過去の時代に行きました。
ザザン、、、ザザン、、、ザザン。
ザザン、、、ザザン、、、ザザン、、、。
音がずっと聞こえていた。
潮騒だろうか。しかしそれよりもリズムが速い。
明らかに雑音なのに、妙に心地好く聞こえた。
まるで音に包まれているような。
ニーノは、その音に身を任せていた。
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「早くここから出ていけ」
男の怒鳴り声で、ニーノは目を覚ました。
遠くには見たこともない、様々な物体が飛び回っている。あれは『機械』というのだろう。
古代文明時代の遺物で見たようなものばかりだ。
ニーノは確かに、はるか遠い過去に来てしまったのだと理解した。
そしてニーノの目の前には、異常に大きな木がそびえ立っている。大きさは縦だけでなく横にも長い。
この木の下なら、何十人、いや下手したら百人単位で雨宿りができるだろう。
怒鳴り声は、その木の太過ぎる幹の向こう側から聞こえているようだ。
「ニーノさん。大丈夫でしたか?」
後ろから聞こえる心配そうなルカの声に、ニーノは振り返る。
「ルカ様」
右足が折れているはずなのに、しっかり歩いているルカの足にニーノは目を向けた。
その視線に気付いて、ルカは微笑む。
「今、どうやら私達は精神体のようですから、足も問題ないみたいです。むしろ精神体なのに、動くのに歩く必要があることが不思議ですよ」
ボロボロになっていたはずのルカの白い隊服も、元に戻っていた。何をどうしたらルカも引き連れて時空を移動し、精神体だというのに五体満足で過去を動けるようにすることができるのだろう。
マイリントア。ダンジョン出身の魔物だと言っていたけれど、あまりに得体が知れない。
ただ信用に足るリーネの従魔であり、関わると口は悪いが性根が悪い生き物ではないと知る。紫と黄色という見た目こそ奇妙だが、その手のひらサイズの小さい身体は母性本能をくすぐってくるのか、心底嫌悪することはできなかった。むしろ何かを恵みたくなってしまう。
そんな生き物に、あんな『人の能力を使える』という特技があったとは。
不思議で仕方ない。
「俺の言うことも聞いてくれないか」
また怒鳴り声が響いて、ニーノとルカはその声の方に目を向けた。
怒鳴ったのは、さっきと違う声だった。
木の陰から覗くと、二人の男が言い合いをしている。
一人は細いが背が高く、濃いめの栗毛色を短く揃えている。皺が目立つので、そこそこ歳はいっているだろう。
もう一人は黒髪だった。
栗毛の男よりは若く見えるが、40前後だろう。太めの眉が意思の強さを表しているようだった。
「ここから逃げなければ、あんたが危ないとわかっているのか」
黒髪の男が諭すように栗毛の男に言う。栗毛の男は肩をすくめた。
「わかっているからこそ俺はここにいるんだ。お前は皆を引き連れて早く国外に行け。イザベラが巻き込まれたらどうするつもりだ」
「そのイザベラが、あんたがいないと逃げてくれないんだ」
聞いて、栗毛の男は黙る。
自分が手に持っていた金属を、じっと見つめる。
「、、、イザベラは、俺の娘にしては、良い娘に育った。自分勝手かもしれんが、あいつだけは生き残って欲しい。気を失う薬でも何でも使って、どうにか連れ出してくれ。俺の『最期』の頼みだ、ヒューゴ」
栗毛の男は、自分の手に持っていた金属の形を変えてヒューゴと呼ばれた黒髪の男に渡した。
「鍵だ。いつの日にか、世の中が落ち着いて戻って来た時に開けて欲しい。錬金術師にしか開けられない鍵だと、、、そう伝えてくれ。あの子なら、その意味をわかってくれるだろう」
ヒューゴは鍵の形になった金属を受け取り、険しい顔で強く、その鍵を握りしめた。
「、、、、あんた、、、本当にそれでいいのか」
「、、、、イザベラを頼む」
そして栗毛の男は、ヒューゴから離れていった。
ヒューゴは一瞬、泣きそうな顔をして眉間に皺を寄せると、栗毛の男の向かう方とは反対方向に走り出した。
ルカはヒューゴの背中を視線で追いかけながら、ニーノに問う。
