘いの外側だけだから」

「それもそうだね~」

 二人は、もう少し先に射的の屋台があるのを見つけた。

「射的やろうか!」

「そうしよう!」

 屋台の店主にお金を払い、弾と銃を受け取った。まずは銃の横についているハンドルを引いた。

『七海ちゃんのこと、どう思ってるの?』

『えっ? どうしてそんなこと聞くんだい?』

 次に銃口に弾を込めた。

『気になってるんじゃないかと思って』

『そうだとしたら?』

 それから銃を構え、狙いを定めた。二人はそれぞれ熊と鳥のソフビの人形を狙った。

『青戸くんのこと私はどう思ってるとお考えで?』

『気になってるんじゃないかと思ってるよ』

 照準が合ったところで発射した。同時に発砲音が鳴り、それぞれ標的に着弾したが、倒れることはなかった。

『その通りだよ』

 もう一度銃の横のハンドルを引いた。

『でも好きなのかはわからない』

『私もだよ。だけど、もしそうなったとしたら私たちは呉越同舟ということにならない?』

 銃口に弾を込め、構えた。

『確かにそうだね。ただいつから君と敵対関係になってたのかはわからないけど』

『同族嫌悪ってことかな~。君とは似た者同士な感じがするんだよ。まあとにかく、そういうことだから、よろしくね』

 発砲音が鳴り響いた。

「えっ?」

 発射する前に標的が倒れたことに二人は驚いた。二人とも、とっさに逆隣を見ると、

「えっ?」

 七海と青戸が発射した状態の銃を構えてポカンとした表情で立っていた。

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