夢の叉三郎
迷路の玄関を潜り使い回しの溜まった蝋も拭いていない蝋燭の火がくべられたとってを持ちながら入り組んだ某地下壕の迷路を痛打な反響音のみ頼りにしながらも彷徨っている始末だ。
頬こけた黒い炭の肌に当て垂れている紅の色は私が寝るより婦人の帰りを待つ夫の悲痛な叫びから塗られているモノである。
四日間の睡眠5つ日間の健康的な食事をいて運動してもなお老けに対しマイナスの印象を持たない事は彼の生命力に起因するのである。しかしそれを差し引いたとしても友人として医者の誇りに掛けて彼の生命を護る義務があると感じた。
頬がこけており右にほうれい線が出来ている様だ。更には彼と私では一歳程度の差であるはずが半分も離れている様に感じられると言われる。頬が貼っており一歳程度の差であるはずが半分に離れている様に感じられると言われるのは悔しい限りである。私の顔はこのところ彼の捜査に付き合わされて老ける有様だ。
彼は私の好意を嘲笑う、しかし私は照らされる輝きが消えるまで一心に本へかじりついていた事は褒めてくれた。彼が私の声に好悪し言葉を返さない事は無かった。蝋燭に照らされた緋色の影であった、この影は叉三郎を映し出した影であろうか。
「来てくれましたか、治様」
彼は席を立つと叉三郎の所在である某地下壕の入り組んだ迷宮だ。探検家の成果として、ホープスマンに会う事になった。鈍感な痛みが鞭の音に乗り鉄筋格子の内から外に漏れている。私からして見ればどうでも良い事が彼にとってはどうでも良く無い事である事は、珍しい事ではないのだ。
「こんにちわマクファーレンさんこんな時間に」
先に白い白衣を着た男性が一人手を振り引いて声を当てる。自身の黒いポンチョに掛かった煤を取り払うと咳払いをした。対象の細部や微細な変化までしっかりと観察し、各々の特徴を理解しようとした、手ずから目を凝らした。
「いえ、とんでもございません、やはりご主人様の御機嫌取りですかな」
反り返ると後方の宵闇に誰も居ないことを知ると「まあ、安定した収入があると言うのも心にゆとりを持たせますよ」と私は身体を仰け反りながら答えた。のみならず彼の肩に手を置くと懐に金貨を数枚入れた。また、彼は赤いトマトの表情をすると指を伸ばし手を斜めに構えた。
「あそこには例の・・・」
「やはりか」溜息をもらすと施錠された鉄の門の奥に居る彼と死臭の臭いが目に映る。マクファーレンはその方向を見つめ、理解を示すように促した。何か重要なことが隠されているのかもしれないという思いが彼の心に浮かび、詳しくその場所を確認したいと、立ち止まるが上を見上げると更に歩き始めた。
「叉三郎」
彼は私が呼び留めると革制の鞭を当てるのを止めた。彼の額は黒塗りの潤滑油に油を指したしつこさがあった。深呼吸をすると達磨の型の湯呑の隣に厚手の手袋を置いた。彼が座ると私は越して実験台と成り果てた死体を目にしていたいという欲求が高まった。
「これわまた酷い」
顔が損傷していた死体であるが叉三郎の手が加えられ骨から髄が見られるまで加工されていた。中身は垂れていないのだから不思議である。タバコを加えると彼は「治」と言うため振り返ると手でライターの歯を回し降ろす動作をしていた。
「ありがとう」
私たちはその実験台となった遺族の遺品の前で煙草を吸い、吐いてはマクファーレンも聴こえているのに笑い合っていた。
「最近はナイロンやポリエステルでつくられた鞭が多いが、革が一番しっくり来る」
握りこぶしをつくり皮が千切れた手を見つめて居た。熱い朱色の熱を近づけるとこっちを見た。台に乗せられているモノより手に持って居た水筒の中の水を飲む事が優先だ。
「いつここを出る」
揺れた後神のヒカリを照らした先にマクファーレンは治の肩を叩いた。肥満体型の身体は叉三郎の視界を遮るのに充分であった。治は指を指すとマクファーレンは頷いた。
「叉三郎、治様」
治に感謝して席を立つ、顔が近づくにつれ程に髪の毛が蝋燭の火に当たりそうになり、不安だ。しかし、ベルが鳴る、唸って居ても埒があかなかったので丁度良かった。垂れ下がった唇はくたびれており昨日の成果に比べると、言う事も言えなかった。
「どうしたんだいマクファーレン」
彼は、険しい氷山の顔つきになったため私もしかめっ面で対応するよりマクファーレンは奥に立てかけられた篝火に興味が有る様にも見えた。
「お時間です」
話さなくても分かると私を手で跳ねのけた。その湯気の立つお茶の香りも私の心を一瞬捉えたが、今は別れの言葉を丁寧に告げなければならないと思ったからだ。ホープスマンは彼の鼻先にまで持って来ると傾け口に入れていた、甘酸っぱい香りが甘味のみならず全体が痺れた。
「分かったよマクファーレン。そんなに怒らないで」
マクファーレンが叉三郎の鼻先まで近づく、両者の口が触れるまで寄り合うが空気は歪んで見えた。自由を奪うより治が出る方がさきである。
「早く帰りなさい、元々あなたはここに居てはいけいから」
私が彼女の言葉を聞いていると叉三郎は下唇を手に当ててその言葉に唸って返した。私たちはまた迷路の入り口を目指すハメになった。しかし今回はマクファーレンが居たため迷わずに脱出することが可能だ。
治は帽子の鍔を軽く下げると外套が照らす宵闇中へ消えて行った。ガス灯のヒカリが彼の茶色の帽子を明滅させていた。
叉三郎の時折り首を振ると焙煎した土気色の臭いが石橋の隙間に、充満した。
灰色の空にはオリーブ色の虹がかかっており、一歩進むごとに闇を引き裂く鮮やかな色が蠢く、靡かせたドレスが土に垂れると吐いた息も味も山水の味がした。
「彼は自分が勝てると想う相手にしか親切にしないんだ」
ガスの充満する町の中を歩きながらその彼から貰った羊羹を口に入れて帰る私はもう一つ羊羹を渡すと口に運ぶ。