「行ってしまいますが、どちらかの男を追いますか?」
「あの人を追うわ」
ニーノは、迷わず栗毛の男を指差した。
「あの人。何かをするつもりよ」
空は曇っているが、夜ではない。太陽は頭上にあるのに、ニーノとルカの足元に影がなかった。
精神体というからには、身体があるように見えて、実体ではないのだろう。他の人ともすれ違ったが、誰にもニーノ達の姿は見えていないようだった。
ニーノとルカは、栗毛の男のあとをついていった。
時代は、古代文明の最盛期のようだった。
機械が人の数より多く、道路を渡るのも機械ばかりだった。機械と粘土の塊のようなものがあちこちにあって、それらが絶妙な関係性をもって自由自在に動いている。みる限り、人がするべきことを、殆ど機械がしていた。
栗毛の男のあとを追いながら、ニーノは感嘆する。
「すごいわね」
「本当に。ここまでとは思っていませんでした」
きらびやかさはない。だが、どういう仕組みかはわからない機械が空を勝手に飛んで畑に水をやったり、家畜を育てたりしている。
小さな虫のような機械があちこち飛び回り、違反している人に雷魔法のようなものを放ったりしている。生活の補助だけでなく、機械が警備までやっているようだった。
「人の働く姿が見当たらないわね」
「本当ですね。建物の中で働いているんでしょうか」
道のりの途中であちこち目移りしながら、二人は男のあとを追っていった。
栗毛の男は、その通りの角にある建物に入っていく。
ニーノとルカは視線を合わせて頷き、そのままその栗毛の男についていった。
建物の中に入ると、中は四方に機械で埋め尽くされていた。家というよりは、研究室や実験室というイメージだった。
「、、、すごいわ。こんな、、、、信じられない」
ニーノは呟く。
あちこちで赤や黄色、青や緑と、色のついた光がホタルのように点滅している。機械が機械を動かし、その空間の中は栗毛の男以外に誰もいないのに、勝手に機械が制御されていた。
機械は数多く動いているのに音はなく、静寂がその空間に広がっていた。
「こんな広いところで一人だなんて、なんだか淋しいですね」
「そうね。ごちゃついているのにね」
ルカは機械の一つに近寄り、そこに書いてあるものを読む。
「ここは何をする部屋なんでしょうか。地図のようなものが表示されていますけど」
「地図?」
「ええ。いくつかしかわかりませんが、知っている地方が何ヵ所か」
「発電所か何かかしら。その場所に電力を供給しているとか」
「なるほど、可能性はありますね」
ルカは興味深そうにそこにある機械達を眺め続ける。
いずれ古代遺跡の遺物となる機械達だ。機械は全て、あの特殊な金属でできている。
あの金属にエネルギーは必要ないらしい。その金属自体にエネルギーを作る力を持っていて、あの金属で作られたものは自らの力で永久的に動き続ける。
そういう風に、古代文明についての伝記に書かれていた。
錬金術師に作られた機械は、錬金術師でないと動かせない。なので、錬金術師がいなければ、ただの特殊な金属の塊でしかないのだけれど。
ルカは機械から発動している光を指差す。
「伝記によると、錬金術で造った機械は、基本は生活の補助であるものが多いらしいですよ。リンドウ帝国は魔力やコアの力でエネルギーを供給しているようですが、オルトルーヤ国はそもそも保持している魔力が低いですからね。コアだけではどうしようもないので、風力や火力、水力などで電力を補っているのです。あの機械のように、永久的なエネルギーが得られるとしたら、色々と安定して、もっと便利になるでしょうけど」
ふ、とニーノは鼻を鳴らす。
「便利って言葉、私はあんまり好きじゃないわ。なんか、しなきゃいけないことをサボっているみたい」
「便利になれば、その分、他のことに手を回せるでしょう?便利が別に悪いことではないと思いますよ」
「そんなこといって、結局はしなきゃいけないことを後回しにして、娯楽に走るじゃない。うちの店にくる冒険者達なんて、ギルドの依頼を受ける以外では遊んでばっかり。ろくなことしないわ」
