追跡Ⅲ
「もう十分だ」
そう言うと叉三郎は翻し屋上の非常口から家中に戻ると一度振り返っては鼻を鳴らし、場を去る、歩を止める動機もヒトも居なかった。彼の背には夜空から運ばれる空気と山を覆い隠す根が蔓延った樹林の集団が蝉の鳴き声宜しく吠えていた。
「彼女の事を見ていると」
彼はそう呟きながら歩き出す、人口塗料で構築されたジャングルの中を羽織ったコートが闊歩する。出歩いている人も多い中で通りを右に曲がり更に通りを左に曲がった。地図を持って居るヒトが多かった。カップルが多かった。
(入り組んだ場所)
「ここか」
彼が通りから彼の彼女の事を離すと彼の中から通りに向かい通り名にしてもらう事が考えられた十字路はいまだに名称が変わって居ない、落書きからシャッター街の通りに向かうと彼の後ろを付け狙って来る二人の男の始末に負えない高笑いが鏡越しに見えた。
「はあ」
その時である、敬愛するべき彼が近づいて来たため私も紳士として振り向かなければならなかった、私は彼に話を聞いていると男性が鞭や棍棒を持って居た。そればかりか私を楽しませてくれる用意をした嬉しさから来る狡猾な表情に心が躍る。
「どうしてこんな事に成っているのかわるかい」
彼は氷像をそのままに常に私を掴んで離さない抑揚の付け方はプロフェッショナルと言わざるおえない、これに関しては負けたよ。
「ああ勿論」
私は頷いて答えた彼は顎を上げると何か言いたげか体に伝わる、「金目の物を出せと」言いたのだろうがそれは出来ないな。
「私も代金を支払わなければならないからな」
財布を取り出すと床に置いた、彼の眉を吊り上げた表情に目を潰してやったがそれでも彼は手を止めなかった。私の首を掴むと締め上げようと苦悶の表情を晒すが彼の手に当てられた陶磁器のネックレスが役に立った。右手が自分の首に当たった時に左手を回し半回転すると吊り上がるため軸足を払い床に伏せた。古王の姿勢に成ると彼の関節目掛けて足蹴りをする、太いから関節を外せるか心配であるが、杞憂に終わり右手から悲鳴がする。
「じゃあね」
左手のナイフを取り出すと彼がすり抜けた後もコート掴んだ。叉三郎もコートをカーテンにし、ナイフを取り出す。三人分かもう少し下がると利き手を下げて左手の足で助走をつけた。引くときに彼が見たものは頭上に来るナイフが自身の脳に深く刺さった瞬間だ。
「そいえば」
彼は指を顎に当てて夜空を見ていた、彼が鼻から入れるカテーテルを抜く前か後に春野へキャンディーを上げていたが彼女は貰う権利を拒否した。「もう今の女の子はキャンディーに興味が無いのか」私は肩を落とした。
「さあ、もう一人は厄介だった。バイバイ」
彼はそう言い立ち去ると彼の事も私の事も話して居るとそのコートを取り羽織る。街から出る際に飛び出すのは右側の方だ。誰かが寝ていたり誰かが吐いていたりする場所だ。遠方から腰の曲がった爺さんが歩いて来る。「大丈夫ですか」と聞くと「大丈夫だよ」と言うがその布切れは冬場であるに関わらず歯切れが良いと思ったが中に精密な機械工作なされておりその歯は若者さながらの口調である。その老人もその場で意識を失う、ため息交じりに交番へ届けてやった。
勿論、マルコフの居る本庁に、私は彼の小さなカシミアのセーターから通りすがりのおじいさんがこちらを見ているのが分かった。
(上述する行為は叉三郎の正当防衛になった)
「マルコフ」
彼がつきっきりで看病する彼は正真正銘にまっとうな人間であるのだが手足を縛りその向きを後方にする程度に警戒をするべき人物だ。しかし、一回は彼の同意を得てだが真っ裸にし、彼の服や体と臓器を改めてからでは無いと独房まがいの簡素な部屋に入れて貰える事すらできなかった。
が、彼が善人か不明にしろ危害を加えたい人間で無い事が分かると衣食住のみならずシャワーと嗜好品の提供がなされるのである。
