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救い主達が静かにやって来る  作者: 五島伊織庵
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第六話 カルマ 二

 漸くはっきりと見える所へ来た三人が見たのは、左手にランプを持って何かを拾っている小柄な老人だった。頭からはフードを被り、全身を灰色のローブが覆っている謎の老人は、どうやら木の実を拾っているらしい。

「あ……あの?」

 ヘススが用心深く声をかけいると、その老人は実を拾っていた手を止め、三人の方を見る。

「おやおや、この時間に旅人か。どうなされたのじゃ?」

 白い髭が特徴的な老人は柔らかい口調で返し、全身がズタズタになっている三人を見てすぐさまそう言った。

「うむ。こいつはいかん。そなた達はみんな傷だらけではないか。この近くにわしの庵があるから、そこへいらっしゃるがよい」

 老人は目の前の道をランプで照らしながら歩き始め、三人も静かに馬を進めた。

 数分歩いたところで、老人の庵は月夜の下にぼんやりと現れた。木で建てられ、屋根には藁葺きが施されている。

「さて、中へお入り」

 老人が微笑みながらドアを開け、ヘススとライアンにリアは馬から降りて勧められるまま、庵の中へと入る。

 中は簡素な装飾になっており、部屋の中央には囲炉裏があって火が点されていて、隅には老人のものと思われる毛布が畳んで置かれている。しかし、その光景は三人の疲れ切った心を温かく癒やしたのである。

「立ったままではキツかろう。さあ、座りなされ」

 三人はカーペットを敷いた床に腰を下ろし、その瞬間、何とも言えない安心感を得た。

「今、薬を用意したから、どうぞ飲みなされ」

 老人が木を彫った器にさっきの実を潰して作ったと思われる赤い液体を入れて配り、三人がそれを飲むと、にわかには信じられない事が起こった。

 何と、三人の体中にあった傷が、いとも簡単に治ってしまったのである。

「き……傷が!」

「どうなってんだ?」

「嘘でしょ?」

 三人が目を丸くしているうちに、激痛も消えてしまったので急に体と心が楽になったところで、何だか空腹を覚えたのだった。

「さて。傷も癒えたところでお腹も空いたであろう。今、支度するからの」

 そう言って老人が何やら呪文を唱えると、驚いた事に目の前に温かい料理が現れたではないか。

 呆然とする三人に、

「どうなされた? 何をぼんやりしておるのじゃ? 遠慮は要らんから、どうぞ食べなされ」

 老人は催促した。

 信じられない思いでいっぱいだったが、空腹だった三人は勧められるがままに料理に貪りついたのである。

 もはや、マナーがどうのこうのなどと言っている場合ではない。

 三人は泣きながら次から次へと肉、魚、野菜にかぶりつき、その様子を、老人は慈しみに満ちた目で見ていた。

 やがて、全ての食事を終えた三人はすっかり疲れも消えたので、

「ありがとう、おじいさん。助かった」

「すまねぇ、飯も食わせてもらって」

「本当に、ありがとう御座います」

 老人に心から礼を述べたのである。

「うむ。喜んでもらえてよかった」

 老人も安心した口調で答えた。

 しかし、三人にはどうしてそうした奇跡が行えるのかが不思議でならなかった。

「何で、さっきみたいな事が出来るんだ?」

 ヘススが訊ねると、老人は余裕に満ちた笑みを見せ、次の通りに答えたのである。

「わしは長きに渡り、真理を悟るための修行を積んだ末、今の術を体得するに至ったんじゃよ。そしてまた、輪廻転生りんねてんしょうからも解脱したのじゃ」

 三人は何の事なのかさっぱり解らなかったが、みんなの表情を見た老人は、

「はて、ちと説明が難しかったかのう? では、少し解りやすい説明をして進ぜよう」

 と、次の話を始める。

「この世界は全ての生き物や物質を生み出す源として、『真理』と呼ばれる創造主がある。その姿は形ではなく、また何の言葉によっても表現出来るものではない、全てを超越した存在じゃ。真理に基づき人もまた生きるが、人生は一回きりで終わりではない。真理によるカルマの法則で、常に輪廻転生、即ち、生まれ変わりを繰り返しておる。生きている時の行いにより、転生した後の人生は大きく変わる。善を行えば善き人生を、悪を行えば悪しき人生を送る事になるのじゃ。前世でのカルマを消滅させ、人を霊的に進化させるのが真理の役割であり、カルマが消えない限り、人は迷いの世界で何回も生まれ変わり、カルマを消し去るための修行を続けるのじゃよ。

 因みにわしもかつてはそうじゃった。何万、何億回もの転生の末、全てのカルマを焼き清め、霊的なる進化を完全に遂げたと真理に認められ、輪廻転生から解脱したわしは、もう千年以上は生きておる。故に、ついさっきそなた達を癒した術を始め、様々なる力をも使い熟せる身となったのじゃ。試しに、ちょいと食後のデザートを出してみるかのう」

 老人が三人の前に右手を向けてまた何か呪文を唱えると、そこには美味そうなケーキが出現したではないか。ますます目を疑う三人だったが、

「いずれはそなた達も、わしみたいに術を使える身になるであろう」

 老人が微笑みながら諭すかの如く言い、三人はとりあえず出されたケーキを食べたのであった。

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