「、、、まぁ、そういう人も、いますけどね」
否定もできず、ルカは苦笑する。
「私はよくわからない力に頼るより、ちゃんと自分の力で生きていきたいわ。自分の力で水を汲んで、汚れた服を手で洗って。自分で食べ物を採って、自分で料理したい」
「それは何故?」
ルカは問う。
便利が悪いことではないとルカは思っている。歩くより、間違いなく馬に乗ったり馬車を走らせたりする方が疲れないし速い。
手で殴るより、剣を使った方が効率が良い。
何故、と聞かれるとニーノも首を傾げる。
そちらの方がいいと思っていただけなので、ニーノもよく考えたことはなかった。
何故なのか改めて考えて、出た答えがこれだった。
「生きてる感じがするから、、、かしら?何かよくわからないものにも頼りたくないというのもあるけど、なんかね。自分でした方が色々と納得できるのよね、きっと」
あぁ、とルカは手を打ち合わせる。
「ニーノさんは何でも自分でするから、何でもできるんですね!なるほど、ニーノさんのスキルの高さはそこから来ていたんですか」
ようやくわかった、と破顔するルカを、ニーノは「何それ」と苦笑したあとに、少し照れるように目を細めた。
「、、、それで?いつまで呑気に話しておくつもりだ?君達は」
低い、少し怒りを含んだ男の声に、ニーノ達は跳ね上がりそうになる。
今は精神体だ。男には見えていないはずなのに、栗毛の男はニーノ達にはっきりと視線を合わせている。
「俺が見えないとでも思っているのだろうが」
こちらを向いた、その栗毛の男の瞳の色に、ニーノとルカは更に驚きを隠せず目を見張った。
男の瞳はニーノと同じ、深く鮮やかな緑色だった。
「錬金術を使った力は、錬金術師には見破れるんだ」
ニーノの瞳の色を理解したのだろう。男は何かを考えた後、口を歪めた。
「まぁいい、君達の話の内容から、俺の邪魔をするつもりでないことはわかった。生身の身体なら早く逃げろというところだが、違うならそれを言う必要もない」
男はニーノ達から目を離して、透明な板のようなものの前に向かう。その透明な板には、男がボードにピアノを弾くようにするだけで、文字が浮かび上がる。
たった数分で、その板が数字とオルトルーヤ国語で一杯になると、近くの何かのスイッチを起動し、また透明に戻った板に文字を書き込む。それを繰り返して、男はようやく一息ついた。
「、、、、今のこの世界に、錬金術師は二人しかいない。そして過去にいた錬金術師はたった一人だけだ。いや、、、もう一人いたのか。そればかりは俺の知るところではないが。、、、君が、いつの時代の錬金術師か知らないが、未来から来たのだろう? 未来にこのサカマカタ国は、ちゃんと滅びているだろうか」
「サカマカタ国、、、?」
今、ここの国はオルトルーヤ国ではないというのか。
ニーノは首を傾げてルカを見上げる。
ルカは言っていいものか考えたが、覚悟を決めて頷いた。
「600年前、ここがサカマカタ国だったという歴史は残っています。そこからヒューゴ・ネリスラが建国し、初代国王として君臨されたのだと」
聞いて、男は僅かに口の両端を上げる。
「600年、、、、そうか」
少しだけ、栗毛の男の瞳に滲むものが見えた気がした。男がニーノ達の方をしっかりと振り返った時には、もうその光は消えていた。
ガタリと音を立てて、男は椅子をテーブルの下から引き出し、その椅子に座った。
「少しだけ、、、昔話をしようか」
栗毛の男はニーノ達の返事を聞くこともなく、ゆっくりと話をし始めた。
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昔々。サカマカタ国に裕福な男が一人いた。その男の名前はアドルファス。彼は、常に何かに渇望していた。何においても満足することがなかった。
彼は、当時、悪の神を崇拝する宗教の使徒である魔女の一人と懇意にしていた。
「どうしたら、この溢れ出る欲望は落ち着くだろうか」
アドルファスが問うと魔女は言った。
「それを落ち着かせる必要があるのかしら。むしろ、その欲を叶えてあげればいい」