叉三郎もまた物憂げなく天井を見上げてはマルコフが座って居る椅子程に質の良い椅子に座っていた、言わゆる上座に、希之男と治と春野と夢野とマルコフ、叉三郎の写真と広げると腰に巻き付けた拳銃を絵画の下の机に置いた。
「いいのか」
マルコフが片目に聞いた。
「ああ、君を信頼しているからね」
彼はそれだけを言い出されたココアを飲み干した。マルコフがその置いた拳銃を改めると銃弾が抜かれており弾倉の横に並べられていた。
彼もいつもであればその窓辺の陽気を確認して通りから市民の平和を見守るのであるが何分大層な事件の後である事と街の性質上どうしても窓と言うモノを重要な部屋に置くことは適わなかった様だ。
「そう言う事じゃなくて、自分の身を護れと言って居るのだ」
叉三郎はついに話の意図を読み取ると彼の言葉に何回も頷いた。治から見れば読解力そのことは優れているというのであるが彼が「拳銃を打つ練習より先か」と言うと彼は「ああ」と言ってやった。
「僕はね別に事件が解決できればいいのだ」
紙幣の表紙を開いた三枚に折られた前は大きく千と書かれた薄紙のデザインだ。旧札はより重みがあったと感じたのである。叉三郎はお金を財布に仕舞うと指で鍵の円を回し鍵もポケットに仕舞った。
「君が持ち物を持ってくれれば百人力だ」
彼はそうでなければならないと手を揉むが口から卑しい空気の色が見えた。そうすると所定の位置に座る、酒を飲みながら話したいところであるが自体が自体だけ自重し動いた様だ。
「希之男は釈放したのかい」
履けると口を話して居ると感じた。それだけにまだ口ごもる言葉を聞かずにいられなかった。足が高く跳ね上がると言ったそばから目が泳ぎ出し、口から通りを見ていた。
彼がそう言う。
「まだだ、発布と・・謝罪が先だ」
「君が言う」それに連れられて「君から反則をしなければな」と告白して来る。マルコフの「何故」と言う事を自体が分からないが彼が話をしていると男性が告発していた。
「どうして君はそうなんだ、何時も言っているだろ、事実あっての論理だと」
「どうしようもなかった」と連呼するが後に「時間に遅れたことは謝るがガソリンを無駄遣いしたわけではない」と言うマルコフの言葉に面を食らってしまった。
「そうだな」
叉三郎は口酸っぱく言うが、彼は笑っていた。彼が首猫をその言葉に話して居ると男性は握りこぶしを作っていた。
「で、どうするんだ叉三郎さんよ、実際問題本当に逃げられちまうかもしれない、もしかしたら本当に海外に逃亡しているかもしれない、僕はそんなこと言ってないよ」
彼は机を手で叩くとその衝撃が階下まで響いた。居た彼の初老の悲鳴が聞こえる「・・・後で謝っとこう」彼は大きく咳ばらいをする。
「君はどう頑張っても僕を悪者にしたい様だな!?のみならず君の童顔には僕から考えだけを抜き取ろうと言う狡猾さも見て取れる。よし!君とは金輪際口を聞きたくないが事件のあらましだけは言っておこう、彼の為にね!」
彼はそうすると一枚のメモ用紙を取り出した彼の事を離して居ると湯豆腐と食べながら彼が見ている事を聞いていた。女性が一人と男性が数人の人間の簡単な図形が書かれてあった。私は男性の側に治と叉三郎と書かれていた。
「これは自分が独自で調べた証拠だがね、その証拠が依頼人の証言を決定づける証拠になる。希之男は二階に行ってない新居するまでは聖域に入ら居ないと決め実行していたためである。そのためここに入った住民の浅智恵で付けたトリックだ。その十人とは彼の甥であり依頼人で有りムーア銀行に預金を降ろしていた張本人である」
彼はそう言い預金通帳をその場にばら撒いた。彼がぎょっとしてそれを見ると確かにムーア支店と書かれていた。「おい」と言うと部屋を叉三郎が鍵を開けた。三人の屈強な警官が扉を開けた入室して来たのだ。
「とりあえずは信じてくれたかな」
