3月7日火曜日 1
「へっくしょん……寒い」
そんな声がこぼれたのは、朝の5時半ぐらいに茶色の毛をしたゴールデンレトリバーのこはくと散歩していたときだった。
「ワンッ」とこはくが大きな声で鳴き僕の足元に寄ってきた。
「…ありがとうやっぱりお前は賢いな」
「ワンッ!」とまたこはくが鳴き僕の少しの前に行き、こちらに向いて座った、あれはナデナデしてほしいときによくするポーズだった。
「よしよし、お前は可愛くていい子だぞー」と言いながら綺麗な茶色の毛を撫でてあげる。
朝のこんな早い時間に起こされるのはいつもこはくが僕のベッドに乗っかって足でお腹の辺りをふみふみしてくれるおかげで、誰もいない家の中でも少し幸せに起きられているし登校時間ギリギリでご飯を急いで食べるハメにならずにいられたし、一人にならずにいる。
瞬間少し強い風が吹いた。
こっから家までは広い一本道を行きT字路を左に曲がれば家だ、よし。
「こはく、ここから家までどっちが早く帰れるか競争だ!」
「ワンッ!」と先ほどよりも力強い返事が帰ってきた。
「よし行くぞ、よーいドン」
しかし人間が走っている犬より早く走れるわけもなく、こはくは先に行ってしまう。
こはくがT字路を左に曲がった瞬間「ドンッ」と大きな音が聞こえその後にトラックが通り過ぎていった。
嫌な予感がし走るスピードを上げ、T字路にさしかかろうとした時。
茶色い何かが、家の裏にふっ飛ばされていた。