「どういうことだ?」
「私がその方法を教えてあげましょう」
なぜアドルファスがその魔女と仲が良かったかというと、その魔女はとても知識が豊富で、男が疑問に思うことの殆どを、アドルファスが納得できる形で答えてくれるからだった。
アドルファスは地位もあり、容姿にも優れ、仕事の能力もあり、様々なことに優秀であったが、たった一つ欠点があるとすれば、善悪に頓着がないことだった。
その魔女の本質が悪だと知りつつ、魔女の話を聞いた。
教えられたその方法は、とても人道的といえるものではなかった。
その一部に、様々な生物の血を用いた。そのために数多くの命を奪った。その中には人間もいた。
想像を絶する数が必要だった。
禁忌とされる薬剤も使用した。人の身体や、溶けるはずのないものまでが激しく溶ける液体を、魔女が言う割合で混ぜて使用した。
魔女は、アドルファスが裕福であることにつけこんで、普通の人には手が届かないような金属を揃えさせた。
それらを魔女が準備をした小瓶の中に入れて混ぜた。火にくべて14日間煮込み続ける。そして火を止めて280日、人肌程度の熱で温めて毎日混ぜ続ける。
すると、その中に鮮やかな緑の玉ができた。
その玉は不思議なもので、人の言葉を話すことができた。感情があり、泣いたり笑ったりと喜怒哀楽を表現した。
魔女は、その物体を『ホムンクルス』と呼んだ。
そして魔女は、その緑の玉を7年間育てるようにアドルファスに言った。多忙のアドルファスは流石にそれを断ったが、『ホムンクルス』自体がアドルファスにくっついてきたので、結局、育てることになった。
『ホムンクルス』は、少しずつ知識を身につけていった。いつの間にか手が生まれ、足が生まれ、顔ができた。髪が生え、アドルファスは『ホムンクルス』のために小さな服を作った。
『ホムンクルス』は愛らしい少女の姿になった。
はじめは嫌々暮らしていたアドルファスも、いつの日にか、『ホムンクルス』との生活が楽しくなってきていた。身体は指のように小さいが、その少女に知識を与えるのが楽しく、成長が嬉しかった。
7年経った時、ようやくアドルファスは理解した。
『ホムンクルス』と一緒にいることが幸せになっている自分に気付いた。意味もなく何かに渇望している自分がいなくなっていた。
魔女の言っていたのはこれのことだったのかと。
魔女の言うことを信じて良かったと。
アドルファスは魔女に感謝した。
魔女と久しく会っていなかったが、約束の七年が経ったので、『ホムンクルス』を連れてアドルファスは魔女のところに会いに行った。
魔女は『ホムンクルス』をみて早々、呟いた。
「良い具合に育ったな」
アドルファスは魔女にお礼を言った。教えてくれた『ホムンクルス』のおかげで、今、幸せに暮らせていると。
すると、魔女は高らかに笑った。
「何を勘違いしているの」
魔女は『ホムンクルス』を指差した。
「ソレは7年しか生きることはできないのです。それは花のようなもので、ソレが死ぬ間際に、生まれた時のような玉になります。それこそが、あなたの求めていたもの。それを食べなさい。そうすればあなたは、何でも望みを叶えることができる身体になれるでしょう」
アドルファスは戸惑った。
幸せをくれていた『ホムンクルス』の少女の命は7年しかないと言われても。もうすでに7年経っている。
食べろと言われても、ずっと7年一緒に暮らしてきた少女。それが形を変えようと、それは『ホムンクルス』に変わりはない。
だけど。
『ホムンクルス』は魔女の言う通り、緑の玉になった。
アドルファスは泣いた。
生まれて初めての涙だった。
そして、アドルファスはその緑の玉を食べた。
泣きながら食べた。
なぜなら『ホムンクルス』自身が、死ぬ間際にそれを食べるようにアドルファスに言ったからだ。
「私を食べることで、愛する貴方に力が授かるわ。貴方の血を受け継ぐ人にも、その血は受け継がれる。いつの日か、私は貴方の血を持つ人間に生まれ変わるのよ。、、、だから悲しまないで」
緑色の玉を食べたアドルファスは、そうして『錬金術師』になった。