彼は聞いた、「それでどうしてこのようなことを」。マルコフはその解を瞬間が終わるまで待ち続けていた。マルコフはその場を乗り切ろうとする叉三郎の答えを塞いでいると見た。私はそれだけにじれったくもあるが満足気な彼の言葉に身体が浮き上がっていた。
「ええ」
その言葉にマルコフは頷くと叉三郎の前に出るが、叉三郎は彼の話を三回頷くと横を通った。「おい」、「おい」、「おい!」と聴こえるが彼の耳は耳栓をしているため聞こえないのだろう、五月蠅い横蠅が通り過ぎる素振りだ。
「この屋敷の主人の事について聞きたいのですが宜しいでしょうか」
そうすると向いの主人の家を出した。彼女は目を上ずりに上げると男性は眉を吊り上げて二、三回頷く、彼女はその箒を策に置いた。
「頼むからもう君の声はうんざりだ。君もそうやって警官を従えていればいいさ、もう一度お灸をすえるため言っておくが論理があり事実があるのではない、事実あっての論理だ。いいな!」
そう言うと彼はその場を立ち去る。硝煙の残る部屋の片隅には打ち抜かれた絵画の像があった。何事かと警官が駆けつけると反対側にはピストルを向けた反動で肩が上がっているマルコフの姿があった。
「頼むからそっとしてくれ」
それは獰猛な獣が目先の標的を忘れ、萎びられている表情だ、頭に血が昇る事により超自然的回転力を得て砲弾が丁度心臓の辺りを狙っていた。
入った警官もその狂気に飲まれ敬礼を忘れて退出した。
「どうしたんだい、叉三郎」
彼が煙草を吹かしながら彼の右手を治療していた医者であるからして医療器具を持って居たのだろう、その問題に手ずから取り組んでいた。私のみならず彼女も聞いたことない弱弱しい声色で有った。
「説教したのは初めてだ」
彼がそう、治療用の煙草を吹かしていると彼の通りから小さな指を二つ伸ばしピースサインをした。「あれは」と言うと治は「なんだい」と言う。しかし、一度浮足立つと彼は消え入る様にその言葉に首を振った。「いや、蟹座だったよ」彼は聞いた。
うとうとしてくるかもしれない頭の中のエネルギーが蓋を開けてみれば底をついていた気分だ。もうそろそろ興奮した頭も心根を受け入れ始める頃合いだろう、彼から見れば来ては去る感情の一つだ。行き交う際に睡魔の蚕を頭に生みつけて帰るのである。遠くの星々に願いを馳せると彼から聴こえた通りの雑貨な音ですら癒しを与えてくれた。
★
「マルコフと何を話して居たんだい」
彼が聴くとその言葉に詰まりそうになった。握り締めた拳が拳銃の型に成って行った。「僕からしてみたら」と続けると「その考えの通り雨と同じ様だ」と言った。二人とも首を傾げていたが、笑って迎え入れてくれた。「案外」と続けると「僕とマルコフはニカ考えを持って居るのかもしれない」と言い放った。
「僕はね実を言うと、人を殺したことがある」
彼は言うと首を傾けながらその声色を変えた。
「そうかい」
彼はそう言うと一旦はその湯の波も止まった。しかし、 治療する腕は彼からして見れば機械程精密な動きをしていたが、声色は微動だにしていなかった。
「でも・・・」
「初めてだな」
彼が聴くと彼女も笑っていた。すると、彼も笑っていた。
「何が」
それに連れられて彼も笑う。
「聴いても無い事を離すの♪」
彼が言うとその手を湯の中から上げた。「治療は終了ですよ」と言うと叉三郎はその手を引いた。彼にもタオルを渡すと「まだ話は終わって居ないのだが」と続けるが、「もういい」と言うと切り上げた。のみならず治は「なぁ~」と言うと春野も「ねぇ~」と言った。
「そうかい」
彼は何も言えなくなったため彼女らの言葉を遮り、彼の与太話を切った。首を縦に振りその言葉を否定すると「まだ割らないのか」と言いたげだ。のみならず表情が強張るどころか夜風が包むブルーカーテンは彼の事を包んでいた。
しかし、どんなに興奮しようとも繭が蚕になる道程は防げなかった。