『ホムンクルス』を食べた時から、目が緑色になった。
そしてアドルファスが望んだことは殆ど思うような形になった。
アドルファスは、まず『不老不死』の薬を作って自分で飲んだ。いつの日かまた『ホムンクルス』に会うために、長生きする必要があった。
アドルファスは、『ホムンクルス』が生まれ変わった時に、彼女が過ごしやすいような街造りを行った。誰にも脅かされることのない平和な都市になるように、頑丈な基地と兵器を造った。
誰しもがホムンクルスを愛してくれるよう、すべての人が笑顔で過ごせるよう、ここを楽しい場所にしたいと思った。そのために娯楽施設も沢山作った。
『ホムンクルス』に美味しいものを食べさせてやりたいと、世界中から美味しいものを取り寄せて、その土地でも育成できるように改良した。
不老不死になっていたアドルファスには、余るほどの時間があった。知識もあった。材料は自分で造ることができる。
元々裕福だったアドルファスは、更に力をつけ、お金を貯め、とうとう国一番の富豪になった。強者になった。
アドルファスに怖いものは何もなかった。
だがアドルファスには、どうしても子供ができなかった。何十年、何百年と経っても子供ができない。
都市は広大になり、都市は機械で満ち溢れた。
やがてアドルファスは王となり、永遠に繁栄すると誰も疑わないほどの豊かな国になった。
しかし、年数を重ねるにつれ、アドルファスには不満が募っていった。
なぜ子供ができない。
他のものなら何でも作れるのに、子供だけがどうしても作れない。
子供ができなければ『ホムンクルス』に会えない。
また会いたい。
戻りたい。一番幸せだったあの頃のように。
アドルファスは、あの場所に行ってみた。
魔女が住んでいた、あの場所に。
すると、魔女はまだ生きていた。
魔女もまた『不老不死』の薬を作って飲んでいたのかもしれない。
「久しぶりですね。何百年ぶりかしら」
アドルファスは、挨拶もほどほどに、自分の用件を伝えた。
「子供が欲しい。どうしたら子供が出来るのか」
魔女は答えた。
「子供が欲しいなら、不老不死を元の身体に戻さなければならないでしょう」
「そうすれば、子供が出来るのか」
「子供というのは、絶対にできるものでもありません。それこそ、星の数ほどの確率での奇跡が起きているだけですから。縁があれば、子供もできるでしょう」
アドルファスはその言葉を信じた。
自分で自分の『不老不死』を解除する薬を作った。
そして『不老不死』でなくなったアドルファスは、しばらくして、妻の身体に命が宿ったことを知った。
子供は双子だった。
だが、その子供をみる前に、アドルファスは命の火を消した。
『不老不死』になっていたが、もう身体は限界だったのだろう。『不老不死』を解いてからすぐに、身体は普通の人の何倍も早く老いていった。
そしてたった一年で、豊かだった髪は白くなり、顔の皺は深く刻まれた。鏡で自身を見たアドルファスは、自分の命の最期を悟った。
しばらくしてアドルファスは命を引き取った。
アドルファスは『ホムンクルス』には会えなかった。
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栗毛の男は、一度、話を止めた。
ルカは、複雑な面持ちで栗毛の男を聞いていた。
「アドルファスは結局、会いたい人に会えなかったんですね。そんなに頑張っても会えなかったなんて。、、でも、これは『おとぎ話』なんですよね?言い伝えのような」
「なんでそう思う?」
栗毛の男に尋ねられて、ルカはうぅんと唸る。
「『不老不死』とか、生命のない場所から命を造る『ホムンクルス』とか、人が手を出していい部分ではない。それは神の領域でしょう」
栗毛の男は、それを肯定した。
「そうだろうな。アドルファス死後、残された双子を巡って、多くの人間が争った」
「話はまだ続いていたのですか?」
「ここからは別の話だ。アドルファスの血を引いた、双子の一人の」
そして栗毛の男は、自嘲するように笑った。
「、、、、俺の話だ」




